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第十六話

「………!」


 バッ!


「うわっ!?」


 アルハレムが酒の入ったコップを差し出すのと同時にラミアは彼の手からコップを奪い取る。そしてそのまま酒を一口飲むと、下半身が蛇の魔女はコップから口を離して、まさに至福といった表情で色っぽい息を漏らした。


「………♪」


「え? この酒ってそんなに旨いのか? ……ぶっ!?」


 あまりにも美味しそうに酒を飲むラミアの様子に、アルハレムも自分の手に持ったコップの酒を飲むのだが、飲んだ途端に吹き出しそうになった。


 酒を口に含んで最初に感じたのは鼻の奥を刺激する濃厚な果物の香り、次に酒特有の苦み、最後に予想を遥かに越える強さの酒精が喉を焼く感覚。


 味は良いには良いが、間違っても一気に飲むものではない。そうアルハレムが思っていると……。


「………♪」


 いつの間にかラミアが自分の分の酒を飲み干して幸せそうな顔をしていた。


「も、もう飲んだのか? 流石蛇、うわばみだな……」


「………」


「あ、おい!」


 ラミアが鍋の酒を汲もうとするのを見て、このままだと全て飲まれると思ったアルハレムが止める。


「待てって。これはリリアも飲むかもしれないんだから、全部飲むなって」


「………」


「え? な、何を!?」


 アルハレムが止めるとラミアは彼の体にしなだれかかって、熱っぽい視線で見上げてきた。その視線の意味は「そんなこと言わないでもっと頂戴? ね?」といったところだろうか?


「い、いや、だから……」


「………」


 渋るアルハレムにラミアが更に体を密着させてその豊かな乳房を押し付けようとしたとき……、



「この泥棒猫! じゃなくて泥棒蛇ー!」



 夜空から聞き覚えのある女性の怒声と共に巨大な何かが降ってきて地面と激突する轟音が起きた。


「な、何だ!?」


 アルハレムが轟音のした方がした方を見ると、まず最初に目にはいったのは通常の二倍くらいはある巨大な熊の死骸。そしてその熊の死骸の上に浮かぶのは、怒りに燃える一人のサキュバスだった。


「り、リリア? お、俺は何もやましいことは……」


 明らかに怒っているリリアを前にして何故か言い訳を始めるアルハレムだったが、彼女はそんな彼を気にせずにラミアに鋭い視線を向ける。


「こんの野良ラミアが~! 誰に断って人の……じゃない、サキュバスの主に色目を使っているんで……って! 聞きなさぁい! ソコ!」


「え?」


「………♪」


 怒鳴るリリアが指差した先には、アルハレムもリリアも完全に無視して鍋の酒を飲むラミアの姿があった。


 ☆★☆★


「……つまりはアルハレム様が私のためにお酒を用意してくれたら、そのお酒の匂いに惹き付けられてラミアがやって来たと……。つまりそういうことですね?」


「ああ、そうだ」


「なるほど」


 その後。怒りがおさまったリリアはアルハレムから事情を聞くと納得したように頷いた。


「………それにしても」


 リリアは我関せずといった態度で酒を飲み続けているラミアを見てわずかに考えた後にアルハレムと目を合わせる。


「アルハレム様。そのエールボールはまだありますか?」


「ん? あるけどこれをどうするんだ?」


「ではアルハレム様。あのラミアをアルハレム様の僕にしちゃいましょう♪ 大丈夫。仲間になればお酒をあげると言えば簡単に仲間になってくれますよ♪」


「はい?」


 リリアの予想外の言葉にアルハレムは思わず聞き返した。


「何を言っているんだ? いくらなんでも酒だけでラミアが仲間になるはずないだろ? それにリリア。お前、あのラミアが俺にくっついていた時、激怒していたじゃないか?」


「大丈夫ですって。ラミアのお酒好きは魔物達の中でも特に有名ですから。お酒欲しさに一人のラミアが偶然人間からお酒を手に入れた別の魔物の群れを滅ぼしたって話もあるくらいなんですよ?」


「そ、そこまでか……」


 アルハレムはリリアから聞いた話に思わず表情をひきつらせる。もしかしたら自分もここにラミアに酒目的で襲われていたかもしれないと思うと背筋が寒くなった。


「それに確かに先程はアルハレム様に寄り添っているラミアを見て腸が煮えくり返りましたが、ラミアは強力な魔女……魔物ですからね。魔物使いであるアルハレム様の大きな力になります。あと、クエストの達成にも繋がりますしね」


 そう言ってリリアが取り出したのはアルハレムのクエストブックで、クエストブックには次の文章が書かれていた。


【クエストそのよん。

 ふたりめのまもののおともだちをつくること。

 まものつかいなのですから、まもののおともだちをたくさんつくりましょうねー。

 それじゃー、あとにじゅうはちにちのあいだにガンバってください♪】


「それはそうだが……」


 アルハレムはクエストブックの文章を読んだ後で、酒を飲み干して空になった鍋を名残惜しそうに見つめるラミアを見る。


 確かにリリアの言う通り、ここでラミアを仲間にすればクエストは達成できるし戦力も大幅に増加できるのだろう。


「じゃあこのラミアを仲間にしていいのか?」


「はい♪ というかこの調子でどんどん強力な魔女達を仲間にしていってください♪ 大勢の魔女達の先頭を歩くアルハレム様とその隣に立つ私。そんな未来も中々燃えますからね♪」


 満面の笑みを浮かべて答えるリリア。


「それに……」


「それに?」


「それに大勢の魔女達の前でアルハレム様に犯さ……もとい、調教されてアルハレム様に仕える魔女の手本を見せる私。そんな未来もすっっっごく燃えますからね!」


「………!」


 満面の笑みを更に深めて瞳を輝かせるリリアにアルハレムはかける言葉が見つからなかった。


 そして一人完全に蚊帳の外だったラミアだが……リリアの言う通り、仲間になればまた酒を飲ませると言ったら首を凄い勢いで縦に振って承諾したのだった。

エールボールのエールは、室温と同じ温度の温いビールなのですが、エールボールで作った酒はビールではなくワインのような果実酒みたいなものです。

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