第百五十三話
「分かる方に聞いた? 一体誰にだ?」
「決まっています。このダンジョンの主、ダンジョンマスターにです」
アルハレムの質問にアルマは簡潔に答えるのだが、その答えは魔物使いの青年だけでなくセイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドも全くに予想していないものであった。
「ダンジョンマスターに? 確かにそれだったら分かるだろうけど……」
「一体いつ聞いたっていうのさ?」
「貴女達も見ていたはずですよ? マスターが私の先端を床につけた時。その時です」
セイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドの疑問に、ロッドの姿をしたインテリジェンスウェポンの魔女はあっさりと答える。
「やっぱりあの時か。……でもあれでどうやってダンジョンマスターに聞いたんだ?」
確かにアルハレムはアルマに言われた通りロッド形態の彼女を床につけたが、それだけでダンジョンマスターとコンタクトがとれた理由が分からなかった。その事について訊ねるとロッドの柄尻の宝石から僅かな失望が混じった声が聞こえてきた。
「マスター……。ご自身の武器の性能くらい把握しておいてください。……私に備わっている固有特性を使用しました」
「固有特性?」
「そうです」
インテリジェンスウェポンの魔女は主である魔物使いの青年に短く答えてから自身の固有特性について説明をする。
「私が使用した固有特性は『思考受信』といいまして、触れた相手の思考を読み取る固有特性です。元々は私の使い手であるマスターの思考を読み取ることで、速やかに戦況に応じた形状に変形するための固有特性なのですが、これには武器や体に接触した敵の思考を読み取るという使い方もあります。更にこの思考受信は輝力を使用することで感度を上昇させ、相手の思考の深いところまで読み取れます」
「……つまりあれか? このダンジョンそのものを『ダンジョンマスターの体』と見立てて、ダンジョンマスターの思考を読み取り、正しい扉の順番を『聞いた』ってことか?」
アルマの固有特性の説明を聞いたアルハレムは、信じられないといった顔で口を開くとロッドの柄尻の宝石から肯定の声が返ってきた。
「はい。上の広間でマスターが最初に私の先端を床につけた時、聞き覚えがない女性の声が聞こえたのでもしかして、と試してみたらうまくいったようです」
「そんなことあり得るのか……?」
「いや……。あのダンジョンマスターだったらあり得るかも……」
アルハレムが思わず思ったことを口にすると、セイレーンの魔女が少し考える表情となって呟く。
「え?」
「そうだね……。あのダンジョンマスターだったら案外あり得るのかもしれないね」
ワイバーンのドラゴンメイドとセイレーンの魔女の呟きに同意する。
「え? 二人とも、それってどういう意味だ?」
アルハレムが聞くが、セイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドは説明するのが面倒だといった感じで二人揃って首を横に振る。
「まあ、会ってみたらすぐに分かるよ」
「そうだね。それより道が分かったんだったら先に進んでみたらどうだい?」
「あ、ああ……。そうだな」
セイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドに言われてアルハレムは先に進むことにした。




