第百七十四話
「あ、アニーじゃないか……。ひ、久しぶりだな?」
「え? 貴方、私のことを知っているの? 何処かで会った?」
エルージョにいるはずのアニーと大陸が異なる国で思わぬ再会を果たしたアルハレムはひきつった笑みを浮かべながら挨拶をするが、挨拶をされた戦乙女の方は魔物使いの青年のことを覚えていないようであった。
(俺のことを覚えていない? ……そう言えばコイツ、以前に再会したときも最初は俺のことを忘れていたな。……だとしたら)
「………」
「我が夫。彼女、知り合い?」
「……いいや、俺の勘違い。他人の空似だったみたいだ。皆、あっちの方に行こうか? 貴女もぶつかってすみませんでした。俺達はもう行くのでそれでは」
レイアとルルに訊ねられたアルハレムは、他人を知り合いと間違えたフリをして、仲間達に別の場所に行こうと呼びかけた。
(アニーが俺を忘れているなら好都合……! コイツと関わり合いになるとろくなことにならないからな。何でコイツがこの国にいるかは気になるけど、今は一刻も早くここから立ち去ろう)
そう考えるアルハレムの脳裏にアニーと初めて会った時と、以前に再会した時の記憶が蘇る。初めて会った時は酒に酔った勢いで、以前に再会した時はその傍若無人な性格によってこの戦乙女の女性に戦いを挑まれた魔物使いの青年は、これ以上彼女に関わりたくなかった。
「にゃ? アルハレム殿、よろしいのでござるか?」
「お知り合いではないのですか?」
「お兄様が他人の空似だって言うのだったら、そうなんでしょ? ほら、早く行くわよ」
「そうですわね。ほら、急ぎましょう。私達にはやるべきことがあるのですから、こんな所で道草を食っている暇はありませんよ」
アルハレムの態度にツクモとヒスイが首を傾げるが、アリスンとリリアが魔物使いの青年の意見を支持して皆を先に急がせる。
アリスンは単に兄にこれ以上女性を近づけたくなかっただけだが、以前にアニーと会ったことがあるリリアはアルハレムの考えを察して協力をしていたのが魔物使いの青年には分かった。
(よし! ナイスだ。リリア、アリスン。後はこのままアニーから離れれば……)
「……ん? あー!? 貴女って、あの時のサキュバスの魔女!?」
このままいけば無事にこの場から離れられると思ったアルハレムだったが、突然アニーがリリアを指差して叫ぶ。それを聞いて魔物使いの青年はこれから厄介ごとが自分達に起こるのを予感するのだった。




