第百五十一話
「コイツらはどうしていきなり……!?」
まるで水面から浮かび上がってくるかのように壁や床から現れてくる骸骨の人形達。
突然現れた敵達を見てアルハレムは武器であるアルマを構えながらも戸惑った声を出す。そんな魔物使いの青年の言葉に応える声が『上』から降ってきた。
「どうしてだ? そんなことはどうでもいいじゃないか」
ゴォッ! ガシャン!
何かが勢いよく風をきって落ちてくる音と、続いて聞こえてくる何かが砕ける音。
それはいつの間にか天井近くまで飛んでいたワイバーンのドラゴンメイドが急降下をして骸骨の人形達に襲いかかり、その頭蓋骨を鱗で覆われたドラゴンの脚で踏み砕いた音であった。
「倒して手に入るお宝が増えた。それだけのことさ」
獰猛な笑みを浮かべたワイバーンのドラゴンメイドは、まだ生き残っている骸骨の人形達に視線を向けながらアルハレムに言う。
(やっぱり彼女を仲間にしたのは正解だったな……)
己の欲望(主に金銭欲)を満たす獲物が増えたことに歓喜し、全身に纏う殺意を濃くするワイバーンのドラゴンメイドを見て、アルハレムは彼女が今は敵でないことに何度目になるか分からない安堵の息を吐いた。
☆★☆★
そして戦闘はほんの僅かな時間で終わった。
壁や床から新たに出現してきた骸骨の人形達は十数体ほどであったが、そのほとんどはワイバーンのドラゴンメイドによって瞬く間に破壊され、その様子を見ていたアルハレムは戦闘と言うよりも一方的な虐殺(?)と言った方が正しいという感想を懐いた。
「まさか降りてすぐに『始まる』なんてね。上の広間で時間がかかりすぎたみたいだね」
「……それは君が言っていた『アドバイスそのよん』に関係することか?」
戦闘が終わってから口を開いたセイレーンの魔女にアルハレムが訊ねる。
セイレーンの魔女はこの階層に降りてすぐに「早く正しい扉を見つけないと色々としんどいことになる」と言い、それを「アドバイスそのよん」とも言った。
「あっ、分かったんだ? うん、そうだよ。……じゃあ、さっきは何が起きたのか説明できる?」
アルハレムの言葉にセイレーンの魔女は、感心した表情を浮かべて彼の質問に答えてから訊ねる。それに対して魔物使いの青年は若干沈んだ表情となって口を開く。
「……多分『制限時間を超えたことによるやり直し』だろ?」
「正解♪」
セイレーンの魔女はアルハレムの返答を意地の悪い笑みで肯定する。
「少し考えたら分かることだ。いくらこのダンジョンが無数にある扉を正しい順番で通らないといけない厄介な構造でも、それは時間をかけて調べればやがて分かる。それを防ぐためにある程度の時間が経てば扉を通る順番が変わる仕掛けなんだろ? ……後ついでに順番が変わる時に倒した敵も補充される」
「そういうこと。まあ、お宝が増えるのはいいことじゃないか」
ワイバーンのドラゴンメイドは財宝となる骸骨の人形達が増えることに心から嬉しそうな笑みを浮かべるが、生憎とアルハレムにはその事を喜ぶことはできなかった。




