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第二百十八話

「アルハレム様、そしてお仲間の皆様。ヒスイ様を助けていただいた上に、この隠れ里までお連れくださった事を心から感謝します。ツクモもお役目ご苦労様でした。猫又一族の悲願を果たしてくれた貴女を私は誇りに思います」


「は、はい。お誉めのお言葉、光栄にござる」


 ヒスイと同じ顔をしている霊亀の魔女達に驚いているアルハレム達に、霊亀の魔女達と同じ場所に座っている金色の髪を短く切り揃えた猫又が話しかける。その猫又の魔女は十代前半くらいの外見でツクモやニタラズに比べるとずっと若く見えるのだが、返事をするツクモの反応からこの隠れ里で重要な地位にいるのが分かる。


「申し遅れました。私、この隠れ里の長老を務めていますヤソヤと申します」


「ちょっ、長老?」


「ウソ……」


 金髪の猫又、ヤソヤの挨拶にアルハレムとアリスンは思わず声を上げて驚く。しかし驚いているのは人間の兄妹二人だけで、リリアを初めとする魔女達はさほど驚いてはいなかった。


 魔女は生まれて一年程で成人の姿となり、それからは死ぬまでその姿のままで生きていく。それが魔女達の常識なのであるからだ。


「あっ……。すみません。失礼なことを言って」


「ふふ……。いえ、気にしてませんよ。確かに私は他の者達と比べて幼い外見をしていますからね」


 アルハレムが失礼なことを言った事を謝るとヤソヤは上品な笑みを浮かべて許してくれた。姿こそは子供のような若い姿なのだが、その落ち着いた対応はやはり隠れ里を治める長老のものであった。失言を許してもらった魔物使いの青年は、これをきっかけに聞いておきたかったことを猫又達の長老と十二人の霊亀達に聞くことにした。


「ありがとうございます。……あの、それで一つ皆さんにお聞きしたいことがあるのですけど」


「聞きたいこと?」


「それは何ですか?」


「はい。霊亀の魔女の皆さんはヒスイをどうするのですか? やっぱりこの隠れ里で生活をさせるのですか?」


「………!」


 ヒスイは生まれてすぐにエルフ族に拐われて百年以上ダンジョンの中で囚われていた。だからこうして家族の元に帰ってこれた以上、これからは家族と一緒に生活したらいいとアルハレムも思うのだが、今まで共に旅をしてきた仲間のことであるためどうしても聞いておきたかった。


 ようやく家族と再会できて緊張しながらもどこか嬉しそうにしていたヒスイも、もしかしたらこれでアルハレム達と別れてしまうかもしれないと気づいた途端、その表情を強張らせた。


 しかし霊亀の魔女達とヤソヤの反応はというと……。


「それはヒスイと貴方達次第ですね。ヒスイがこの隠れ里で暮らしたいのであれば歓迎しますし、旅を続けたいのであればどうぞこのままお連れください」


「それにアルハレム様はヒスイ様の主であるとツクモからの報告で聞いていますからね。主従は共にある方が良いでしょう」


 と、いったアッサリとしたものでこれにはアルハレム達全員が面食らってしまい、リリアが思わず訊ねる。


「え……!? それでいいんですか?」


「ええ、構いませんよ。見たところ皆様は腕に覚えがあるように見えますし、皆様と一緒であればヒスイも安全でしょう。……それに、皆様達は百年前にヒスイがどの様に拐われたのかご存知ですか?」


「いえ、知りませんけど……?」


 霊亀の魔女達はリリアの言葉に答えると、百年前にヒスイが拐われた時のことを語り出した。


「百年前にヒスイを拐っていったエルフの一族……それは子を作る相手となってもらうために私達自身が隠れ里に招き入れたのです。私達霊亀は永い時を生きるとはいえ、それでも子を作らないわけにはいきませんからね。百年前の私達は、エルフの中でも長い交流を持つ信頼のできる一族を招き入れたつもりでしたが、結果としてそのエルフの一族は私達を裏切って隠れ里を攻撃し、その隙に生まれて間もないヒスイを拐っていったのです」


 そこまで言うと霊亀の魔女達は当時の事を思い出したのか悲痛な表情を浮かべ、次にヤソヤが話し出す。


「その様な過去がある為、少なからず外との交流を持つこの隠れ里は必ずしも安全とは言えません。それでしたらヒスイ様を皆様に預けても同じだと思います。それにアルハレム様はヒスイ様と仲がよろしいようですし、魔女と子を作るに有利な殿方の側にいるのは私達としても喜ばしい事です」


「う……! それは……」


 ヤソヤの意味ありげな笑みに言葉を詰まらせるアルハレム。どうやらツクモは魔物使いの青年がほとんど毎晩、僕にそた魔女達と肌を重ねていることをしっかりと報告していたらしい。


「そのような訳でヒスイをここに置いていくか旅に連れて行くかは、貴方達の判断に任せます。……ですが、出来ることならばしばらくはここに留まってはもらえませんでしょうか?」


「それでしたら構いません。皆もそれでいいよな?」


 アルハレムが霊亀の魔女達の頼みに頷いて答えると他の女性陣も同じように頷き、それを見た霊亀の魔女達は嬉しそうな微笑を浮かべてヒスイを見た。


「ではヒスイ。今夜は貴女が今日までどの様な旅をしてきたのか、私達に聞かせてもらえませんか?」


「はい。喜んで」


 微笑を浮かべる霊亀の魔女達にヒスイもまたその表情に心から嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。

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