ep:3 根暗メガネと学校
「え~!?」
杏樹の絶叫が教室中にこだまする。
「五月蝿い」
あまりの声の大きさに両耳を塞ぐ。
「そりゃビックリするよ!」
まぁ、そうだろう。
あれだけ恋愛にまったく興味を示さなかった私が、津田さんの譲歩案に乗ったのだから。
「家庭教師なんだから、仕方がないじゃない」
「で、実際問題として、津田さんのこと好きなの?」
「……分からない」
杏樹がじとーっとした目で見てくる。
非常に居心地が悪い。
杏樹だけじゃない。
クラスのみんなの視線もこっちに来ている気がする。
「長谷川さんに彼氏…?」
「うそぉ~」
「ありえない~!」
「高瀬くんのことが好きだったんじゃないの?」
「二股とかっ!?」
「何ソレ、最悪~」
などというクラスメイトの声も聞こえてくる。
聞き耳を立てるとは…。ウザイ。ウザ過ぎる。
そもそも、高瀬くんって誰だ。
「杏樹」
「ほ~い、ティア」
「高瀬くんって誰?」
率直に質問を杏樹に投げかける。
「それは、『仮想ティア』が好きだと噂されている男の子だよ~」
杏樹の言う『仮想ティア』というのは、噂の中の私のことを指す。
噂の中の私はすばらしいことになっている。
そのうちの1つが『高瀬くん』とやらのことが好き、だそうだ。
弁解するのならば、『高瀬くん』とやらがそもそも誰だか分からない。
クラスメイトの顔をまず覚えていない(覚える気のない)私に、その人が誰なんだかはさっぱり分からない。
「だから、それは誰だって聞いているんだけど」
杏樹は私たちの居る場所から後ろの方を指差す。
「アレ」
なるほど。アレが噂の高瀬くんか。
まぁ俗に言うイケメンとかいうやつだいうことは、さすがの私でも分かる。
ときめく、ときめかないは別の問題として。
「で?」
「は?」
「今日も行くの?」
「勉強しないといけないしね、非常に残念ながら」
そう。非常に残念ながら、勉強しないとまずいので行かなければならない。
しかも、母が勝手に家庭教師を毎日頼んでしまっている。
つまり、今の私にはどうすることも出来ないということだ。
津田さんのことだ。そういうことを分かっている上で言ってきたに決まっている。
「てか、店主といつの間にそんなに仲良くなってたの?」
「別に…。家庭教師頼んでから初めてしゃべったし」
家庭教師を頼んで、勉強を教えてもらったのが津田さんとの所謂『馴れ初め』というやつだ。
恋愛小説によくあるパターンだ。
「ふぅ~ん…。なるほどね~」
杏樹が意味深な発言をする。
「何が?」
「店主、可哀想~」
いきなり津田さんに同情しだした。
ワケが分からない。
「ま、通わないといけないんだし、大人しく通えばいいじゃない」
杏樹に言われなくとも、通うつもりだ。
受験が終わるまで。自分の中で納得のいく答えが出るまで。
「そのつもり」
と、そこでチャイムが鳴ったので大人しく席に着いた。