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13.

13.



志田という男は、どうやら私を捜して職員室へ来たらしかった。


で、私を廊下に誘い、ぬけぬけと話し始めた。


「B組行ったらいなかったから、今日は休みかと思ったんだよ。だって、昨日の今日だろ? だから休むんじゃないかなー、って。でも、一応てきとうな奴つかまえて訊いてみたらさ、休んでないっつうからね、今まで探してた。ね、昨日のこれ。かんな~り、痛かったんだけど」


包帯を巻いた左手を示す志田。


なにを話すかと思えば本当にぬけぬけと。



なんだそりゃ!


そんなの自業自得だろこの野郎!



「昨日のこと、知ってるみたいだね。って当たり前か。先回りして嘘の証言までして。しかも自分はヒーロー気取り? ふざけないでよ! こんなんで逃れられると思ってるんなら浅はかもいいとこだね! ホントのこと全部暴露してやるから! せいぜい停学程度ですむのを祈ってなよ。まぁ私はそんなんじゃ全然収まりつかないけどね。アンタたちのことは絶対、許さないから!」


私は勢い任せにまくし立てた。


対する志田は、なんだか間抜けな顔でこっちを見ていた。


「あれ? 昨日のあれって、そういう事情じゃなかったの? だってキミさ、すんげー脅えてたし。レイプにでもあったのかな~、て思ったんだけど。まぁ、確かに演出過多ってゆうか、ん、まぁオレも主人公気取っちゃったかもしれないけど。え? キミに刺されたことバレるとオレ、停学になるの? なんで?」



……何言ってんだこいつ。



私を挑発してるのか?


まさかそれで言い逃れられると思ってるわけ?


「バカにしてんの? レイプしようとしたのはアンタたちでしょ! 何言ってんの!?」


志田はますます間抜けなポカンとした顔になる。


「ん~っと。ごめん。ちょっといい? さっきから何で怒ってるかオレ、イマイチわかんないんだけど。その『アンタタチ』って何? それにオレ、含まれてんの?」



なんだって?


ホント、何言ってんのこいつ?


……全然会話がかみ合わない。



「だってアンタ、柏木くんなんかの仲間なんでしょうが!」


「カシワギ? ……ごめん。オレ他人の名前覚えんの苦手なんだよ。B組の奴? だったらほぼ確実、覚えてないわ。ん、そいつの仲間ってゆうなら、オレは違うよ。ほれ、どうだ? コレで納得いったか? じゃ、今度こっちね。この左手、どうしてくれんの? 利き腕使えないんで、すげぇ不便なんだけど」



な、仲間じゃない? うそ!?


それじゃあ、えーっと。ってゆうことは……。


え? え? え?



「ちょ、ちょっと待ってよ! 関係ないなら、何でわざわざあんな進言なんてしてたの?」



……わけがわからない。


何この状況?



「おい、だからこっちの番だっつったろ? ……ま、いいや。それ答えたら今度こそこっちな。あれは別に意味はないよ。ただ、キミが自分で進言するのは、しんどいかと思ってやっただけ。だって、昨日のキミ、恐がり方尋常じゃなかったしさ。肩に手置いただけでガラスでブッシューだもんな。酷いことされたのかなーって思ったら、ついぺらぺらと想像と武勇伝を交えて進言してた。……ん。あ! あぁー! ごめん。無難に知らないおっさんが襲ったことにしちゃったけど、違ったんだよな。それで怒ってんの? いや、違うか。えーっと。オレを犯人の仲間だと思ったから刺したってコトだろ? さっきの……カワギシ、だっけ? あぁ、それで怒ってたんか。そっかー。そうだよな。同級生に襲われたらビビるよな。あー……。そらしょうがないか」


ぺらぺらと彼が話すのをただ見上げて、私は放心していた。


そして、この数分間に何度も思った単語が、また頭の中をよぎった。




……何言ってんだろう、こいつ。




「うん。それだったらしょうがねーよ。悪かった。じゃ、この腕のことはもういい。じゃあな。もう襲われんなよ、近江雌舞希」


なんだか勝手にひとり話し続け、納得して立ち去ろうとする志田。


そんな彼のその態度は嘘をついているにしてはあまりにあっけらかんとしすぎていた。


話にも筋が通っていた。



どうやら、この件に関して、彼は本当に無関係だったらしい。



とその時、今更ながらに気付いて、疑問をそのまま口にした。


「――あれ? そういえば、なんで私の名前……」


私が呆然と呟いた言葉に志田はくるっと振り返り、ちょっと不機嫌そうに、


「あー、そうだった。先に落ちてきた椅子。オレの花壇踏みつぶしたアレに書いてあった。キミも、花壇つぶしたよな。で、それ問いただそうと、……ってゆうか、心配して声掛けたんだぞ? いちおう。そしたら、……コレだもんな」


と、左手を上げて私に見せつけるように振ってみせた。


あの花壇は彼が世話していたらしい。


「さすがにオレでも覚えるよ」



……う。あ……ああぁ……。



私はまたも今更ながら、自分がこの人にとってどれだけの災難だったか気づき、


「う! ぅあ! ご、ごめん! ホント! あの時、私、動転してて! さっきも! 貴方は全然関係なかったのに! 早とちりして、どなっちゃって! その、ごめんなさい!」


と、頭を下げた。


なんだか、すごく恥ずかしかった。


私が頭を上げると、志田はちょっと驚いたような顔で、


「それ、もういいって。オレもキミがビビってんの、気付いてたのに配慮足りてなかった。ごめんな。でも、あの花壇の土、耕しといて良かったよ。下手したら大怪我だもんなキミ。……ん。じゃ、これ名誉の負傷だ!」


と言ってくれた。


……でもそれは、ちょっと違うと思う。


志田はちょっと笑いをこらえるような顔で言う。


「最初刺してくるし、今日もいきなりキレてたし、短気な奴って思ったけどさ」



……うううう、ごめんなさい。



そして彼は、なんだか嬉しそうに、こう続けた。


「けっこう話せるじゃんキミ。オレも、いらんコトしちゃって悪かった。それで誤解されたんだもんな。すまん」


彼はそれで振り返り、今度こそ去っていった。


取り残されたようにその背中を眺めていた私は、当初の目的も忘れ、穴があったら入りたい気分でいっぱいになっていた。


その時、『キーンコーンカーンコーン』と、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響き、私はようやくここへ来た目的と、その目的を果たす機会が先延びになってしまった事に気付いたのだった。


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