第二百二十一話
「さて……。そろそろ行こうか、皆?」
『はいっ!』
休憩が終わってアルハレムがリリアに膝枕をされた体勢から起き上がって仲間達に声をかけると、それに皆が喜色が浮かんだ声を揃えて答える。
アルハレム達がこの森に来た理由は隠れ里の猫又達に頼まれた仕事を行うためで、隠れ里の猫又達からの依頼を達成することが魔物使いの青年のクエストブックに記された新しいクエストであった。
猫又達に頼まれた仕事は、今までいくつものクエストを達成して九人の魔女を仲間にしたアルハレム達ならば達成は難しいことでは無く、今回のクエストは簡単なものと言えた。
「さあ、頑張りましょう皆! 今回のクエスト、絶対に成功させましょう!」
『………』
リリアが張り切った様子で仲間の魔女達に声をかけ、魔女達は同時に頷いて見せる。基本的に自分達の主であるアルハレムのこと以外あまり興味がなく、チームプレイがあるのかないのか分からない彼女達にしては珍しく一致団結した姿であるが、それには理由があった……。
「何しろ今回のクエストに成功すればアルハレム様にとって、そして私達にとっても必要な物が手に入るのですから!」
主であるアルハレム以上のやる気を見せて拳を握りしめながら力説をするリリア。
猫又達に頼まれた仕事とは、最近になって数が増えてきた魔物を退治して森にある数種類の山草を採取することである。そして猫又達はこの森の山草を材料にしてある薬草を調合するのだが、その猫又達が調合する薬こそがリリアを初めとする魔女達にとって重要であった。
「にゃ~。ツクモさん達、猫又一族秘伝の薬草ってば中々の人気でござるな」
「当然です。猫又さん達の薬草はアルハレム様の【生命】を回復してくれる唯一の手段なのですから」
『………』
ツクモの呟きにリリアが大真面目な表情で答え、他の魔女達も同じく大真面目な表情で頷く。そんな彼女達を見ながらアルハレムは疲れたよう言う。
「……あのな、一体誰のせいで俺の【生命】が減って薬草を必要としていると思っているんだ?」
「そ、そうよ。貴女達が毎晩毎晩お兄様に……あ、あんなイヤラシイことをしているのが原因なんでしょうが!? 少しは我慢したらどうなのよ!」
「我慢してるじゃないですか? いつもだったら私達魔女全員でアルハレム様にお相手してもらっていますけど、最近は一晩に三人か四人だけで他は全員我慢しているんですよ? それに、殿方を求めて肌を重ねるのは魔女としての本能なんですから」
顔を真っ赤にしながら兄に同意するアリスンの言葉にリリアが反論する。
魔女と呼ばれる存在はどの種族も女の子供しか産めず、そのため他種族の雄を誘惑して肌を重ねて子供を残そうとする本能が非常に強い。しかし、魔女は肌を重ねる時に相手の雄の【生命】を大量に吸い取ってしまい、普通の雄であれば二度三度肌を重ねれば【生命】を吸い尽くされて死んでしまう。
アルハレムは固有特性のお陰で常人の数倍の【生命】を持っていたため今までリリア達、仲間にした九人の魔女と肌を重ねても死なずにすんだのだが、流石に九人同時となると【生命】の消耗が尋常ではなく肌を重ねている合間に猫又一族秘伝の薬草を使って【生命】を回復する必要があった。
しかし毎晩のように使っていれば当然薬草の数は減り、ついにアルハレム達が猫又一族の隠れ里に着く数日前に彼らが持っていた薬草が底をついてしまったのだ。
そこに今回の薬草の材料となる山草を採取して欲しいという猫又達からの依頼である。
今回のクエストでリリア達魔女がやる気を出しているのは、つまり「そういう」理由があった。
「……まあ、とにかくやる気になってくれたからヨシとしとくか」
たとえ理由がなんだとしても仲間達がやる気になったのはいい事だと思ったアルハレムは、複雑な気持ちのままため息混じりに呟いた。




