第百六十八話
「その反応は何さ?」
「アタイらが仲間になるのがそんなに不満かい?」
驚くアルハレムにセイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドが口を開く。
「いや……、不満というか一体どうしていきなり仲間になりたいなんて言うんだ?」
アルハレムは困惑を隠せずセイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドに質問をする。
「理由? そうだね……今聞いたんだけど、貴方ってギルシュって国の勇者で旅をしていて、ここにいる魔女達は貴方の付き添いで人間の国や街を自由に歩けるんでしょ?」
「え? ああ、まあな」
セイレーンの魔女の質問にアルハレムが首を傾げながら答えると、彼女は楽しそうな笑みを浮かべる。
「アタシってずっと前から人間の国や街を見てみたかったの。でも前にも言ったと思うけど、アルハレム以外の人間達ってアタシを見ると怖がって逃げ出すか、敵わないって分かっているのに戦いを仕掛けてくるんだよね。
あと歌。歌を歌うのはセイレーンの本能なんだけど、歌ったら人間が大勢やってきて何度暴れないって言っても信用してくれなくて怖がられるの。
だからアルハレムの仲間になったら人間の国や街を自由に行けるし、歌も歌い放題になるかなって思ったの」
「……なるほどね」
セイレーンの魔女から理由を聞いたアルハレムは納得して頷いてから次にワイバーンのドラゴンメイドを見た。
「じゃあ、君は一体どうして俺の仲間になろうと思ったんだ?」
「ああ、アタイかい? アタイがアンタの仲間になるのはどうしても欲しいものがあるからさ。……なあ、アルハレム?」
ワイバーンのドラゴンメイドはそこまで言うと、魔女達と戦乙女に全身を拘束されて身動きがとれないアルハレムの顔に自分の顔を近づける。それによって魔物使いの青年にしがみつくリリア達の瞳に怒りと殺気の光が宿るのだが、ワイバーンのドラゴンメイドは全く気にもせずに魔物使いの青年の目を覗き込みながら話しかける。
「アンタ、冒険者なんだからこれまでにも何度かクエストブックのクエストを成功させて『アレ』を手に入れているんだろ?」
「アレって?」
「惚けんじゃないよ、アレって言ったら『神力石』に決まってんじゃないかい。アンタ、今一個くらい持ってないか?」
「いや……。生憎と今は一個も持ってないな」
「そうかい……」
アルハレムが神力石を持っていないと告白をすると、ワイバーンのドラゴンメイドは明らかにがっかりとした表情となって魔物使いの青年から離れた。
「俺の仲間になる理由は神力石か?」
「ああ、神力石ってのは人間だけじゃなくアタイ達ドラゴンにとっても滅多に手に入らないお宝だからね。使った効果だけじゃなくあの美しい輝き……お宝を集めるのが本能のドラゴンとしては一つは自分のものにしたいお宝なのさ」
ワイバーンのドラゴンメイドはアルハレムの質問に答えながら、脳裏に神力石の輝きを思い浮かべてうっとりとした表情を浮かべる。
「だからさ。次に神力石を手に入れたらアタイに譲ると約束してくれるんだったら、アタイもアンタの仲間になってやろうじゃないのさ。なぁに、ドラゴンは何百年もの寿命があるからね。その内の数十年、人間の僕になるのもいい経験さね」
「そういうものなのか? ……ふむ」
『………………………………』
ワイバーンのドラゴンメイドの言葉にアルハレムはそう呟くと、全身で魔女達と戦乙女の無言の視線を感じながら二人の魔女を仲間にするかどうか考えるのだった。




