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いつもの場所で…。(夏原 瞳編)

 授業というのは、先生に当てられることさえなければ基本は子守唄かお経と変わらない。だから、ただ無心になっているか何か一つのことに集中しているだけであっという間にその時間は終わる。

 結果を言うと、僕は睡眠と言う人間には必要不可欠な所作によって見事、午前中の授業を切り抜けることができた。おかげで、ノートが…真っ白だ…。苺の模様すらない真っ白なノートだ…。ちなみに、僕は白でも黒でもベージュ以外なら余裕でオッケーだ。

 僕は机に置いていた午前中最後の授業の教科書類をかばんにしまうと、足早に弁当を持って外に出て行った。いつもの場所に向かったのだ。

 僕の通っている学校は、5つの校舎から出来ているのだが…その内の1つ(5棟)が旧校舎である。そこは元々、戦後しばらくまで学び舎として使用されていたのだが、平成になってから新築された校舎(1棟)によってその役目を終えていったそうだ…。古いものが新しいものに常に除外される…。僕はその旧校舎に何となく愛着が沸いていた。それと、旧校舎で立ち入り禁止な上に、見た目も相当な風化を感じさせる程に廃れていたために、誰もそこに近寄ろうとはしない。だから、独りで過ごすにはとっておきの場所なので…僕はこの旧校舎の中で食事をしている。立ち入り禁止にされているといっても、国家権力の人達がよく貼っているテープを四隅のポールを伝って囲っているだけなので跨いだりしていけば余裕で入ることができる。ガンダムファイトのリングロープはちゃんとしていないとダメじゃないか…。

 僕はその「いつもの場所」…旧校舎内の入口付近のところでちょっとした秘密基地気分に子供心を抱きながら、食事をしていた。屋内なのでほとんどは日陰なのだが、時々ちらほらと天井の隙間から日光が差し込んできて…遠目に見ていると風情を感じる。

 おかずやご飯を口に運びながら、その風情を薄目で楽しんでいると…入口のガラス面から人影が見えた。ゆらゆらとこちらに近づいて来るに連れて段々はっきりと映ってきた。長く腰まで伸び、茶髪がかったポニーテール、運動系の部活をしていることを思わせる細いながらも無駄のない引き締まった体つき、出るところはしっかり出ている。おまけに着ているカッターシャツのボタンを第3くらいまで外しているため、ふくよかな胸元と身につけられた小さなネックレスが揺れているのが見えていた。僕は人影の正体が見え始めてからしばらく見とれてしまっていた。はっきり言って、美少女だった…。だが、僕は我に返ると自分がこんなことにいると確実に絡まれると思い慌てて弁当を持って入り口側の壁に隠れた。ここで、あんなリア充していそうな女の子に見つかったら確実にろくなことがないと、僕の封印された右目が…じゃなくて、本能が脳内でコンディションレッドの警報を鳴らしていた。息を潜めながら、入口を窺うと彼女は校舎内に入ってきた…。彼女は、周囲をきょろきょろと見ながら僕の方へ歩を進めて来た。ヤバい…今ばれたら確実に変人扱いだ…。そうなったら、ただでさえ話さなくて好かれていないのに…もっとそれが鰻上りになってしまう…。僕は緊張で早くなった鼓動と冷や汗を抑えながら彼女を窺った。そして、その子が僕の隣を通った瞬間だった。僕が隠れた時に出してしまっていた右足のつま先に彼女が引っ掛かった。そして、彼女はそのまま僕のいる方向と垂直になるように前から倒れた。あまりの光景に僕は思わず、声を漏らしてしまった。

「あっ…。」

気がついた時には、彼女は頬を紅潮させながらこちらをキッと睨みつけていた。キャンベル大佐…僕、段ボールでの潜入向いていないようです…。


 これが、彼女…夏原瞳との初対面だった。

 

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