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第百九話

「よくやったヒスイ。早くこっちに……」


「ああん? 何だい、アンタは?」


 結界を作り出してシーレの街の女性達の侵入を防いだヒスイにアルハレムがこちらに戻るように言おうとした時、アンジェラが霊亀の魔女に気づいて視線を向けた。


「初めまして。私の名前はヒスイといいます」


 頭を下げて挨拶をするヒスイに、アンジェラは不快なものを見るような視線を向けながら訊ねる。


「この見えない壁みたいなのはアンタの仕業なのかい?」


「ええ、そうです」


「……こんな真似ができるってことはアンタも戦乙女だね? ……何だって私の邪魔をするんだい?」


 言葉を交わすごとに機嫌を悪くしていくアンジェラにヒスイは表情を変えることなく真っ直ぐに戦乙女の目を見ながら答える。


「皆さんが困っていたからです。貴女こそ何故このようなことをするのですか?」


「……っ! うるさい小娘だね! 何でこんなことをするのかだって!? さっきも言ったようにコイツらは私に従うのが正しい姿なんだからそうしようとしているだけなんだよ! 見たところ二十過ぎぐらいの小娘が私のやることに口出しするんじゃないよ! 大体ね、アンタみたいな顔が少しいいだけの小娘が私と同じ戦乙女だなんて生意気なんだよ!」


「……なんか、ヒスイに思いっきり強く当たってないか? あの人?」


「どう見てもヒスイを妬んできつく当たってますね、あの人。若くて綺麗な女性にコンプレックスとかあるんじゃありません?」


 激昂してヒスイに怒鳴り散らすアンジェラを見て呟くアルハレムにリリアが自分の考えを言うと、それを聞いたローレンが納得したように頷いた。


「ああ、それはありえるね。というかあれを見る限りそれしかないだろうね。最初にクーロ男爵がアンジェラのことを説明していた時に『嫁に行かず』と言っていたけど、実際は『嫁に行けなかった』んじゃないかな?」


 貴族の家に生まれた人間にとって結婚とは、他家との繋がりを築く為に必要な義務のようなものである。だから当然、アンジェラにも結婚の話があったと思うのだが、あの性格ではうまくいくはずがないだろう。


「でしょうね。そしてそんな人からしたら、綺麗で実生活が充実していそうなヒスイは目障りにしか見えないでしょうね」


 リリアが頷いてローレンに話している間にもアンジェラはヒスイに最早彼女一人に的を絞った暴言を怒鳴り散らしており、そんな戦乙女に周囲の人間は全員うんざりとした顔をして、気のせいか支配下にあるシーレの街の女性達もうんざりしているように見えた。


「……もしかしてと思うが、アンジェラが女性を操る力を手に入れたのって、他の女性を操ってそのコンプレックスを解消するためなんじゃないだろうな?」


 ヒスイに怒鳴り続けているアンジェラを見てアルハレムは思った考えを口にする。


 輝力は戦乙女の強い思いに応えて奇跡を起こす。若い頃に女の幸せを掴めなかった自分の非を自覚できない戦乙女が、自分勝手な復讐の為に世の女性を支配する力を得たとしてもあり得ないとは言い切れず、そう考えるとアルハレムは一気に馬鹿馬鹿しい気持ちになった。

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