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第十七話

「はい、できましたよ」


 ラミアを仲間にしてから少しした後。アルハレム達は少し遅い夕食をとることにした。


 リリアは自分がしとめた熊の死骸から肉を切り取ると焚き火で焼き、ちょうどよく焼けた肉をアルハレムに手渡す。


「ああ、ありがとう。……ん、美味いな」


「本当ですか? それはよかったです♪ では私はまず、このお酒の方から……あー、確かに強いお酒ですね。でも美味しいです♪」


 新しくエールボールで作った酒を一口飲んだリリアは一瞬顔をしかめるが、すぐに美味そうに酒を飲んでいく。どうやら彼女も酒は嫌いではないようで、それを見て安心するアルハレムだった。


「気に入ってくれてよかったよ。それでそっちの方は……気に入っているようだな」


 アルハレムはラミアに視線を向ける。仲間になったばかりの下半身が蛇の魔女は、まったくの無表情で酒を飲んでツマミに焼いた肉を食べているのだが、よく見ると下半身の蛇の尾の先端が揺れている。おそらくは彼女の感情を表現しているのだろう。


「そういえば君、名前はなんていうの?」


「………?」


 ラミアに名前を聞いてみたアルハレムだったが、当の本人は何を言っているのか分からないといった目で主である魔物使いを見返してきた。


「いや、だから名前だよ。名前。君の名前を知らないとこの先不便だろう?」


 もう一度アルハレムがラミアに名前を聞こうとするとリリアが手を上げて口を開いた。


「あのー、アルハレム様? 魔女、というか魔物には名前をつけるという風習がないから聞いても分からないと思いますよ?」


「え? そうなのか? でもリリアと君の母には名前があるじゃないか?」


「私は生まれ育った環境が他とは違いましたからね。お母様は人間に名前を与えられたって言ってましたよ。ほら、あるじゃないですか? 長く生きた強い魔物が人間から強さや地名にちなんだ名前をつけられるって話。それですよ」


 リリアが例えに出した話はアルハレムは聞いたことがあった。確かに昔話や物語に登場する強力な魔物が、その戦いぶりや根城にしている地域に関係した異名で呼ばれるのはよくあることであった。


「あとこの子、生まれてから一年と少しくらいしか経っていないみたいですし、多分名前の意味も分かっていないと思いますよ?」


「へぇ、そうなんだ……て! 生まれてから一年と少し!?」


 アルハレムはリリアが何でもないように言った呟きに思わず驚いた表情になってラミアを見る。


「………♪」


 相変わらず我関せずといったふうに酒の味を楽しんでいるラミアは、どこから見てもアルハレムやリリアと同じくらいの年齢にしか見えなかった。


「……とてもそうには見えないんだが?」


「魔女は生まれて一年くらいで成人した姿になって、それからは寿命で死ぬまでその姿のままでいるんですよ。そうして魔女は早い段階から他種族の雄を誘惑して子孫を残そうとするんです。……まあ、でもどういうわけか魔女って中々子供ができないんですけどね」


(それはそうだろうな……)


 リリアが最後に言った言葉にアルハレムは納得して頷いた。生まれて一年で成人の魅力的な女性の姿となり輝力を扱える強力な魔物、魔女。これが他の種族と同じ速度で子孫を残すことができれば、今頃は魔女の勢力はずっと大きくなっていただろう。


「まあ、魔女の体質と名前がない理由は分かったが、俺達と行動するなら名前がないとやっぱり不便だよな?」


「それもそうですね。ではアルハレム様が決められてはどうですか?」


「俺が? 勝手に名前なんか決めていいのか?」


「いいんじゃないですか? だってホラ……」


「………」


 リリアの視線の先では先程からまったく会話に参加していなかったラミアが、いつの間にか空になっている酒を入れるのに使っていた鍋を寂しそうに眺めていた。


「見てのとおりこの子、名前とかにまったく興味なさそうですし、こちらで勝手に決めても問題ないでしょう?」


「コイツ、今までずっと酒を飲んでいたのかよ? 仮にも自分に関することなのに……というか、まだ飲み足りないのか?」


「ラミアですからね。仕方ありませんよ」


「……ああ、そう」


 今までのラミアの行動からアルハレムはリリアの言葉に納得すると同時に、人間と魔女との価値観の違いを少しだけ理解したような気がした。


「それでこの子の名前、どうします?」


「そう、だな。……レイア、というのはどうかな?」


「レイア、ですか。ええ、いいと思いますよ♪ 貴女、レイアもそれでいいですよね?」


「………」


 アルハレムが決めた名前でリリアが呼ぶが呼ばれたラミア、レイアは相変わらず何の反応も見せず、ただ空になった鍋を見つめていた。


「……アルハレム様。エールボールを」


「分かっている」


 アルハレムが荷物袋から新しいエールボールを取り出してレイアの元に持っていくと、エールボールの匂いを嗅ぎ取ったのかレイアは凄い勢いで首をアルハレムの方に向けた。


「………!」


「本当に酒が好きなんだな。……まあ、いいか。君の名前は今からレイアだ。俺達がレイアと言ったら君のことを呼んでいるってことだから。理解したな? 理解したのだったら、これでまた酒を作ってやる」


「………! ………!」


 エールボールを見せながら言うアルハレムに、レイアは高速で首を何度も縦に振り、こうして新しく仲間になったラミアの名前が決定したのだが……、


(コイツ、単純というかなんというか……大丈夫かな?)


 目を輝かせながら自分の持つエールボールを見るレイアにアルハレムは正直不安を感じるのだった。

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