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第百七話

 シーレの街を占領したという戦乙女、アンジェラがこの宿場町に押し寄せてきたという報せを聞いてアルハレムとローレンの一行が宿屋を出て宿場町の行くと、そこには異様な集団が集まっていた。


 その集団は十代後半から四十代くらいの女性ばかりで人数は軽く百人を越えており、全員が虚ろな目をしながら笑みを浮かべながら手にクワや鎌、包丁を持って武装している姿は非常に不気味である。


 彼女達こそがアンジェラに支配されたシーレの街の女性達で、宿場町の入り口に集まったシーレの街から避難してきた男達は必死に集団に混じっている自分達の家族や恋人の名前を呼んで話しかけるが、女性達は笑みを浮かべるばかりで呼びかけに答えようとしなかった。


 そして集団の中央には一台の馬車が集まっていた。アルハレム達が乗ってきた王家が用意した馬車やマスタノート家の馬車に比べれば大きさも外装も質素だが、それでも一般の馬車よりはずっと立派な馬車の扉に印されている家紋を見てクーロは顔を青くする。


「あ、あの馬車は間違いなくシーレ家の馬車です……」


「じゃああの馬車にアンジェラさんが?」


「はい。恐らくは乗っているでしょう」


 クーロがアルハレムに答えるのと同時に馬車の扉が開き、馬車に乗っていた一人の人物が姿を現した。


『……うわっ』


 馬車から出てきた人物の姿を見て、アルハレムとローレンの一行は思わず呻き声のような声をあげた。


 出てきたのは四十代から五十代くらいの女性だったのだが、長年にも渡る贅沢な生活と運動不足により全身に大量の脂肪がついていて、遠目からだと完全な丸に見える体型をしていた。


 服装は目にいたい赤のドレスを着ており、両手の指には全て宝石のついた指輪をはめていて、首や耳にも大量の首飾りや耳飾りがつけているのが見えた。ただ高価な装飾品を大量に身に付ければいいと思っているその姿は、王族のローレンだけでなくこういうことに疎いアルハレムから見ても悪趣味だと思う。


 この全身を装飾品で悪趣味に飾った女性こそがクーロの叔母であり、シーレの街を占領した戦乙女、アンジェラ・シーレであった。


「アンジェラ叔母さん! 一体何をしに来たのですか!?」


「何をしに来たかって? そんなのお前達を迎えに来たに決まっているじゃないのさ」


 シーレの街の住人達の前に出たクーロが大声で問いかけると、アンジェラは当たり前のことを言うような表情で答える。


「迎えに来た? 私達を?」


「そうさ。私がシーレの街の支配者になっても、街にいるのがこの女達だけでは話にならないからね。だからお前達を街に連れ戻そうとわざわざここまで足を運んでやったのさ」


「シーレの街の支配者って……何を勝手なことを言っているのですか? 王家よりシーレの街の統治を任されているのはこの私……」


「黙んなよ、クーロ!」


 あまりにも勝手な叔母の暴言に反論しようとしたクーロの言葉をアンジェラの怒声が遮る。


「私を誰だと思っているんだい!? 私はね、シーレの街の前領主だったお前の父親の妹で、今ではこの世界で最も美しくて力強い『戦乙女』なんだよ! つまり今、シーレの街で最も偉いのはこの私で、お前達シーレの住民は私に従うのが正しい姿なんだよ! ……そう、これが当然なんだよ。全ての人間は貴族である私に黙って従うのが当然なのさ。だというのにお前達はどいつもこいつも……クーロ、お前さえも昔から私を軽蔑した目で見て差別してきた! この貴族である私をね! それが戦乙女になることでようやく正しい形になったんだよ!」


 支配した女性達に囲まれた興奮気味の戦乙女の口から出てきたのはあまりにも自分勝手な言葉。


 アンジェラ・シーレは確かに貴族の血をひくものだ。しかし貴族階級では一番下の男爵家の一員にすぎず、貴族としての義務を何も行っていないどころか、人としての礼儀すら欠いている彼女に従う人間などいるはずもない。


 しかしアンジェラはそんな当たり前の常識に目を向けない……どころか気づきもせず、自分の中だけの「常識」を振りかざして幼稚な被害妄想に満ちた「正論」を声高に叫び、その場にいた者達はあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れ果てて言葉を失った。


「……今更ですけど戦乙女って、変わった人が多いですね」


「頼むからウチの家族をあの人と一緒にしないでくれよ。……というか俺は、彼女を貴族とも戦乙女とも認めたくない」


 リリアが半眼となってアンジェラを見ながら小さく呟き、アルハレムが顔をしかめて言う。


 あのアンジェラは貴族でも戦乙女でもなく、ただの武器を持った子供である。自分の我が儘が周りに聞き入れられず癇癪を起こしているところに「輝力」という便利で強力な武器を手に入れて、それを振り回して周りを脅している年を重ねた子供。


 そんなものと自分の大切な家族が同じに見られるなど、アルハレムにはとても耐えられることではなかった。

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