第百五十八話
「なっ……!? 消えた?」
「一体どうして……?」
目の前にいたゴーレムの魔女が突然消えたことにアルハレムは、驚きのあまり戦闘中にもかかわらず動きを止めて呟き、アルマもまた信じられないといった声を漏らす。
「ふふっ♪ 驚きましたか?」
「………!?」
真横から聞こえてきた声にアルハレムが弾かれたように振り向くと、そこには悪戯を成功させた子供のような表情をしたゴーレムの魔女がいた。
「い、いつの間に……?」
「私は他の魔女の方々のように輝力で体を強化することはできません。そのように女神イアス様に創造されましたから。しかしその代わり、空間を操作してこのダンジョンの部屋や道具の位置を自由に入れ換えることができるんです♪ そしてそれは私自身も例外ではありません♪」
思わず疑問を口にするアルハレムにゴーレムの魔女が自慢気に答える。確かに彼女の言う空間を操作する能力は、今まで延々とダンジョンをさまよったことで体感したが、まさかそれを自分自身にも使えるとは思わなかった。
「……瞬間移動。おとぎ話の中だけの魔術だと思っていたけど実在するなんてな。……でも自分の能力を敵の俺達に喋っていいのか?」
「別に構いませんよ? どうせ黙っていてもすぐに分かるだろうし、知られても問題ありませんから……ね!」
相手が予想以上に厄介な能力を持っていたことにアルハレムは引きつった笑みを浮かべながら言うが、ゴーレムの魔女は余裕の表情であっさりと答える。そして次の瞬間、彼女と彼女の上に浮かぶ女性の石像の姿が幻のように消えた。
「また消えた! どこに……!」
「マスター! 後ろです!」
瞬間移動で姿を消したゴーレムの魔女を探してアルハレムが周囲を見回していると、インテリジェンスウェポンのロッドからアルマの声が警告してきた。
「ちっ!」
ブォン!
アルマの警告にアルハレムが考えるより先に前方に飛ぶと、その直後に魔物使いの青年の後方で強い風が起こった。
「おお……! 今の攻撃を避けますか?」
振り向くとゴーレムの魔女が驚いた顔をしていて、彼女の上に浮かぶ女性の石像が右腕を左に振り抜いた体勢をとっていた。アルマの警告がなければあの巨大な石の腕の一撃を受けて戦闘不能となっていただろう。
「どうやら中々腕が立つようですね。数十年ぶりのお客様が貴方のような腕の立つ冒険者で本当に嬉しいです♪ そうと分かれば私も精一杯おもてなしさせてもらいますね」
ゴーレムの魔女は瞬間移動で広間の中を移動しながら嬉しそうに言う。次々と高速で瞬間移動を行う彼女の姿はまるで分身でも起こしたかのように何体にも増えて見えた。
「マスター!」
「このままじゃやられる。……だったら!」
アルハレムは少しでも自分が有利に戦える場所を目指して広間の中を走り出した。




