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第二百話

「ハァ……ハァ……。これぐらいやれば、しばらくは起きないだろう……」


「ゼェ……ゼェ……。そ、そうだな……」


 荒い息をつきながら言うバドラックに同じく荒い息をつくアルハレムが答える。二人の視線の先には今まで自分達が猛攻を加えていたマゾ騎士……もとい、マルコの姿があった。


 女性に虐められることで快感を得る性癖を持ち女性の攻撃には高い耐性があるマルコであったが、流石に男の攻撃は普通に効くようで、アルハレムとバドラックの攻撃により気絶させることができた。


 気を失ったマルコは床に倒れて……はおらず、ヒスイが作り出した結界の見えない壁に上半身をもたれかかるような姿で白目をむいており、その不気味なオブジェと化したエルージョの騎士をリリアを初めとする女性陣は誰一人として目を向けようとはしなかった。……非常にもっともな対応である。


「フゥ……フゥ……。あの……バドラック、さん?」


 アルハレムは呼吸を整えるとバドラックに声をかけた。


「ん? 何だよ?」


「今まで……大変だったんですね……」


 バドラックに同情するような視線を向けて労るような声をかけるアルハレム。


 実力があり、実績を出したせいで自由気ままな探検家から堅苦しい騎士にさせられ、そのあげくがはた迷惑な勇者アニーと一見マトモだが変態の騎士マルコに振り回される日々。それがどれだけの苦痛であったか想像するだけで涙が出そうだった。


 そしてそう考えたのはアルハレムだけではなく、彼の仲間達も同様に優しい表情をバドラックへと向ける。


「アルハレム様の言う通りです。バドラックさん、貴方は本当に凄いお方です」


「………」


「う、ん。貴方、自分、誇って、いい」


「そうでござるな。耐えがたきことを耐えるその苦行、中々できることではごさらぬ」


「あ、あのさ……。その女の所が嫌になったら、いつでも私達の実家、マスタノート領に来たら? 貴方ぐらいの人だったら皆、歓迎してくれると思うし」


「これからも辛いことがあるかも知れませんが、どうか負けないでください。それとその結界、後十分くらいで自然に消えますから」


「(……御武運をお祈りします)」


「貴方のような勇敢な方には是非私のダンジョンにも挑戦してもらいたかったのですが……少し残念です」


「んー? まあ、アンタ、人間にしたら結構マシな方じゃない?」


「そうだね。ま、これからも頑張りなよ」


「お、お前ら……!」


 リリア、レイア、ルル、ツクモ、アリスン、ヒスイ、アルマ、レム、シレーナ、ウィンと次々に励ましの言葉を送られてバドラックは口元に僅かな苦笑を浮かべて顔を背けた。


「……ハハッ。俺もヤキが回ったな。こんな小僧達に手も足も出せず、しかも励まされるとは……。だが、まあいい。今回は俺の負けだ。そこにあるエリクサーはお前達のものだ」


「……って、ちょっとぉ!? 何、敗けを認めていい感じで終わらそうとしているのよ! 私は負けてなんかいないからね! 貴方達、この結界とやらを今すぐ消しなさいよ! それでそのエリクサーを懸けて……て!? 聞きなさいよ! 何、聞こえてないフリをしているのよ! ……ねぇって、聞きなさいよ! 聞いてよぉ!」


 今まで話についていけず黙ってアルハレム達とバドラックの会話を聞いていたアニーだったが、流石にバドラックが敗けを認めるのは許容できずに声を張り上げた。しかし今この場にいる全員、アルハレム達だけでなくバドラックでさえも、エルージョの勇者の声に耳をかそうとしなかった。

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