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15.

15.



骨折なら、瞬間の痛みは激しくても、安静にすればすぐに完治する。


しかし癌なら?


じわじわ後から効いてきて、気付いたときにはもう遅い。




私はボコボコに歪んだ自分の席について、後ろの柏木と向き合っていた。


「昨日のこと、バラしたら、どうなるかわかってるよな?」


これは当然柏木だ。


さっきまで屍のようだった柏木は、不健康な病人ぐらいには回復していた。


どうやら私なら、強気に出れば屈するかもしれないと思ったんだろう。


だけれど、こいつは勘違いしている。



私だからこそ、屈するはずがない。



まぁ、そんなことはこいつには関係ないことだ。


今はそうやって勘違いしていてくれた方が大いに助かる。


その方が効果が増すというものだ。


「ええ。誰にも話してないし、話すつもりもないわ」


私はわざと、普段使わないような、漫画の登場人物みたいな優雅な口調で答える。


「あ? 辻に話してんじゃねぇか! おい、さっきだってな、なんかみんな俺のこと怪しんでたんだぞ! ふざけんなよ!」


実際、首謀者なワケで、ふざけるもくそもないと思うが。


「美智にだって、私は話してないわ。きっとボロボロになっていた私や私の机なんかを見て、あの子が思い込みをしただけよ。美智って他人想いな子だから。現に、昨日いた他の人たちには何も言わなかったでしょ? 休み前、私たち一緒にお昼を食べていたものね。勘違いしても仕方がないわ」


相手の動揺を誘うため、無駄に丁寧な口調を使っているが、自分で言ってて気持ち悪い。


「あ、あぁ……そぅ……か」


冷静な私の言葉に、納得せざるを得ない柏木。



――そして私は爆弾を投下する。




「それに私、貴方達に罪が掛けられないように根回しまでしてあげたのよ?」




柏木は、もはや私と話すときにお約束のように見せるようになっている、煙に巻かれたような顔をした。


「私、さっきの休み時間に職員室へ行って、進言してきたのよ。"私、昨日の事件の当事者でした"って」


それを聞いて柏木は青ざめ、そして何か言おうとしたが、私は構わず話しつづけた。


「"昨日、美智と会う約束があったけれど、彼女は部活があったので、私はひとり教室で夕方まで終わるのを待っていました。すると見たこともない中年のおじさんが教室に入ってきて、突然襲われてしまいました。私が抵抗すると、そのおじさんは逆上して、机や椅子を投げつけてきました。その時、その物音を聞きつけて、教室に人が近づいてくる足音が聞こえたので、そのおじさんは逃げてしまいました"」


私は淡々と語る。


実際のところ先生には、これに志田少年武勇伝やらが入った内容が吹き込まれているが、こいつはそんなこと知らない。


なら、こいつらにとって意味のない部分は省くべきだ。


柏木は呆然としている。


「な、なんだよ、それ……」


わけがわからないのだろう。


ゾンビか化け物でも見るような目で私を見ている。


「どう? これ。完璧でしょ? だから、貴方達が"大人しくしていてくれれば"、疑いがかかることもないわ。安心してね」


にっこり笑顔。



うわぁ。


私って、開き直ればこんなさぶいことまで出来るんだ……。


役者とか、むいてるのかも。



――さらに私は爆撃を続ける。


「大人しくしていてくれるのなら、私は誰にも本当のことは言わないわ。人間だものね。動物じゃないんだから、これでわかってくれるかしら?」


柏木は相変わらず事態を飲み込めないといった表情。


「そう。ん~、手っ取り早く言ってあげると……」



うわ! 気持ち悪っ私! 小首なんてかしげてるよ!



でも、それもここまで。


それまで笑顔だった私は、そこで顔面から一切の感情を殺し、一番こいつらに伝えたかったことを告げる――。




「次が無いのはアンタたち。私はもうアンタのことは人間としてさえ見ない。また襲うんならそれでもいいよ。私は不思議そうにも思わないし、躊躇もしない。山で熊に襲われたのと、何の違いも見いださない。ただ、しつける努力はするよ。今のこれもそう。意味がわかる? わからない? わからなければ、ただこれだけ守りなさい。"大人しくしていること"。他の連中にも伝えておきなさい。いい? もう一度言うよ。――次は、無いから」




私は柏木の両眼を射抜いて放さない。


柏木にもはや、刃向かう余裕など残されていなかった。


さっき、美智に詰問された時なんかと比べても比較にならないほど、完全に崩落していた。


そこで私は表情を崩す。


そして、


「だから、安心していいよ。昨日の事件は解決した。楽しい高校生活を再開するといいわ」


柏木に巻いた首輪に錠をかけた。


それを確信する。


私は内心ニンマリ、外面にっこりのまま彼を解放し、くるりと踵を返し教室前方に向き直る。


そして、後ろから「――ごくり」と生唾を飲み下す音が聞こえると、私はこみ上げる笑いをこらえるのが大変だった。




ここで一応種明かし。



私のさっきの会話は、始めっからず~っと演技だ。


最後の忠告は、もちろん私の本心ではあったが、実際マジで襲われたら私だってたまったモンじゃない。


だが、それまでの彼らにとって不可解な私の行動と、私の今の話術(思った以上にうまくいったと自負!)によって、彼の中での私に対する不気味さ、奇妙さは絶大なものになったはずだ。


そうなれば後は、「もしもそんな強行に出たなら、何が起こるかわからない」という不安の種に、彼が勝手に水をやって膨らませていってくれる。


これぞ私の閃いた秘策!


名付けて「恐怖の雌舞希癌しぶきがん」!


あの志田くんとか言う変な奴(怪我させといて失礼だな私)が、勝手にしていた虚偽の進言まで話に絡める巧妙さ!



ふっふっふ。私もなかなかの策士よのぅ♪


ああ! すっきりした!


ざっまーみやがれっ!


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