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第百三十七話

 セイレーンの魔女の後について行ってアルハレム達が「さまよえる幽霊船」の船内に入ると、そこは奇妙な大部屋だった。


 入口から見て部屋の右側には大きなベッドが五つ置かれていて、左側にはかまどに簡単な調理台が設置されている。そして部屋の中央には複数の人間が囲んで座れる円形のテーブルと複数の椅子があって、他にも荷物を入れておくタンスに食物を保存しておく壷、水を貯めている瓶もあり、ここならば大人数でもくつろいで生活することが可能だろう。


「なんというか……至れり尽くせりだな」


「何で船内に入ってすぐの部屋にこのような生活空間を作っているのですか? 意図が全く分かりません」


 船室というよりも大きな宿屋といった感じの船内の部屋を見てアルハレムとアルマが呟くと、セイレーンの魔女が近くにあったベッドに腰かけて答える。


「『休憩室』は長い間休めるように作られているからね。この船にある休憩室はみんなこんな感じだよ。それにここはいわゆる『スタート地点』だから、準備を整えるために休憩室にしたってこの船の持ち主が言っていたわ」


「スタート地点?」


 セイレーンの魔女の言葉にアルマが疑問詞を上げる。今はロッドの姿だが魔女の姿であれば首を傾げていたかもしれない。


「……なあ、いい加減に教えてくれないか? このさまよえる幽霊船って一体何なんだ? お前達は俺達をどうするつもりなんだ?」


「どうするつもりもなにも、お客様になってもらう為って言ったでしょ? この『ダンジョン』のね」


 アルハレムの質問にセイレーンの魔女は当たり前のことを言うかのように答えるが、それを聞いた時に魔物使いの青年とインテリジェンスウェポンの魔女は自分達の耳を疑った。


「何だって?」


「……ダンジョン? この船が?」


「そうよ。この船は貴方達人間がダンジョンと呼んでいるものの一つってこと」


 思わず質問をするアルハレムとアルマに、セイレーンの魔女はここがダンジョンであることを肯定する。


「……そういえば存在が確認されていないダンジョンの一つに、空の上にあるとされるダンジョンがありましたね。『幻の七大ダンジョン』の一つ、ダンジョンナンバー5『天空の乙女像』。ですけどまさかそれが船で、しかもさまよえる幽霊船の正体であったなんて」


 アルマが以前に己の主と一緒に調べたダンジョンの情報からそれらしい記憶を思い出す。


「じゃあ、さっきから君が言っているこの船の持ち主って……」


「そう。このダンジョンを動かす、ダンジョンの意思……ええっと、何て言うんだっけ? 確か……『ダンジョンマスター』ってヤツ?」


 アルハレムの言葉にセイレーンの魔女は頷いて答える。


 ダンジョンマスターとは、セイレーンの魔女が今言った通り、ダンジョンを動かすダンジョンの核であり意思そのものである。そのほとんどはただ侵入者を撃退しようとする単純な思考しか持たないが、中には人間のように高度な思考を持つダンジョンマスターが存在する。どうやらここのダンジョンマスターは、その人間のように高度な思考を持っているようだ。


「そうか。……でもどうしてこの船のダンジョンマスターは人間の街の上空を飛んだり、街の住民を招き込もうとするんだ?」


「ああ……。その事なんだけど、この船も大昔はヒューマン以外の人間、エルフやドワーフとかを相手にする普通のダンジョンだったらしいよ?

 でもこの船の持ち主、ダンジョンマスターってば真面目な性格でね。ダンジョンに挑戦しに来た人間を『お客様』って呼んで誠心誠意もてなしている……て言えば聞こえはいいんだけど、やっていることは侵入者をダンジョンに閉じ込めてガチで殺すことだからね。それに恐れをなした挑戦者達は、空の上にあって来づらいってこともあって、このダンジョンの攻略を諦めたの。

 挑戦者が来なくなって数百年してからこの船の持ち主は、それまで相手にしていなかったヒューマンも挑戦者に迎えることを考えたらしいよ。それで挑戦者になりそうなヒューマンを探そうと色んな街を飛び回ったっていうのが百年くらい前。

 だけどそうしている内にこの船は『さまよえる幽霊船』と呼ばれるようになって、ますます挑戦者がこないようになったってわけ」


 疑問を口にしたアルハレムにセイレーンの魔女は肩をすくめて説明して、それを聞いていたアルマがぽつりと呟く。


「必死ですね。ここのダンジョンマスター」

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