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第二百十一話

「すぅー……、はぁー……」


 レンジ公国でダンジョンを攻略してクエストを達成した日から数日後の朝。飛行船の一室で目を覚ましたアルハレムはすぐに、ベッドに備わっている小物入れから煙管を取り出して火をつけ、それに口をつけると煙を吸い込んで息を吐いた。


 アルハレムがこの煙管を使って喫煙をするのはもはや朝の日課となっていて、煙管に火をつける動作も今では手慣れたものとなっていた。


 肺を満たす煙の香りがさっきまで鼻孔を支配していたむせるほど甘ったるい香りを打ち消していき、まだ若干ぼんやりしていた意識がハッキリする。意識がハッキリしたところでアルハレムがベッドの上を見てみると、十人以上の人間が同時に眠れる巨大なベッドには彼の他に十人の女性達が横になっていて、巨大なはずのベッドはもう人が眠れるスペースがないほどだった。


 しかもアルハレムはこの一緒のベッドで眠っている十人の内、リリアを初めとする九人の魔女達と昨夜も肌を重ねており(残る一人はアリスン)、その証拠に彼を含めたベッドの上にいる十一人は全員何も身に付けていなくて若干の汗をかいている。


「このハーレムの生活にもすっかり慣れてしまったな……」


 煙管を吸いながらアルハレムが一人苦笑する。


 彼の言う通り、九人の魔女達と肌を重ねてその翌朝には優雅に喫煙をしているその姿は、どこかの王族のハーレムそのものだろう。しかも今ベッドの上で眠っているのは滅多に見られない美女揃いで、世の男達がこの光景を見たらこれ以上ないくらい嫉妬をしてから「俺と代われ!」と叫ぶことだろう。


 リリア達が魔女で、普通の人間ならば肌を重ねれば間違いなく死ぬと分かっていても、思わず求めてしまう麻薬のような色香が彼女達からは漂っていた。だからこそ魔物使いの青年も毎晩命の危険を犯しても懲りることなく魔女の僕達と肌を重ねているのだった。


「それにしても……」


 アルハレムは自分の隣、裸体をシーツで包んで眠っている自分の妹、アリスンを見る。


「こいつは一体どうしたんだ?」


 アリスンは当然アルハレムと肌を重ねてはいないが、昨夜この妹は彼が魔女と肌を重ねている間に他の魔女の胸や股間に手を這わせて、それによる反応を明らかに楽しんでいた。その時の彼女の表情を思い出して魔物使いの青年は自分の妹の将来が少し不安になった。


「うう~ん……。アルハレム様、おはようございます」


「……ふにゃ。アルハレム殿、おはようでござる」


 アルハレムが自分の妹の寝顔を眺めながら考えていると、リリアとツクモが目を覚まして自分達の主人に挨拶をした。


「アルハレム様はいつも早いですね。毎晩あれだけ『運動』をしたというのに」


「そうでござるな。もう少しゆっくり寝ていても別にいいと思うでござ……あり?」


 リリアの言葉に頷くツクモだったが、猫又の魔女は主人である魔物使いの青年が持っている煙管を見て何かを思い出したような声を上げた。


「どうかしましたか? ツクモ?」


「にゃー……。いや、実は今アルハレム殿が吸っている煙管でござるが……それに入れる薬草がもうないのでござるよ」


「………!?」


 ブハッ☆


 ツクモの言葉にアルハレムは思わず吸っていた煙を吐き出して驚きを表した。


 アルハレムが吸っている煙管の煙は単なる煙草に火をつけた嗜好品ではなく、ツクモの一族秘伝の薬草に火をつけて生じさせた、魔女達との交わりで消費した【生命】を回復するための一種の薬なのである。それの薬草が尽きたというのは魔物使いの青年にとってとても無視できることではなかった。


「え? あの、ツクモさん? この煙管の薬草が切れたって本当ですか?」


「残念ながら本当でござる。いやー、まさかこんなに早く薬草がなくなるとはツクモさんにも予想外だったでござるよ。まあ、これだけ仲間の魔女が増えて毎晩肌を重ねていたら薬草の消費量も馬鹿にならんでござるからな。にゃはは♪」


「………」


 笑いながら言うツクモだったが死刑宣告されたような気分のアルハレムは笑うどころか何も言う気力がなかった。そんな主人を見かねたのかサキュバスの魔女が猫又の魔女に話しかける。


「ツクモ。何とかならないのですか?」


「にゃー……。そうは言ってもこればっかりはツクモさんにもどうにもならんでござるよ。まあ、次の目的地はツクモさんの故郷でござるからな。それまでの辛抱でござるよ」


 ツクモの言う通りこの飛行船は今、アルハレムのクエストブックが新たに記したクエストの目的地、ツクモの故郷である猫又の隠れ里に向かっているところであった。


「はぁ……。それしかないか……」


 アルハレムはツクモの言葉に深いため息を吐いた。

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