第百六十話
ゴーレムの魔女が現れたのはアルハレム達の前方であった。瞬間移動で現れたゴーレムの魔女は、女性の石像を操って巨大な石の両腕を振るわせて魔物使いの青年に攻撃をするが、魔物使いの青年は臆することなく前に走り出した。
「そんな!?」
「うおおっ!」
ゴーレムの魔女は攻撃を避けて自分に肉薄してきたアルハレムを見て驚愕の声を上げ、魔物使いの青年はそんな彼女に向けて手に持ったインテリジェンスウェポンのロッド、アルマを振るう。
「身体能力強化」
アルハレムの手の中にあるアルマが輝力を使って身体能力を強化して、ロッド形態の彼女の体が青白く光りだす。身動きがとれないロッド形態で身体能力を強化しても頑強、つまり体の硬さが強化されるだけなのだが、武器にとって硬さとはそのまま威力に直結する重要な要素であった。
バキィン!
「……くっ!」
空中に青白い光の線を描きながら勢いよく振るわれたアルハレムの一撃は、ゴーレムの魔女が座る玉座と女性の石像を繋ぐ数本の鎖のうちの一本を砕き、ゴーレムの魔女は舌打ちを一つすると瞬間移動で姿を消した。
「上手くいったみたいだな」
「マスター。巨大な敵との戦闘に慣れているのですか?」
アルハレムが自分の作戦が上手くいったことに内心で喜んでいると、アルマが予想以上に巨大な敵と戦えている自分の主に質問する。
「ああ、少し前に巨大な敵と戦ったことがあってな」
アルハレムは自分の持つインテリジェンスウェポンの魔女に短く答えた。
少し前にアルハレムは自分の家が治める領地にあるダンジョンを攻略したことがあり、そこで巨大な敵と戦ったことがあった。そしてそのダンジョンで今はここにいない仲間の魔女の一人、ヒスイと出会ったのだった。
「おー、あのダンジョンマスターに一撃入れるなんて中々やるねぇ」
「うん。やっぱりアルハレムは人間にしては強いね」
アルハレム達とダンジョンマスターの戦いを見学していたワイバーンのドラゴンメイドが感心したように呟くと、それを聞いていたセイレーンの魔女が頷く。するとワイバーンのドラゴンメイドは意味ありげな視線をセイレーンの魔女に向ける。
「へぇ……。随分とあの人間、アルハレムを気に入っているんだね」
「……別に? 何が言いたいのさ?」
「アンタの話によるとアルハレムは魔物使いの冒険者らしいけど、この戦いが終わったらアイツの仲間になるのかい?」
「……さあね。それはこの戦いの結果次第、かな」
ワイバーンのドラゴンメイドのからかう色が混じっている言葉に、セイレーンの魔女は特に慌てることなく軽く肩をすくめて答えるのだった。この時、セイレーンの魔女が一体どんな表情をしているのかは、生憎と彼女より頭一つ背が高いワイバーンのドラゴンメイドには見ることができなかった。




