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第百九十話

「何をグズグスしているんだ? さっさと行くぞ」


 塔のダンジョンの上層部で階段を上っていたバドラックは立ち止まって後ろを振り向くと、少し離れて階段を上っている二人の同行者に声をかけた。


「ちょっと……待ちなさいよ……。バドラックが……早すぎる、のよ……」


 バドラックに声をかけられてアニーが息を荒くしながら答える。その隣にいるマルコも戦乙女の勇者ほどではないが体力を消耗させているようで呼吸を乱していた。


「ったく。何甘えたこと言ってんだよ? 早くしないと日が暮れるぞ」


 それだけ言うとバドラックは階段を上るのを再開し、その背中を信じられないといった顔で見ながらアニーは呟く。


「……何であんなに元気なのよ、アイツ?」


「そうですね。昨日は私達の倍以上は動き回ったというのに……」


 アニーの呟きにマルコが同意をする。


 彼らがこの短期間でここまで上の階に上ることができたのは、全てバドラックの活躍によるものであった。


 バドラックはまるで頭の中に地図でもあるかのように一階の広場の天井に印されていた罠の位置を記憶して、危うく罠を発動させそうになったアニーとマルコに注意を飛ばしながら全ての罠を回避した。そして時間が経って罠の位置が変わると、自分一人だけであえて罠を発動させて一階に戻り、罠の位置を再確認してから上にいるアニー達と合流してみせたのだ。


 挑戦者の集団の中にも二手に別れて一方が一階に戻って、罠の位置を再確認してから上に残った仲間達と合流するという手段をとる者達がいた。だがバドラックの合流するまでの時間は、他の挑戦者達を遥かに上回るものであった。


「でもこの調子で行けばアイツらより先に最上階まで行けそうね」


 アニーが言うアイツら、というのは言うまでもなくアルハレム達のことである。


(このダンジョンを攻略してエリクサーを手に入れたら精々自慢してあげるわ。中央大陸の時はあんな卑怯な手で私を倒したアイツら……今度は私の勝ちよ)


「……それはどうだろうな」


「え?」


 自分の勝利を確信して口元に笑みを浮かべるアニーであったが、そんな彼女にバドラックが階段を上りながら振り向きもせずに声をかける。


「あんまりアルハレム達を甘く見ない方がいいと思うぜ? 油断していたらいつの間にか追い越されていた、なんてこともあり得るかもしれないからな」


 そう言ってバドラックは先日アルハレム達と一緒に酒を飲んだ時に感じたギルシュの勇者の印象を思い出す。


(アイツは貴族や騎士と言うより俺と同類の人間だ。成果を出しても生きて帰らなければ意味がない。成果を出して生きて帰るためなら、どんな手段でもとるって感じだった。そんな奴がこのまま何もしないってはずがないだろうな)


「でもバドラックさん? そうは言いますけど私達、このダンジョンに入ってから一度もアルハレムさん達の姿を見ていませんが?」


「そうよ。それに最上階に今一番近いのは私達なんだから、今さら追い付くはずが……え?」


「「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」


 マルコとアニーがバドラックに向かって話をしていた時、突然塔の外から鳥のようで獣のようでもある鳴き声が、それも複数聞こえてきた。その鳴き声はアニー達も聞き覚えがある、このダンジョンに出現する魔物の鳴き声であった。


「何だ? 一体何が起こってやがる? ………っ!?」


 バドラックは近くにある窓から外の様子を見るが、そこにあった光景に目を大きく見開いて絶句する。


 エルージョの騎士が見た光景、それは鳥に似た姿をしたダンジョンに出現する魔物の群れが、空に浮かぶ巨大な船に向かって襲い掛かるというものであった。

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