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第百三十二話

「えっ? 船を出せない? それってどういうことですか?」


 浴場で体の汚れと臭いを落としてミナルの街の領主の館に行ったアルハレムは、そこの応接間で領主に質問をする。


 ミナルの街の領主、ミナル子爵は浅黒い肌の逞しい体つきをした貴族というよりも船乗りといった雰囲気の三十代の男で、丁寧に整えられた髭が特徴的であった。


「はい。自分としましてもこの手紙を読んだからにはアルハレム殿に出来うる限りの協力をしたいのですが……」


 ミナル子爵はそう言い辛そうに言うと目の前のテーブルに置かれた一枚の手紙に視線を移す。それは「ミナル子爵はギルシュの勇者であるアルハレムに協力するように」という内容のギルシュの国王であるヨハン王が書いた手紙だ。


 アルハレム達はミナル子爵の館に行くと、ミナル子爵に今彼の前に置かれているヨハン王から預かった手紙を見せて、外輪大陸行きの船に乗せて欲しいと交渉したのだが、それに対する街の領主の答えは「乗せることはできない」というものだった。


「実は今、このミナルの街ではある問題が起こっていて、それが解決するまで船を出そうという者はいないのです」


 本当に困った顔をするミナル子爵の言葉にアルハレムは首を傾げる。


「ある問題? 海に強力な魔物でも現れたのですか?」


「似たようなものです。アルハレム殿は『さまよえる幽霊船』の話は知っていますか?」


 アルハレムの質問にミナル子爵は口を開く。


 さまよえる幽霊船。


 それは中央大陸、外輪大陸の両方で古くから伝わっている怪談であった。


 夜になると街の上空に巨大な帆船が現れて、帆船の甲板では無数の死者達が道ずれを求めて街の住人達に手招きをし、それを見てしまった者は帆船に乗せられて死者の仲間となってしまうと言う。そして死者達を乗せた空を飛ぶ帆船は数日同じ街の上空を飛んだ後に、別の街へと向かうとされている。


 親は悪さする子供を叱るときによく「悪い子はさまよえる幽霊船に連れていかれる」と言うので、アルハレムもさまよえる幽霊船の話は聞いたことがあった。


「さまよえる幽霊船? それってただの迷信じゃないの?」


 アルハレムの隣にいたアリスンがそう言うと、ミナル子爵は首を横に振った。


「ただの迷信であればどれだけよかったことか……。しかし、実際に今このミナルの街には二、三日前からそのさまよえる幽霊船が現れているのです。すでに多くの住人や船乗り達がさまよえる幽霊船を目撃しており、自分も先日にこの目で見ました」


 ミナル子爵はさまよえる幽霊船を見た時の事を思い出したのか、顔を青くすると体を震わせた。


「ミナルの街の船乗り達に限らず、全ての船乗り達はさまよえる幽霊船を死して成仏できずにいる船乗り達が集まる船として恐れています。あの船が現れている間はどんな船乗りも自分の部下達も恐ろしくて船を出すことはできないのです。……言い伝えが事実であれば、さまよえる幽霊船は数日もすれば別の地へと向かうはず。そうすれば自分達も船を出すことができます。どうかそれまでお待ちください」


 そこまで言うとミナル子爵はアルハレム達に大きく頭を下げた。

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