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第百十五話

「小さい女の子の声? 一体誰だ?」


「はーい♪ 私でーす♪ 『十八番』さん。初めましてー♪」


「え?」


 光がようやく収まるとアルハレムの前には一人の女の子が立っていて、手を上げて元気のよい笑顔で挨拶をしてきた。


 アルハレムの前に立っていたのは十歳になるかならないかという女の子で、リボンやフリルがふんだんに使われた黒いドレスのような服を着ており、床につくくらい長く伸びた鮮やかな碧の髪が特徴的だった。


 一見すれば変わった姿のヒューマンの子供だが碧の髪の女の子からは特別な雰囲気を感じられて、アルハレム……いや、この部屋にいる全員が彼女が人間でも魔物でも「何か」だと本能で理解した。


「じゅ、十八番? 誰のこと? というか君、誰?」


「十八番さんは十八番さんですよー♪ 貴方の持っているクエストブックはー、おかーさんが創った十八冊目のクエストブックですからー、貴方は十八番さんなのです♪」


 碧の髪の女の子はアルハレムのことを「十八番」と呼ぶと続いて自分の名前を告げる。そしてその名前はこの場にいる全員が知るものであった。


「それでおかーさんの名前は『女神イアス』と言います♪ この世界にあるものは全て、今からずっとずっと大昔におかーさんが頑張って産んだ子供達ですから、十八番さんも他の皆はおかーさんの事をおかーさんと呼んでください♪ あっ! 他にも『ママ』でも『おばーちゃん』でもおーけーですよ♪」


 膨らみのない幼い胸を張りながら自分がこの世界を創造した「女神イアス」だと名乗る碧の髪の女の子。


 普通ならばただの子供の冗談だと思うところだが、彼女が纏っている特別な雰囲気はそれが冗談ではないと物語っていた。そして……、


「ああっ! 我らが女神! イアス様! こうしてお目にかかれて光栄です!」


 過去に十回目と二十回目のクエストを達成して女神イアスと会ったことがあるローレンが、頬を紅くして碧の髪の女の子に話しかけていることから、どうやら本当に彼女はこの世界の創造神のようである。


「あっ、久しぶりですね六十二番さん……じゃなくてローレンさん♪ ……でもおかーさんのことはおかーさんと呼んでくださいって、前にも言ったはずですよ?」


「えっ!? あ、そうでした。すみませんでした、御母様」


 イアスの方もローレンの事を覚えていたようでにこやかに挨拶をして、最後の言葉を拗ねた風に言うと王族の勇者は慌てて訂正をする。


「うむ♪ よろしい♪」


「御母様、どうぞこちらに。いつ御母様が降臨されてもいいようにお菓子の用意をしています」


「おおー!」


 ローレンが席をすすめると、イアスはテーブルに用意されていたお菓子の山を見て嬉しそうな声を上げて椅子に座った。ちなみにテーブルに用意されたお菓子の山は、ローレンが毎日朝早くに自腹を切って購入したものである。


 この五日間、ローレンがお菓子を大量に買い続けていたことに疑問に思っていたアルハレムだったが、全ては今日のためだったのだと理解した。


「このお菓子、美味しいですねー♪ でもでもローレンさん? こんなに沢山食べてもいいんですか?」


「何を言うのですか御母様? これは全て御母様の為に用意したものなのでどうか全てお召し上がりになってください。あっ、お茶はいかがですか?」


 椅子に座ってお菓子を食べるイアスにお茶を差し出すローレン。そんな彼の表情は光輝いて見えるほど嬉しそうであり、アルハレムは嫌な予感を覚えながら自国の王子に話しかける。


「あの……嬉しそうですね? ローレン皇子?」


「それはそうだよ。何しろこの世界を創造した女神様に奉仕できるだなんて、この世界に生きる者としたらこれ以上ない名誉じゃないか?」


 アルハレムの質問にローレンは相変わらずの光輝いて見える女性ならば一目で恋に落ちてしまいそうな笑顔で答える。


「いや……それはそうなんでしょうけど……」


「……うん。そうだね。アルハレム君達も薄々気づいているようだし、丁度いい機会だから告白するけど僕は……」


 そこでローレンは一度言葉を切って目を閉じると、次の瞬間「カッ!」という音が聞こえそうな勢いで目を開き、堂々と宣言をする。


「僕は! 僕はちっちゃい女の子が大好きだ! ロリータコンプレックス、略してロリコンと呼ばれても気にしない! むしろ受け入れる! そしてこちらにおわす女神イアス様は世界で最初のロリ! 故に僕はこのロリ女神を敬愛する! ローレンの『ロ』はロリコンの『ロ』だ!」


「それでいいのかよ、お前?」


 何ら恥じる様子を見せず、むしろ誇るように自分がロリコンであることを宣言するローレンに、アルハレムは相手が王族であるのにも関わらず素の口調で突っ込んだ。


 そしてローレンの後ろではメアリ達三人の戦乙女が目に見えて落ち込んでいて、それをリリア達五人の魔女が慰めていた。時折メアリ達の方から「そうなのだ……。ローレン様は子供しか愛せないのだ……」とか「私はもう育ちすぎてしまった……」という声が聞こえてきて、それでアルハレムは旅立ちの時からメアリ達が自分達に複雑な敵意の目を向けてくる理由を理解した。


 要するにメアリ達、ローレンに従う戦乙女達は全員、自分達の主に好意を懐いているということだ。


 しかしローレンは小さい女の子しか愛せない人間である為に、成長して大人の女性となったメアリ達自分に従う戦乙女に優しく接することはできても、異性として愛情を注ぐことはできない。それが彼女達にとって唯一の不満であり、アンジェラとの戦いではその不満をつけこまれて操られたのだ。


 そしていくら主であるローレンに好意を懐いていても振り向いてもらえないメアリ達にとって、自分達と似たような境遇でありながら、主であるアルハレムと愛し合っているリリア達の姿は目障りでしかないだろう。


 アルハレムは満面の笑顔でロリ女神に奉仕するロリコン王子と、悲しみに涙して自分に従う魔女達に慰められる三人の戦乙女を見て思った。


(……ああ。また知り合いに馬鹿が増えた)

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