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第百二十五話

 ライザック・ファスタ・ギルシュ。


 ヨハン王の最初の子供であるギルシュの第一王子。


 王位継承権第一位を持ちギルシュの次期国王と目されている男は、背はアルハレムより少し高いくらいだが、全身に鍛えられた筋肉がついた頑強な体つきのため一回り大きく見えた。


 一目で名のある職人の仕事だと分かる軍服を一分の隙もなく着こなし、腰に豪華な飾りが施されてはいるが実用的な長剣を差しているライザックのその姿は、王族というよりも軍人と呼んだ方がしっくりときた。第一王子の後ろを見ると取り巻きと思われる若い貴族の男が五人ほどついていたが、彼等もまた似たような格好をしている。


 ライザックは食事をしていたアルハレムとその仲間であるリリア達を値踏みするような目で見たあとで鼻を鳴らす。


「ハッ。回りを囲んでくれるのは身内となった魔女達だけとは、随分と寂しそうだな? アルハレム・マスタノート?」


「え? いえ、別に……」


 別に寂しくはない、と言おうとしたアルハレムであったが、ライザックは話を聞かずに自分の言葉を続けた。


「だがまあ、気にすることはない。本当の実力者というものは常に孤高なものだ。見てみろ。ここにいるのはギルシュでも指折りの名家の人間ばかり。それが全員、羨望や恐怖の目でお前に注目している。普通ならばいくら辺境伯の息子といえどもここまであいつらに注目されんだろう。どうだ? 権力者達の関心を集める立場になった気分は?」


「どうだって……特に何も?」


 ライザックからの質問にアルハレムは戸惑いながらも嘘偽りのない本心を言う。


 アルハレムを初めとして、歴代のマスタノート家の人間は権力欲が皆無の人間ばかりだった。


 マスタノート家の人間にとって爵位や権力というものは、国内で自分達の意見を通しやすくして領地を護る手助けにする「手段」に過ぎず、必要以上の権力などかえって邪魔でしかないので興味を持たない。ある意味、貴い血の見本とも言えるのだが、この権力に対する無関心ぶりも他の貴族達から「ギルシュの蛮族」と呼ばれる原因であるのだ。


 アルハレムの言葉を聞いてライザックは面白そうな笑みを浮かべる。


「ほう、そうか。そういえばお前は自分を鍛えるための試練を求めてクエストブックを開いたらしいが……それは本当か?」


「はい。それは本当です」


「そうかそうか。……くっ! くはははははっ!」


「……今のアルハレム様のお言葉のどこがおかしいのですか?」


『……!』


 突然アルハレムの顔を見ながら大声で笑いだしたライザックにリリア達五人の魔女が殺気が混じった怒気を漂わせ、それに対してお付きの貴族達が腰の剣を抜こうとする。しかしそれを第一王子が手で制した。


「止めろお前ら。そして魔女達も落ち着け。別にお前達の主人を馬鹿にしたわけじゃない。……それにしても気に入ったぞ」


 そこまで言うとライザックはアルハレムの顔を指差した。


「俺は決めたぞ。アルハレム・マスタノート。貴様、俺の部下となれ」

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