第二百一話
「はぁ……。平和だな……」
アルハレムは飛行船エターナル・ゴッデス号の甲板の上で横になり空を見上げながら呟いた。
レンジ公国にある塔のダンジョン「見上げる者達の塔」の最上階でアニー達と相対した日からすでに三日が過ぎていた。あの日アルハレム達はエリクサーを手に入れてクエストを達成するとエターナル・ゴッデス号に乗り込み、逃げるように次の目的地へと旅だったのだ。
その際、アニーが「次に会った時は容赦しないから! 今日の屈辱も含めてまとめて復讐してやるんだから!」と叫んでいたのだが、それは全員が無視して忘れることにした。
顔を会わせれば暴言しか言わずトラブルばかりを呼び寄せるエルージョの勇者から解放されたアルハレムは、全てのものを慈しむような爽やかな表情で呟く。
「本当に平和だな。……それにこうして一人でボーッ、とできるのも久し振りなような気もする」
「一人ではありませんよ」
アルハレムの呟きに腰に差してあるインテリジェンスウェポンのロッド、アルマが短く反論する。
「アルマ。……そういえばお前がいたな」
「はい。マスターは私達の中心である方です。それを護衛もつけずに一人だけにするだなんてできるはずがありません。以前のように拐われたりしたらどうするのですか?」
ロッドの柄尻にある宝玉からアルマの苦言が聞こえてくる。彼女が言う以前とは、今は仲間のセイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドに捕まって、この飛行船に連れ去られた時のことである。
……ちなみにその時にもこのインテリジェンスウェポンの魔女は、アルハレムと一緒にいてまとめて拐われてしまったのだが、魔物使いの青年はその事に触れないでおくことにした。
「……今更だけど俺って、皆に守られてばかりだよな」
「本当に今更ですね。しかし私を初めとする仲間達が全員魔女か戦乙女でマスターより強いのは事実ですし、マスターがこのパーティーのリーダーというよりはパーティーのマスコット、お姫様ポジションなのも事実なのですから仕方ないのでは?」
「……」
話題を変えようとして何気無く言った一言をアルマに返されて、アルハレムは渋面を作って起き上がると船内へと歩いていく。
「マスター、どちらへ?」
「レムの所。特訓用の魔物を作ってもらう」
インテリジェンスウェポンの質問に魔物使いの青年は歩きながら答える。
アルハレムだって自分がパーティーで一番弱いことぐらい認めている。だがそれでも彼にも男としてのプライドがあり、「お姫様ポジション」と言われて黙っていられるはずがない。
今特訓してもすぐに成果が出ないことぐらい分かっていても何もしないわけにはいられず、アルハレムはこの飛行船を操るゴーレムの魔女の元へと向かうのであった。
文章が思い浮かばず昨日は更新できず本当にすみませんでした。
ネタ捜しのために昨日、この作品を読み返してみたところ、アルハレムが各魔女と絡んでいる場面が全くないことに今更ながら気づき、しばらくは主人公と各魔女が絡む話を書こうと思います。