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5.

5月4日(火)


5.



ゴールデンウィークは何事もなく過ぎていった。


美智が言っていたような出会いなんてものは当然のようにあるわけもなく。



……もしかしたら柏木くんがそうだったのかもしれないが……。



休みも残すところ二日となった火曜日の午後、私は美智の家に遊びに来ていた。


美智はテニス部に所属していたので、今日しか休みがなかったのだ。




「ね、次コレ! 試してみよっか!」


「う~、もう好きにしてくれ~」




私は美智に頼まれて、この家に来る途中、本屋でヘアスタイル雑誌を買ってきた。


はじめ、私は、



"美智もこういうのを読んで色々研究してるんだな~"



ぐらいにしか思っていなかった。


だが、美智の部屋に案内されてから、私はこいつの本当の狙いを知るのだった。


美智はその雑誌に載っている中から私の髪の長さで出来そうな髪型を探し、私を実験台にして手当たり次第に再現しはじめたのだ。




「お~! いいねぇ~! やーっぱ映える! 絵になるわ~。じゃ、これも一枚撮っておこっか! ほれほれ! いい顔して! いいかおっ!」


一枚と言いつつパシャパシャ何度もデジカメのシャッターを下ろす美智。


かれこれ何種類目だ?


髪型を変えるたびに服まで着替えさせられるので、こっちはもうクタクタだ。



それに比べ、美智の集中力の持続時間は半端じゃない。


始めてからぶっ続けで3時間、未だにピンピンしている。



……さすがは運動部。



「いっや~! この連休、最初で最後にして最高の思い出が出来たねー! この写真、見てみなよ! 目ぇ潤んでるよ! チワワかてめぇは!」



ううう……、うるさい。涙も出るってーの。



「コレ学校の男共に見せたら、どんな顔するかねぇ~♪ けっけっけ! こいつぁーひと儲けできそうだぜ」


「それ、ホントにやったら、マジで怒る……。明日の朝日は……見られなくなるからね」


「げ! 冗談に決まってんでしょ!? 誰がこんな可愛い写真を手放すもんかい! ……てゆうかしぶちん、そのうなだれた抑揚ない言い方でそーゆーコト言われると、マジ怖いんだけど」



誰のせいだ!!



「……さて、じゃあしぶちんもお疲れのようだしそろそろ――」



や……、やっと、終わる……。



「――最後、とっておきのコ・レ! イこうか♪」



……あ、あはは。


……んなことだろうと思ってましたよ。


……ううう。




さんざん着せ替え人形にされてようやく解放される。


帰宅したのは8時過ぎだった。


おじぃとおばぁは私が帰るまで夕ご飯を食べるのを待っていてくれたみたいだ。


先食べちゃっていいって電話したのにな。


ホント気使い屋なんだからなぁ、もう。


夕食を終え、居間で三人してテレビを見ていると、電話が鳴った。


廊下に出て電話をとる。



「はい。近江ですが」


『……あ、もしもし、榎本と申します……えと、夜分遅く、すいません……あの……し、雌舞希さんは、ご在宅でしょうか』


「え? あ、私、雌舞希だけど。榎本くん? どうしたの? あれ、てゆうか何でうちの番号――」


『あの……、連絡網で……』



電話の主はクラスメイトの榎本信二えのもとしんじだった。



四月の初め。


私たち2年B組クラスメイト全員の連絡先が書かれたプリントが配られていた。


なにか学校から、またはクラス内で連絡事項があった場合、それを使って名簿順で伝えていくことになっていたのだ。



で、私の前がこの榎本くんという男の子だった。



「あー、そっか。え、なに? なんか連絡回ってるの?」


『うん……あの、明日……ね、夕方の5時から、クラスで、ね、み……みんなで集まって、親睦会、やるんだって。それで、もし、時間が空いてたら、その時間帯に……B組に、集まってほしいんだって……』


……榎本くんってこんな話し方なんだ。


なんてゆうか、どもる?ってゆうのか。


「明日の5時に教室? うん。わかった。多分行けると思う。榎本くんは? 来れそうなの? 何か持って行った方がいいのかな」


『……ん、たぶん、僕も、行けると思う。……持ち物は、特に何も、いらないって』


「そっか。人数、なるべく集まるといいね。えっと、ということは……」




――あ。




そうだ。


私の名簿の次の人は、柏木くんじゃないか。


うぁ。これは、気まずいなぁ……。



『柏木くんには、僕から連絡、入れておくよ……』


「――え?」


どきっとした。


な、なに? 彼は忍者か?


それか私、声に出してたか?


『あ……、連休の前、なんか昼休みに、言い合い……してたし。その後も、なんか、気まずそうだった……から』


あぁ、なんだ。そういうことか。びびった。



でも、それならありがたく甘えさせてもらおう。


今、柏木くんは私とは話してくれそうにないし。



――それにしても、今まであんまし喋ったことなかったけど、いい人なんだなぁ、榎本くん。



「うん。そうだね。ちょっと気まずい。ごめん! 悪いけど、お願いしてもいいかな?」


『……うん。わかった。そ、それじゃ。また、明日……』


「あ、うん。おやすみ。……ホントゴメンね。それと、ありがとう。それじゃ」


『う……ぅん……』


それで電話を置き、私は居間へ戻った。


「誰から電話ぁだったんだい?」


と、おじぃ。


「あー、うん。クラスの子。なんか、明日教室で親睦会やるんだって。5時からって言ってたから、多分ご飯も出るんだと思う。だから、明日は晩ご飯いいよ。今日みたいに待ってたら駄目だからね?」


念を押して言っておかないと、この二人はすぐ忘れる。


痴呆、というよりは天然なのだ。


「へぇーえ。お休みの日にそんな事するのかい。すごいねぇ」


「んー。そうだね~。多分休みも明日で終わり、だからこそってことなのかも」


「ほーお。そんじゃあぁ楽しんでこい。おばぁ、風呂ぉ、そろそろ沸いたんじゃねえぇか?」


「あー、はいはい」


その後、おじぃ、おばぁ、私の順に風呂に入り床についた。



明日は親睦会か。


こういう賑やかそうなイベントは好きだ。


きっと良い思い出になる。



私はそんなことを考えながら眠りに落ちていった。




――結果として、この『親睦会』は、私にとってすごく強烈な思い出となる。


私がこの夜思い描いていたようなものとは、全くかけ離れた別物ではあったが――。


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