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7.

7.



男はオオカミなのよ~、とはよく言ったものだ。


私は彼らに対して軽蔑は抱かなかった。


男性の性欲ってゆうのは抗いがたいものだというのを知っていたから。


女とは比べものにならない、獣欲とも呼べるものがあるっていうのは、知識として知っていたから。



ただ、悲しかった。



彼らは仮にもクラスメイトで、みんな面識がある。


名前だって覚えている。



柏木、東堂、平西、香川、中田、榎本、山田。



この連休が始まる前まで、普通に一緒にこの場所で授業を受けていた、クラスメイトだ。



……だけど、ここにいる彼らはもう違う。この七人は、オオカミになってしまったんだ。




人間には「理性」なんて生産性だけ考えれば無駄なものがある。


だいたい、種の繁栄だけ考えるのなら、一夫多妻は当然だし、弱肉強食もしかるべきだ。


社会のモラルとか、善いとか悪いなんてそんなことは、人間以外の動物は考えない。


だけど私は、それを大事なものだと思っている。


何がどういう理屈でどういう進化をして、人間という理性とかいうものを持つ存在を生み出したのかなんて知らない。


だけれど、とりあえずその進化とやらの果てに「理性」ってものを得たのなら、それは無駄なものじゃないと、私は信じている。



それを信じていなければ、私なんて、存在する意味が全く無くなってしまうのだから。




私は、柏木くんをふった夜。自分のどうしようもない自責に嘆いた。


私は、昨日の榎本くんの何気ない気遣いを嬉しく感じた。


だけど、その彼らがここにいるということは、私のあの時の情動は、無意味だったってことになってしまう。



もはや彼らはオオカミだった。


弱肉強食を優先する野生の性質になってしまった。



私はただ、それが悲しかった。



それでも私は、彼らの中に僅かであっても、理性が残っている事を望み、なるべく自然に口を開いた。


「ね、今日の親睦会っていつ始まるのかな?私、ちょっと早めについちゃったんだけど」


すると彼らは、馬鹿にしたようにげらげらと笑い出した。


「あー、ん~。そうねー、始まるのは……まぁこれから、かな。もうメンツは全部揃ってるし? やぁ~、わざわざ先に来て待っててくれるなんて思ってなかった。榎本、おまえ、巧いこと口説きおとしたなぁ!」


そう言ったのは柏木だった。


周りの連中はそれを聞いてまたげらげらと笑った。



なるほど。


どうやら冗談でも偶然でも、なんでもないらしい。




「――く、最低」




私は絞り出すように吐き捨てた。


駄目だ。もう諦めよう。


こいつらを人間と思って対応するのは。




馬鹿だった。私の馬鹿!


警戒を怠った。


同級生だから、クラスメイトだからなんて曖昧な理由で、「アイツ」とは違うと思い込んでいた。


「アイツ」が特殊なだけで、他の過半数の人は大丈夫なんだと、無意識に思い込んでしまっていたんだ。



――そうじゃないんだって。あれだけ言われていたのに。



……でも、待ってよ。


これって私のせいなの?


確かに今日の私の行動は少し軽率だったかもしれない。


でも、こんな狂った連中がクラスに七人!


七人だよ!?


そんなの誰が予想できるっていうの!?


それに、常識的に考えて、あり得ないじゃん! こんな状況!




『休日の夕方、無人の校舎。そこにまんまとおびき出される馬鹿女。同級生の男共は、網にかかった獲物を見てニンマリ舌なめずり。さ~て、体の親睦会の始まりだぁ~』




って、どこのエロ漫画だっつうの!


ここまで予期して行動しろっての?



……考えれば考えるほど腹が立ってきた。


こいつらのやってることはエロ漫画の再現だ。


頭が悪いにもほどがある。


後先のことなんて何にも考えてない!


こんな奴らに、こんなかたちで、母との誓いを壊されてたまるか!




『――きもちわるい――』




腹が立つ!


お母さんを殺した、「アイツ」と同じ人種に、かける情けは何もない!




『――ほら、これをよくみろよ――』




お母さんが健在だった、あの最後の日。


あの顔。あの思い。


また、あんなことになるのはゴメンだ!


下らない下らない!


こんな下らない獣欲なんかに屈するな!


弾き飛ばしてやるんだ! 絶対に!




私の事情なんて知りもしない柏木は、例の馴れ馴れしい、でもいつもの何倍も吐き気のするにやにや顔で話を続けた。


「近江さ、俺のこと興味ないとかゆってたじゃんか。あれで俺、まじでヘコんだんだよ」


くそ、私が悪いみたいに言うな!


無理矢理言わせたのはそっちだろ馬鹿!


話しながら、柏木は私の席に近づいてくる。


後ろに他四人を引き連れて。


どうやら、榎本・山田の二人は私が逃げないように入り口のところで番をしているらしかった。


なるほど。目の前の五人がオオカミなら、門番二人は犬ってところなんだろう。


つまり、この「親睦会」に参加するのは、眼前に迫る五人だけってワケだ。



自分でそう考えて笑えた。



運動オンチの女ひとりが男五人に囲まれて。


どっちにしろ、多勢に無勢には変わらないってのに。



「でよ、こいつらに話したらさ、"興味ない"ってことは、やっぱコミュニケーションが足りなかったんじゃねぇかって結論になってな。こうやって親睦会開くことにしたんだよ。お前と俺らのッ!」



それでも諦めるわけにはいかない。


もはや眼前に迫っていた柏木は、「のッ!」の瞬間私の腕に掴みかかってきた。


私は寸でのところでそれをかわし、もう一方の手に握られていた鞄を右ばらいに思い切り振り、柏木の側頭部を殴りつけた。


「――チッ!」


柏木はつんのめって、そのままこけた。


私はその隙に鞄を捨て、さっきまで座っていた椅子を両手で持ち上げて、目の前の連中に向け、思いっきりぶん投げる。


私のこの反撃はこいつらにとって予想外だったに違いない。



普段の私はどちらかと言えばおとなしい、押しが弱い性格だ。


でも、今は違う。


目の前にいる奴らは「アイツ」と同じなんだ。


そう思えば、私が手加減する理由はない!



そうは言っても相手は男でしかも五人。


どうやったって追っ払うのは無理だ。


かといって入り口は前も後ろも固められている。


逃げるのも困難。


このままじゃ、いくら抵抗したって捕まるのは時間の問題だ。



ならどうする? 考えろ私!



「っタカクとまってんなゥラァーッ!」


「ひ!」


次の瞬間、私は『ブンッ』という空気の摩擦音と、すぐ背後で耳をつんざくような破裂音を聞いた。



……こ、こわっ!



私が今投げた椅子を、東堂は叫びながら放り返したのだ。


私はとっさにしゃがんでそれを避けたが、そのまま椅子は私の頭上すれすれを通り過ぎ、背後の窓ガラスを砕き、下の花壇の方へ落ちていった。



あ……ありえない。なんだよこの馬鹿力。



でもそれを見てピンと来た。



そうだ! 窓から逃げられるじゃんか!



――といっても、ここは1階じゃない。3階だ。


飛び降りればただではすまないだろう。


でも、いまの私にそんなことを考える余裕なんて無かった。


しゃがんだ姿勢のまま目の前の机の脚をふん掴み、立ち上がると共にバットの如く思いっきり振り上げた。


「ぃギッ!」


「っでぇ!」


机の角が、イ~イ感じで目の前にいた東堂と平西の顎とこめかみの辺りにきまった。


そしてその振り上げたままの机を、目の前で呆然としている中田に向かって振り下ろす感じで思いっきりぶん投げた。


――まさに火事場のなんとかだった。


「うぁ!」


中田はそれをかわしたようだったが関係ない。


私すでに体の向きを180度回転させ、割れた窓に向かって立ち高飛びよろしく、勢いつけて飛び降りていた。


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