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第九話

「それじゃあ、行くか」


「はい」


 次の日。朝になるとアルハレムとリリアの二人は、今度こそ旅に出るべく地下室から地上に向かって階段を上り、その途中で主の後に続くサキュバスが訊ねる。


「それでアルハレム様。私は一体どんな敵と戦えばいいんですか? 森に住む魔物ですか? それともこの辺りを根城にする盗賊団?」


「え? ……いや、別に魔物や盗賊団じゃなくても森の獣相手でもいいんじゃないか?」


 リリアが言っているのはアルハレムのクエストブックに新たに記されたクエストのことである。


 クエストの内容は仲間にした魔物、つまりリリアが敵と戦うこと。しかしクエストブックには「敵と戦え」としか書いていなかったため、アルハレムの言う通り彼女がどんな相手と戦っても特に問題はないと言えた。


「森の獣なんかじゃ物足りませんよ。せっかくアルハレム様に私の勇姿を見せるチャンスなんですから、強い相手じゃないと」


 若干不満そうな顔で強い相手と戦いたいと主張するリリア。確かにただの森の獣では魔女である彼女の相手には役不足かもしれない。


「そうは言ってもな。ここに来る前の街で聞いてみたけど、この辺りには盗賊団なんていないみたいだし、森では魔物なんか出会わなかったぞ」


「そうなんですか?」


「ああ。魔物は森を探したらいるかもしれないけど、森に入ってすぐに出会えるのは思え……な……い……」


 階段を上りながら話すアルハレムだったが、地上に出た途端に言葉を失った。


 ギャア! キギィ! ブゴォッ! ギギャア!


 アルハレムとリリアが出てきた地下室への入り口。そこを無数の魔物が取り囲んでいた。


 取り囲んでいる魔物は、肌が緑色で子供ぐらいの背丈をした鬼、ゴブリンが二十匹ほどと、人間の体と豚の頭を持つオークが五匹。ちなみに全部「雄」である。


 ゴブリンとオーク達は全員手に武器を持っており、隠しようもない欲望を光らせた目をリリアに向けていた。そして何故、全部雄なのか分かったのかというと……下半身を隠している腰布の「一部」が盛り上がっているのが見えたからだった。


「こいつら何、気持ち悪い格好で取り囲んでいるんだよ。というか何でこんなに沢山のゴブリンとオークがここに来たんだ?」


 アルハレムが心底嫌そうな表情でうめくように呟くと、リリアが首をかしげながら答える。


「んー? これってもしかしたら昨日私とアルハレム様が肌を重ねたのが理由かもしれませんね?」


「………何だって?」


「サキュバスって肌を重ねた時に殿方の情欲を刺激する強い臭いを発するんですよ。それが昨日、アルハレム様と肌を重ねた時に地下室から地上に漏れ出て、森にいるゴブリンとオークの中から特に性欲が強い者を呼び出したのかと」


 思わずそんな馬鹿な、と思ってしまうアルハレムだったが、欲望に満ちた目をただリリアだけに向けるゴブリンとオーク達を見ると案外その通りかもしれない。


「でも……これは案外好都合ですね♪」


「何を……うわっ!?」


 リリアはいきなりアルハレムに抱きつくと、そのまま彼ごと空中に飛び上がり、ゴブリンとオーク達から充分に離れた場所に移動して着地する。


「これから私、あのゴブリンとオーク達を皆殺しにしてきます。だからアルハレム様はここで私の勇姿をよく見ておいてくださいね。……ん♪」


 リリアは言葉の最後でアルハレムの頬に口づけをすると、ゴブリンとオーク達の方にと向き直った。


「さあ、始めましょう」


 リリアがそう宣言すると彼女の体が青白い光に包まれた。輝力を使って身体能力を強化している時に起こる現象だ。次に彼女の背中にある一対の翼が突然二倍くらいの大きさにとなった。


「リリアの翼が……?」


「行きます!」


 言うや否やリリアは青白い閃光となってゴブリンとオーク達の群れに突撃して一瞬で群れを通りすぎる。それと同時にゴブリンの首が十個ほど体から切り離されて空中に飛んだ。


 空中に舞った十個のゴブリンの首は何が起こったか分からないといった顔をしていたが、遠くから見ていたアルハレムには見えていた。


 リリアがゴブリンとオーク達の群れを通りすぎる瞬間、彼女は巨大化した翼で自分の通り道にいたゴブリン達の首をはねたのだ。恐らくあの翼は輝力で強化されたようで、今のリリアの背中には巨大な二本の剣が生えているようなものだった。


 一瞬で仲間の半数が殺されたことにゴブリンとオーク達は戸惑い動きを止めるが、その隙を逃さずリリアは空中で反転して再び魔物の群れに突撃する。


「よそ見しているひまはないです……よっ!」


 閃光となったリリアが魔物の群れを通りすぎて再び空中に魔物の首が空中に舞う。今度はゴブリンの首が五個にオークの首が二個だ。生き残っているのはゴブリンが五匹にオークが三匹。


 キャアァ!? プキイ!?


 ここにきて生き残ったゴブリンとオーク達は、ようやくリリアが自分達の手に終えない実力の持ち主だと理解し逃げ出そうとするがもう遅い。


「逃がしませんよ。……えい♪」


『ギャアアアッ!』


 空中でリリアが背を向けて逃げ出すゴブリン達に向けて、その肉付きのよい最高級の桃のような尻をつき出す。すると彼女の尻尾が何倍の長さになって伸び、五匹のゴブリンの体をまとめて貫いた。


「それでこれで最後です♪」


『ピッ、ピギイィッ!?』


 そう言うとリリアは風のような速度で空を飛び、ゴブリン達が殺されている間も必死に逃げていた三匹のオークに一瞬で追い付くと、その凶悪な刃と化した翼でそれぞれ一撃で絶命させた。


「これは……凄いな……」


 アルハレムはリリアが魔物達を倒す姿を見て呆然としていた。


 ゴブリン二十匹にオーク五匹。ゴブリンは大して強くない最下級の魔物だし、オークだってゴブリンよりは強いがそれほど強い魔物ではない。


 だがあれだけの数のゴブリンとオーク達をこの短時間で、それも子供の遊びのように全滅させるリリアを見てアルハレムは、彼女が魔物の中でも特に強力だと言われている「魔女」なんだと再認識するのであった。

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