第百七十二話
イアス・ルイドの大陸は遥か上空から見下ろせば二重丸のような形をしている。
二重丸の内側にある円形の大陸は「中央大陸」といい、「ギルシュ」「エルージョ」「ゴライノス」「アスル教国」の四ヵ国によって統治されおり、この四ヵ国には住んでいるのはヒューマン族がほとんどで文化も似通っているという特徴があった。
それに対して中央大陸と大河を挟んで二重丸の外側にある輪の形の大陸は「外輪大陸」と呼ばれ、こちらは各地に百を越える国家があり、ヒューマン族以外の多種族も多く暮らしていて国によって多種多様な文化が見られた。
これはかつて中央大陸で栄華を極め、今から二百年ほど昔に滅んだとされる大国がヒューマン族を至上とする主義を掲げていて多種族を迫害していたという過去によるものだった。大国の迫害から逃れるために外輪大陸に移った多種族が、今の外輪大陸にある百を越える国家の原型を造った言われている。
そしてそんな無数にある外輪大陸の国の一つ、ギルシュの西方に位置する「レンジ公国」。その国の外れにある森に深夜、巨大な影が空から降りてきた。
月と星の明かりを浴びながら森に降りてきた巨大な影は船の形をしており、船の影は森の中にある湖の上に停止をすると、甲板から地面にまで届く階段が伸びた。そして階段が地面に届くと甲板から十人以上の影が現れて階段を降りだした。
「都合よく開けた場所があってよかったですね」
「ああ。お陰で人目につかずにこの国にこれた。そして……」
階段を降りる影のうちの一人が先頭で階段を降りる影に話しかけると、先頭の人影は一つ頷いて答えてから空を見上げる。その視線の先にはここから遠く離れた地に建つ山よりも高い「塔」の姿があった。
「あれが俺達の目的。この国が建国されるよりも昔からこの地にある『ダンジョン』だ」
先頭を歩く人影、アルハレムは彼方にそびえ立つ塔、自分達がこれから挑む予定のダンジョンを見ながら呟いた。




