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第十四話

「ところでアルハレム様? アルハレム様のご実家ってどんな所なんですか?」


 アニーとの戦いから三日後。アルハレムの実家であるマスタノート家に向かって旅をしていると、思い出したようにリリアが訊ねてきた。


 本当だったらもっと早くにアルハレムの実家のことを聞きたかったリリアだが、この三日間は本当に大変で聞くことができなかった。何しろアニーを倒した翌日に、よっぽど男に負けたのが悔しかったのか追ってきたアニーが再戦を仕掛けてきて、アルハレムもリリアもはた迷惑な戦乙女を撒くのに必死だったのだ。


「そういえばリリアにはまだちゃんと話していなかったな。……そうだな。現在地の確認もかねて説明しようか」


 アルハレムは荷物袋から一枚の地図を取り出すとリリアに見えるように広げた。広げた地図にはこの世界であるイアス・ルイドの地形が描かれており、地図に描かれたイアス・ルイドは、大陸の中央に大河で囲まれたもう一つの大陸がある二重丸のような地形をしていた。


「俺達が今いる国は『エルージョ』と言って、『中央大陸』のこの部分に位置する国なんだ」


 アルハレムはリリアにそう言うと、中央大陸と呼んだ大陸の内側にあるもう一つの大陸、その左上の部分を指差した。


「そして中央大陸の南半分を支配している『ギルシュ』。ここが俺の国で、俺の実家があるマスタノート家はこのギルシュとエルージョの国境付近に領地を持っているんだ」


 次にアルハレムは地図に描かれた中央大陸の下半分、ギルシュが位置する部分を指差してから、ギルシュとエルージョが隣接している部分を指差す。つまりこの指差しているところが、アルハレムの実家のマスタノート家が治めている領地だということだ。


「なるほど。それで私達は今どの辺りにいるのですか?」


「多分この辺りだろう」


 アルハレムは地図のギルシュとエルージョが隣接している部分の少し上を指差すと、地図から顔を上げて南にある山脈を見る。


「あの山脈は丁度ギルシュとエルージョを分ける位置にあるんだ。あの山脈が見えたってことはギルシュはもうすぐそこだ」


「分かりました。では早く参りましょう。流石に隣の国まで行けばあのうるさい戦乙女も追ってこないでしょうし♪」


「……笑えない冗談は止めてくれ」


 からかうような口調で言うリリアにアルハレムは心から嫌そうな表情となる。


 あのうるさい戦乙女とは、言うまでもなくアニーのことだ。


 再戦を仕掛けてきた時にアニーが見せたあの憤怒に染まった表情……思い出すだけでアルハレムの背中に悪寒が走った。確かにあの怒りに燃えた戦乙女なら隣国に逃げるくらいしないとすぐに追ってきそうな気がして、魔物使いの冒険者は僕のサキュバスを連れて故郷に戻る旅を再開した。


 ☆★☆★


 旅を再開してから数時間後。ギルシュとエルージョの国境代わりともいえる山脈の麓までたどり着いた時にはもう日も沈みかけていて、アルハレムとリリアの二人は今日の旅はここまでにして、麓の森で野営をとることにした。


「ではアルハレム様。行ってきますね♪」


 アルハレムが野営の準備をしていると宙に浮かび上がったリリアが何処かに行くことを告げる。


 リリアが何処に行くのかというと、今夜の食事となる獲物を狩りに行くのだ。


 空が飛べて機動力に優れるリリアが食べられそうな動物や植物を捕ってきて、その間にアルハレムが野営の準備をする。


 これがこの数日間の旅におけるアルハレムとリリアの役割分担だった。


「アルハレム様は何か捕ってきてほしいものとかありますか?」


「別に何でも……あっ! いや、やっぱりできるだけ大きな動物がいいな。今日は焼き肉が食べたい」


「大きな動物のお肉ですね。分かりました。それでは少しの間、待っていてくださいね。大物を仕留めてきますから♪」


 リリアはアルハレムにウィンクをすると夜空に飛び去っていった。彼女ならば本当に少しの間で熊の一頭や二頭仕留めてくるだろう。


「さてと……」


 リリアを見送ったアルハレムは野営の準備を終えると、荷物袋から小さな鍋を一つ取り出して、先程見つけた小川で水をくんだ。


「せっかくもらったんだから使って見ないとな」


 そう言うアルハレムの手には一粒の紫色の丸薬があった。それは今から数日前の初めて寄った街での乱闘騒ぎで、彼が酔っぱらったアニーから助けた街の住人より譲ってもらった水を酒に変える丸薬、エールボールだった。


「焼いた肉を食べながら飲む酒は格別なんだよな。リリアにはいつも世話になってるし、これくらいの礼はしないとな」


 アルハレムが水で満たした鍋にエールボールを入れると、たちまち鍋の中の水は紫色に変色し、辺りに濃厚な酒の匂いか漂いだした。


「本当に水が酒になった。……でも、少し酒の匂いがキツすぎないか?」


 鍋から漂ってくる酒の匂いだったが予想以上に強く、匂いを嗅いでいるだけで酔ってしまいになる。そこでアルハレムはエールボールが一粒で瓶一杯の水を酒に変えられる程の効果があるのを思い出す。


「もしかして水の量が少なすぎたのか? まいったな。かなり強い酒になったみたいだけどリリアの奴、飲めるか……え?」


「………………………」


 失敗にため息をついていたアルハレムはその時、いつの間にか自分の足元に一人の女性がうつ伏せの状態で水、いや、今は酒で満たした鍋を凝視していたことに気づく。


 リリアではない。その女性はうつ伏せの状態なので顔は見えないが夜のような紺色の髪を腰まで伸ばしていて、腰から先は……人間ではなく蛇だった。

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