17.
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同日放課後。
美智は言った。
「志田と二人で夕方まで待ってて」
私は思わずポカンとしてしまった。
今日一日、午後も相変わらず、美智はず~っと私を手放さなかった。
それは男子が「レズコンビ~!」とかアホみたいなチャチを入れるほど厳重この上ない監視だった。
――ちなみに、その発言をした高佐木少年は、
「テメェらみたいなボケがいるから雌舞希はなあッ!」
と、美智の極めてデリケートな逆鱗に触れ、敢えなくご臨終なされた。
や、死んではいないが。
そして放課後。
美智には部活があるので、さすがに私の下校の監視まではしないだろうと思っていた。
ところが美智は、下校時が一番危ない! といって私がひとり帰ることを許してくれなかったのだ。
部活サボって護衛する! とまで言ってくれたが、さすがにそれはあんまりに悪いので止めた。
そこで、美智はクラスの仲の良い女子に、私の帰宅時の身辺警護を依頼した。
――女の子が身辺警護ってゆうのも妙な話だが、まぁ今回は事が事だ、男には頼れないだろう――しかし皆帰り道が違ったり、美智と同じように部活があったりしたので、そこまで迷惑掛けられないとやはり私が断った。
それでもまだ、美智は諦めてくれなかった。
それなら自分が部活を終えるまでの間、私に学校で待っていろ! と、こう言い出した。
そして今に至る。
美智は何故かここで志田の名前を出したのだった。
「え、え? なんで志田?」
「だって、アンタが男にあんなに気安いの、初めて見たもん。信頼できる奴なんでしょ? 女が駄目なら、せめて一番信頼できる男の近くで待ってた方が安全じゃん。あたしが今日話してみた感じでも、悪い奴じゃなさそうだったし」
意外だった。
何が意外って、私がそんなに彼に対して油断を見せていたということが。
それも、美智に言われる今まで自分で気付いてさえいなかった。
それ程に彼に油断を見せていたことが、今更私の背筋を凍らせる。
そんな私の心情なんて知るはずもない美智は続けて言った。
「そうか、職員室で待つって手もあるな。うーん、それが一番安全そうだけど、待つにはつらいかなぁ。ね、どっちがいい?」
そう訊かれて私は何故か、
「……り、両方」
なんて答えてしまっていた。
「は? なんだそりゃ」
と答えるのは志田由高。
当然だ。
放課後突然やって来た、今日初めて会った奴に、
「今から夕方まで、しぶちんと一緒にいてあげて!」
なんて言われてしまったのだから。
詳しい事情を私から説明すると、彼は比較的すぐに理解を示してくれた。
……まぁ事件のほとんどを知っている人物だったので。
「でも、オレも一応園芸部なんだけど。オレしか真面目に花壇の面倒見るような奴、いないし」
あ~、そういや、そうだった。
うちの学校は基本的に部活無所属(いわゆる帰宅部)が許されていない。
かと言って、全ての生徒に何らかの部活動をしろと言ったって無理な話だ。
家の事情(私なんかはこれだが)だとか、アルバイト、単に部活に入りたくない生徒。
理由は色々あるが、そう言った生徒は、一応全員便宜上だけ「園芸部所属」ということにされるのだ。
……だから私も一応、園芸部員だった。
あくまで便宜上の話で、方便のようなものだけれど。
「なにバカ言ってんの! 木や花や野菜は一日ぐらい水やらなくても死なないだろ! でもしぶちんは今日襲われちゃったら、もう立ち直れなくなるかもしれないんだよ? アンタ! この子の命が花一日分の水より劣るっての!」
……美智の言い方は大袈裟すぎる。
これではよほどの人でなしでないかぎり断りきれないだろう。
……こわい。美智は敵に回してはいけない。
「んー。わかった。承諾。でも、なんで職員室限定なんだ? それってオレ、信用されてないってコト? じゃあ、そもそも、オレがいる意味って何よ?」
う……。
それを訊かれると困る。
私だってなんでこんな風に答えてしまったのか、説明できない。
私が返答に困っていると、美智はすかさず、
「ああそうよ! アンタは信用してない!」
と言い放った。そしてさらに、
「でも、ひとりで職員室いたら暇じゃん! 志田、アンタはしぶちんの退屈しのぎ! それに選ばれただけでも光栄に思うがいいわ!」
と続けた。
……身も蓋もなかった。
この無茶な申し出に志田はキョトンとしていたが、すぐに表情を崩し、
「そら~光栄だ。じゃ、せいぜい暇がつぶれるよう頑張る」
なんて答えてくれたのだった。




