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第百三話

 馬車の中でアルハレム達が話をしている頃、ローレン達が乗っている馬車の中でも気まずい空気が漂っていた。


「……」


『………………』


 馬車の中でローレンが腕をくんで目をつぶって座席に座り、その向かい側の座席にはメアリ達三人の戦乙女が自分達の主の顔を恐る恐る見ながら座っていた。


「……それで?」


『………………っ!?』


 ローレンが目を閉じたまま明らかに不機嫌だと分かる固い声を出すと、メアリ達が体を小さく震わせる。


「メアリ? 一体どうしてアルハレム君とリリアさん達にあんなことを言ったんだい? マリーナとミリーもどうしてメアリを止めなかったの?」


『………………』


 主の問いかけに三人の戦乙女達は答えることができず視線を床に落とす。それから四人の主従は誰も言葉を発せず、無言のまま馬車に体を揺らされた。


 そしてしばらく沈黙の時間が過ぎると、やがてローレンはその目を開いてため息をついた。


「はぁ……。やっぱり理由はリリアさん達のことなんだね?」


『………………』


 メアリ達三人の戦乙女は相変わらず無言で視線を床に落としていたが、ローレンはその沈黙を肯定と受け取って言葉を続ける。


「リリアさん達、本当にアルハレム君と仲がいいよね。彼女達は魔女……高位の魔物なのにまるで人間の恋人達のように連れ添って……、メアリ達はそれが気に入らなかったんだろ? ……すまない」


「え?」


「ローレン皇子?」


「いきなり何を……?」


 言葉の最後で突然謝罪の言葉を言うローレンにメアリ達が顔を上げて彼を見る。


「メアリ達のリリアさん達に対する感情……それは元を辿れば僕が原因だ。……お前達には本当にすまないと思っている」


「そんなこと!」


 ローレンの言葉にメアリが思わず立ち上がって大声を出すと、すぐに座り直して口を開いた。


「……そんなことはありません。私達、そしてここにはいない皆も今の生活に不満はありませんし、子供の頃に私達を拾ってくださったローレン皇子には感謝してもしきれません」


「メアリの言う通りです」


「私も……」


 メアリの言葉にマリーナとミリーも頷いて同意をする。それは彼女達の紛れもない本心の言葉だった。


 物心がついたときから親も家もなく、王都の路地裏で震えていた幼い頃のメアリ達を自分の従者として拾ってくれたのは、ここにいるローレンだ。もしあの時、この主に出会わなかったら自分達はここにはいなかったと彼女達は真剣に思う。


 だからこそメアリ達はローレンの力となって拾ってくれた恩を返そうと、ここにはいない自分達と同じ境遇の仲間達と共に努力をして、今では城の中でも一目置かれる一団となれた。そうして手に入れた今の生活に彼女達は何の不満も懐いていなかった。


 ……ただ一つの不満を除けば。


「……そうか。とにかく、リリアさん達とはできるだけ仲良くしてよ。できるだけでいいから」


『……はい』


 ローレンの念を押すような言葉にメアリ達三人の戦乙女は頷くのだった。

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