第百七十話
「それではミナル子爵。お世話になりました」
ゴーレムの魔女を初めとする三人の魔女を仲間にした次の日。アルハレム達はクエストブックのクエストに挑戦するために、ダンジョンがある外輪大陸の地に旅立とうとしていた。
「それにミナル子爵には仲間達がご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「はっはっはっ。そんなことはありませんよ。こちらこそ大して勇者であるアルハレム殿のお力になれずに申し訳ない」
頭を下げて礼を言うアルハレムにミナル子爵はやつれてはいるが爽やかな笑顔で返事をする。その笑顔からは厄介事から解放されたといった感情が出ており、それを感じた魔物使いの青年は仲間達が自分がいなくなったことでどれだけ殺気立ち、どれだけ目の前の領主に心労を与えたかを察して胸の中でもう一度頭を下げた。
「……では俺達はこれで。レム、準備はできているか?」
アルハレムはミナル子爵にそう言うと、次に自分の後ろにいる昨日仲間にしたゴーレムの魔女に声をかけた。
レム、というのは名前がなかったゴーレムの魔女にアルハレムがつけた彼女の名前である。
「はい、ご主人様。仲間の皆さんも全員乗り込んでいますし、エターナル・ゴッデス号はいつでも出航できます」
アルハレムに声をかけられてゴーレムの魔女、レムは元気よく答える。
「そうか。それじゃあ、早速行くとするか」
「ええ。行きましょう、ご主人様」
アルハレムがレムと一緒に今では自分達のだけの乗り物となった飛行船のダンジョン、エターナル・ゴッデス号に乗り込むと、飛行船エターナル・ゴッデス号はゆっくりと空に浮かび上がってその様子をミナルの街の住民全てが見上げていた。
「……やっぱり、思いっきり注目されているな」
船内の窓からこちらを見上げているミナルの街の住民達を見ながらアルハレムは呟くが、それも仕方がないと考える。
「何しろ怪談として恐れられていた『さまよえる幽霊船』が昼間に堂々と街中に現れて、しかもその正体が女神イアスが創造したダンジョンだって知ったら驚くよな……」
「さまよえる幽霊船……。確かに今まで当船はその名前で呼ばれて人々に恐れられてきましたがこれからは違います。これからはギルシュの勇者であるご主人様と一緒に大活躍をして、長年当船につきまとっていた悪評を改善してみせます!」
アルハレムの言葉を聞いていたレムは握り拳を作ると背後に炎が見えるくらいの意気込みを見せる。
「そうだな。これから宜しく頼むよ。……それで他の皆は何処にいるんだ?」
「皆さんですか? 皆さんでしたら大部屋の一つを全員で眠る寝室に改装していますよ」
「………何?」
レムに質問したアルハレムはゴーレムの魔女の返事にあった「全員で眠る寝室」という言葉を聞いて顔をひきつらせた。
大勢の魔女を仲間にしているアルハレムが、夜に魔女達と肌を重ねて生命力を初めとした色々を搾り取られるのはいつものことであるが、九人の魔女と一緒に眠るというのは流石の魔物使いの青年でも生命の危険を感じるものであった。
「え? 全員で眠る寝室? この船って部屋がたくさんあるんだから、全員個室で寝ればいいんじゃないのか?」
「……あの、ご主人様? 今更ご主人様に『一人で眠る自由』というのがあると思っていたのですか?」
「………ハイ、ソウデスネ」
無駄な抵抗だと思いながらも反論を試みたアルハレムであったが、レムの皮肉ではなく純粋に疑問を口にする表情で言われた言葉にアッサリと撃沈してしまった。




