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8話 洛陽に行く前に・後編

復興作業の指揮所に春蘭、秋蘭、そして季衣が帰ってきた。時間が丁度空いた為に秋蘭と季衣の2人に黄巾党との戦闘のことを聞いたのだが、私はその事実に愕然とさせられた。


「それは本当なの……?」


「っは! 情報が嘘でなければ紀霊は北門に居た約千の敵を一人で屠った後西門で季衣を助け出し、楽進の助けあったとはいえ、それだけの事をこなした後に((殿|しんがり))も見事に果たしたと聞いています」


「季衣、あなた紀霊に助けられたのかしら?」


「はい。ボクが暴走してちゃって、敵の真っ只中に居るのをお兄ちゃん一人で助けに来てくれたんです」


威圧をかけても目を逸らさずに答える季衣を見て嘘ではないと確信する。これで季衣を助けたことは確認できたけど、その前に一人で千人も殲滅したなんて……。黄巾党の兵の質が良くないことを差し引いてもこれは驚嘆にあたいする。腕のいい武人とは踏んでいたけれどまさかここまでなんて。


となると先ほど囲った際に私が感じていた絶対的有利という状況はあの男の手のひらの上だったの?


そもそも春蘭に隙が出来たとはいえあそこまで綺麗に倒していたのだから、他の兵などひとたまりもないはずだ。あまりに簡単に抵抗をやめたからそこまで気づけなかったのはやはりそう仕向けられていたから?


けれどそれなら紀霊は一体なにを考えているのかしら? 一刀を借りて何をしようというの……彼には天の御使いという肩書きぐらいしか役に立つものが今のところない、それも個人で使うにはあまり意味を成さないはずだけれど


「秋蘭、北門での出来事はどれほど信憑性があるのかしら?」


「北門にいた楽進、その他全ての兵がその証言をしていますのでまず間違いないかと」


わからないわね。季衣と秋蘭を助けたという実績があるのならそれを利用してもっと有利にことを運べたはずなのに……。


考えてもわからないものは仕方がないわ。無駄に時間を浪費するよりは本人に直接聞くことにしましょう。


「春蘭、秋蘭。紀霊の居場所を探し出しなさい。季衣は桂花を呼んで私と一緒に来なさい」


「「っは!」」「わかりました」


春蘭たちが指示に従い散ってゆくのを見届けた後1人呟く。……この曹孟徳がここまで振り回されるなんて不覚としか言いようがない、大した男だとは思うけれどこれ以上馬鹿にさせるわけにはいかないわ。全く本当に苛々させてくれる男ね。


ああ、もうこれは紀霊に直接苛立ちをぶつけるしかないわね……こんなに振り回してくれたんだもの、当然だと言えるわ。


早く見つからないかしら……ふふ。


1人笑みを深くして紀霊を待つ、曹操の中で苛々が楽しみに変わった瞬間だった。





◇◇◇◇





復興の手伝いが終わって凪、沙和、綾、かごめ、そして(綾たちと別れる時に置き忘れていた)未だに気絶している一刀を回収し、食べ物を食い漁っている季衣を見つけて合流した。本当なら夏候惇と夏侯淵もいたのだが用事があると言って季衣と何か話した後どこかへ行ってしまった。


といっても後で合流すると言っていたし、ずいぶん大所帯になったせいもあって皆で食べられるおいしい飯屋へに行ってお別れ会をしようと言う流れになった。丁度季衣がそれっぽい場所を知っているらしいので探さずに済んだのはありがたかった。


飯屋に行く道中一刀は街の子供たちに大変人気でつんつんされたり、殴られたり、蹴られてたりと遊ばれていたのだが、これは本人にばれなければいいやとか思っていたりする。


そんな一刀を見ているとふいに急に背筋に悪寒が走りぬけていく。


「時雨…だい…じょう、ぶ?」


微かに震えるのを見られたのか、かごめがこちらを覗き込んで心配してくれる。相変わらずいい子だなぁと思いつつ大したことではないと伝える。


「心配してくれてありがとな。大丈夫、ちょっと寒気がしただけだからさ」


過保護と言っていいほど心配してくるかごめ。どうやって言いくるめていいわからず、感謝の意を込めていつもの様に優しく頭を撫でてやる。


撫でながら倒れた時の事を思い出す、あの時もずっとそばに居てくれたみたいだしかごめは結構心配性なのかもしれない。


あれ? でもあの後すぐでていってどこ行ったんだろうか? この様子から見るに簡単に傍を離れそうにもないけれど


「なぁ、かごめ。今朝俺を起こしてくれた後どこ行ったんだ?」


「えと……みん、なに…つた…えた」


ぁあ、なるほどと納得する。あの時かごめが飛影に乗っていたのは俺がちゃんと起きたことを飛影に乗って皆に言って回っていたからか。


かごめに伝えられていたせいか大した反応もしていなかった気もするが、やっぱり皆に心配かけていたようだ。ぼっちだった時はこんなに大勢から心配される経験なんてなかったからなかなか気づけない。悪いとは思うけれど心配をしてくれたことに嬉しさを感じる自分がいる。


かごめの話を聞きながら機嫌よく歩いていく。


時雨の足取りが軽い事もあって季衣が美味しかったという場所に到着するのにはそうかからなかった。


店内はあまり綺麗とは言い切れなかったが、皆気にした様子もなくそれぞれ席につき注文し始める。


そんな中、大胆にもいきなりかごめが俺のひざに乗ってきたからさービックリ。あまりの驚きで目を白黒させているとかごめがこちらに振り返って上目使いで問いかけてける。


「ダメ……?」


俺のツボを正確に把握してるんじゃないだろうかと言うぐらい絶妙な攻撃だ。全然ダメじゃありません。


「別にいいよ」


俺が許可を出すと同時に満面の笑みになって鼻歌を歌いながら前を向く、その仕草があまりの可愛いくてついつい頭を撫でてしまう。もうこれは完全に癖になってるなと自覚せずにはいられない。


そうしてかごめを撫でていると周りから執拗に視線が集まっているのに気づく。一体どうしたというのだろうか?


「もー、かごめちゃんばっかりずるい!」


むくれながら綾が文句を言ってくる。相変わらずむくれる綾は可愛いが、さすがに綾を膝に乗せるのは厳しい、ここは無難に回避しないといけない。


「そうはいってもなー。かごめにはなんだかんだ世話になってるしな、ご褒美ってやつだ」


「時雨さん、料理はもう頼みましたか? なんなら私が頼みますが」


俺が発言した瞬間に辺りがシーンと静まり返ってしまった。どうしてだ? と思って焦ったのだが、次の瞬間には凪が手伝いを申し出ていた。真面目な凪なら当然のことかもしれないが何処か有無を言わせぬ物言いに頷いてしまう。助かったのか助かってないのか良くわからない状況だ。


「えっと、それじゃ任せようかな……」


「はい!」


元気良く返事し、さっそく俺の分の注文に取り掛かる凪。その声をとっかかり皆が皆一斉に動き出す。


「むー、ボクがこの店紹介したんだよ!」


「ああ、そうだったな季衣。すまないけどかごめ片足に座ってくれるか?」


「わかった」


かごめが片足に座りなおすと季衣が片足に座ったので撫でてやる……なんだか♪が見える気がする。足が少し痺れるがここは我慢だ。


「むー、出遅れたなのー。こうなったら沙和は肩をもむの!」


そういって肩をもみだす沙和、いきなりどうしたんだ? という気持ちはあるものの、気持ちいいのでとりあえず流れに身を任せる。


気づかぬうちにどんどん流されていっている。けれど気づいた所で逆らうに逆らえない。


「凪、沙和ありがとな、後で何かして欲しいことがあれば聞くけど……」


「ありがとうございます!」「ありがとうなのー」


2人は驚くほどのスピードで反応し、お礼を言った後なにやらゴニョゴニョとこちらに聞こえない様に話し合っていた。何させられるのかかなり気になる……、不用意な発言は気を付けるべきかもしれない。


「むーーーー、何も思いつかないよー」


綾がそういって唸る、なんだか1人気の利かない残念な子になってる……俺としては可愛いから別に構わないのだがそんなことが伝わるはずもなく綾は1人悩み続ける。


悩み続ける綾を鑑賞していると凪が頼んだらしき料理が目の前のテーブルへ運ばれてくる。かごめと季衣の隙間から見えるそれはなんだか無駄に赤い気がするのだが、そういう料理なのだろうか。


「こうなったら私が全て食べる!」


いうが早いか綾は俺が制する前に目の前の運ばれてきたばかりの料理を次々と食べ始める。勢いよく食べ始めたというのに俺の料理を食べて箸を止める。てっきり全部食べられると思っいただけに意外である。


「か……」


「か?」


「からーーーーーい!? みみみ、水ちょうだい」


辛い? まさかと思い、凪のほうをみやると顔を赤くして俯いてしまった。ふむ、なんだか分からんが俺に実害もなかったことだし、その赤面に免じて許すことにする。


「凪ちゃんは相変わらず辛口なのー」


「す、すみません。沙和や真桜にも注意されるのですが、ついやってしまいました……」


なかなかのお茶目さんであるらしい……。というか今気づいたのだけれどなかなかカオスな状況になっているのではないだろうか。


俺の膝の上ではかごめが笑いながらこちらを見ていたり、季衣が口いっぱいに食べ物をつめて食べていたりしながら時折こちらをちらちら見たり。


横では綾が水水! といいながら騒いでいたり。その綾に凪が平謝りし、沙和が笑いながら綾に水を渡していたり……。


一刀が気絶していたり。っていつまで気絶してる気なんだろうかこいつは。と一刀を呆れ混じり見ているといきなり店のドアが吹っ飛んだ。


「ここに紀霊はいるかしら?」


扉の破片が飛び散る中容赦なく曹操達が乗り込んできた。もうここまで来ると収集がつけられない気がする。俺はいったいどうすればいいんだろうか?


困っている俺を見つけるとすぐに近くへとやってくる曹操一行、無駄に殺気をほとばしらせている。正直俺の所には来ないでほしいと願う。


けれど祈りは聞かれなかったらしく曹操はこっちの惨状を見て眉をヒクヒクさせながらも俺の事をしっかりと見つめている。


「聞きたいのだけれど、これはどういうことかしら?」


「これというと、これのこと?」


そう言って綾たちを指差してみる。手を額に押し付け何かを我慢するようなそぶりを見せた後、またすぐにこちらへと視線を向け直す。苦労してるんだろうなとは思うが俺を見ないでくれとも思う。


「それも聞きたいところではあるけれど……。今は聞かないでおくわ。私が聞きたいのは何故私から逃げなかったのか、ただそれだけよ」


「へ? 逃げるって……交換条件でもうそれは終わったんじゃ?」


俺の答えが気に入らなかったらしい、溜息をついてこちらを睨んでい来る。美人なのでそんな顔も映えるとは思うが出来る事なら笑顔を向けて欲しい。そう思うのは傲慢だろうか?


「言葉が足りなかったわね、なぜ私が包囲している時逃げ出せるだけの実力を持っていながら逃げなかったと聞いてるの」


「そんなこといわれてもな……、あれだけ囲まれてると出るのに人を殺さなきゃいけなさそうだったし。それは嫌だからな」


「そう、でも私が聞きたいのはそんな建前ではなく。あなたの本心なのだけれど? それともこの曹孟徳に情けでもかけたのかしら?」


「建前って……それに俺は曹操殿に情けをかけられるほど偉い立場でもないような気がするが。まあそうだな、本音を言えば元々曹操殿の所に行くつもりだったし。一刀も借りようと思ってたときにちょうどいい話が転がり込んできた…。そんなもんかな」


俺の言葉にまだ納得できてはいないらしいがとりあえず睨むのを辞めてくれたのでほっとする。今度は何かを見通すようにその綺麗な瞳でこちらを覗き込んでくる。


美しさと可愛さを兼ね備えたこの顔が魏軍の女の子たちを虜にするのかな、そんな馬鹿げたことを考えていたせいで俺は口を滑らせてしまった。


「やっぱ曹操殿は可愛らしいな」


「…っな! いきなり何をいってるの!」


曹操が反応を示したことで自分が何を口走ったのか理解できた。けれど今さら撤回できるわけもなく、動揺を隠せないでいる曹操に追い打ちをかける決意をする。もうやけである。


「何って事実だけど……」


言葉と共に近づいていた曹操の頭にそっと手をのせる。一瞬ビクッとなったが回避できなかったらしく、数秒表情が固まったしまう。丁度いいのでそのまま曹操を撫でる。


「っ!」


やっと正気の戻ったのか曹操が飛びのき、距離を取った。けれどその顔が誰がどうみても朱に染まっていて、これまで見たことのない曹操の一面を見て改めて可愛いと思う。


けれど曹操が正気に戻ったようにお付きの3人も正気に戻っていたことを失念していた。


「貴様ぁ! 華琳様に気安く触るとは許せん!」


「紀霊殿覚悟は出来ているのだろうな?」


「なんてことするのこのゲス! 華琳様を汚すなんて、万死に値するわ!」


三者三様に罵られ、鋭い視線を向けられ、武器を突きつけられた。教訓、やけになりすぎてはいけません。まったくもっていい教訓です。


「秋蘭、春蘭、桂花やめなさい」


「で、ですが華琳様!」


「私がいいといっているのよ」


まだほんのり赤さを残して曹操がいい放つ、どうやらもう復帰したらしい。本当ならもう少し反応を楽しみたいところだけれど本人と周りのお付きが怖すぎてとてもそんなことは出来ない。


「紀霊、この際私を気安く撫でたことは許してあげる。だから今夜私の閨に来なさい」


ピシリッという音が鳴った気がする。空気が凍ったとはこのことか、いきなり何を言い出したのかと俺を含めた飯屋に居る全員で曹操を見る。


「っな! 華琳様そんなゲスに!」


とっさに反応できたのは荀彧である。さすが曹操愛というか曹操に関しての反応速度が夏候惇と競うだけの事はある。


「うるさいわよ桂花、黙っていなさい。それと紀霊私のことは真名で呼びなさい」


とんでもない発言を連発する曹操に皆開いた口がふさがらない。もちろん俺もそうしていたい所ではあったが、当事者としてそうしているわけにもいかない。


「えっと、真名で呼ぶのは構わないが閨に行くのは勘弁してくれ」


俺の言葉でやっと今何が起こっているのか理解できたらしい夏候惇がついに動き出した。もう絶望的である。


「貴様ぁ! 華琳様の誘いを断るのか! 許せん、斬る」


「じゃぁ行こうかな」


「何だと貴様ぁ! 許せん、斬る」


僅かばかりの抵抗を試みたというのに、どちらにしても斬られてしまうらしい。いったい俺にどうしろと言うのだろうか。


「まぁ待ちなさい春蘭。時雨、どうしても閨に来たくないというなら別の条件にしましょう。桂花、秋蘭、春蘭。あなたたち紀霊に真名を呼ばせなさい」


「私は別に構わないぞ、元々機会をうかがっていたしな」


「華琳様がいうなら、それに私を倒した男だし。呼んでも構わんぞ」


何気に真名で呼ばれたがまあどうでもいいと言った手前気にはしないが、何で皆真名で呼ばれることに慣用的なんだ。まあほっとした様に了承している夏候惇は閨に行かせたくないというのはわかるが、何故夏侯淵まで友好的なんだ……。


もしかして共闘したからか? それとも既に仲間だと思われているからなのだろうか?


「なっ! 華琳様! 北郷だけでも屈辱だというのにこんなゲスにまで私の真名は許せません!」


「おい、華琳ちょっと待て、真名ってそう人が呼んでいいとか決めるものでもないだろ。俺が説得してちゃんと真名を交換してみせるから待ってくれ」


「なら今すぐ説得して見せなさい」


なんで華琳はこれほどまでにはっちゃけているんだろうか、俺を追い詰めて楽しいのか? 俺を見下してニヤニヤしているあたりそうなんだと思うけどもうちょっと手加減とかないんだろうか。


周りも何で止めてくれないんだろうかと思ったら皆不機嫌な顔をしている。何故? 俺が知らない間に何かやってしまったのか?


原因追及を最優先事項にしたいではあるが、華琳が威圧していてそんなことをする余裕がない。もうやるしかないと改めて荀彧に向き直る。


「すまん、けどよければ真名で呼ばせてくれないか?」


結局何も思い浮かんでいない為完全に捨て身である。この後どんな罵詈雑言が来るのかと思うと恐ろしくてたまらない、何をしていいかわからない、そして気づけば荀彧の頭を撫でていた。


俺の馬鹿野郎……。


「っな………」


ああ、驚いていらっしゃる。当たり前だ、いきなり知らない男に頭を撫でられていい気がするはずもない。もうこれは立ち直れない程ボコボコに罵られるに違いない。過去に戻りたい。戻ってあんなことをする俺を力づくでも止めてやるんだ。


絶望を感じつつ、荀彧から飛び出すであろう毒舌に対応するため気持ちを整える。さあ、いつでもかかってこい!


「父さま………」


「………え?」


出てきた言葉に俺を含めた皆の目が点になる。誰も状況が理解できない、今聞こえたのは幻聴だろうか? きっとそうに違いないと誰もが思った。


「あ、いや、その……別に桂花と呼んでも構わないわ。あなたはどうやらそこらへんのクズじゃないみたいだし……、あのゴミに比べればまだマシよ」


「…け、桂花何を言っているの?」


誰もが唖然としている中、華琳が声を絞り出し真意を問う。みんなの気持ちを代弁した華琳は偉いと言わざるを得ない。さすが魏の王(予定)だ!


「なにって華琳様が桂花と呼ばせろとおっしゃったのですからそれに従うのは当然じゃないですか」


「え? いや、そうなのだけれど………」


ああ、あの華琳がタジタジだ。ここは俺がこの状況を打開するしかないようだ。俺は今にも高台から飛び降りるような心境で問う。


「あ……あのな父さまって?」


「父さまだから父さまなのです。他のクズやゴミ(男)とは違う、父さまという存在です」


言っている意味がさっぱり理解できない。他の皆も理解できていないようだ。ただファザコンというのはどうやら確実らしい。でも個性だと思えばそんなに気にならないと思いたい、それに毒舌吐かれるよりましだと思えば、うん。かなりいい状況ではないだろうか。


「えっとそれじゃよろしく? 桂花。それと俺のことは時雨と呼んでくれてかま」


「それは私が決めます。父上…父君…父さん……どれも捨て難いけれどやはり父さまが一番しっくりくるような……いえでも考えてみれば………」


真名を呼んでと頼んで一刀両断されるとはどういう事だろうか。この世界に来て初めての事ではないだろうか、それにしても何故に俺が父なんだ。年齢考えれば違うだろ!

もう困って何をしたらいいのかとか考えるのも億劫だ。助けを求める様に雇い主の方へと向き直る。


「華琳……」


「何も言わなくていいわ、私も予想外すぎて何もいえないもの……」


「そっか……そうだよな。ああ、そうだ遅ればせながら時雨って呼んでくれ華琳、秋蘭、春蘭」


「わかったわ」


「これからよろしく頼む、だが華琳様に手を出したら許さんぞ!」


「時雨殿、頼りにしている。姉者共々よろしく頼む」


皆と真名を好感し終えた後も俺を中心に広がった混沌とした状況はなかなか終息を見せる気配がなかった。それを終わりに導いたのは店の料理を食べた華琳だった。


温厚だった店の店主は扉を壊されても別に弁償してくれるなら構わないとまで言ってくれた人なのだが、華琳が店の料理を食べた後気に食わないと言い出し、店主の料理人としてのプライドをズタズタに引き裂いた上に捻り潰しておかげで遂には店から叩き出されてしまったのだ。


おかげさまでといってはなんだが皆が正常になったのは喜ばしい限りだった。本来なら迷惑な事この上ない様な事だが、今回ばかりは華琳に感謝するしかなった。





◇◇◇◇





昨日の内に復旧作業の簡単な手伝いが終わった為昼には街を出ようという事になり、時雨、かごめ、綾の3人は門の傍へと集まっていた。


「それじゃ、そろそろ行こうか」


かごめと綾に声をかけ、あたりを見渡す。華琳を筆頭に凪達や街の人たちまで見送りに来てくれていた。暖かい光景に少し和んでいるとかごめがそわそわしているのが目に入った。


「真桜……きて、ない?」


「あともうちょっととかいってたなのー」


「まったく、こんな時まで人を待たせるなんて勝手な奴だ」


少ししょんぼりするかごめを前に、口悪くいいながらも来ると思っているのか、待つスタンスを変えない凪。かごめが気にしている様だし、もうちょっとだけ待つことにする。


「はぁ、はぁ、まってやーーーーー」


遠くから真桜がはしってくるのが見え、かごめが笑みを浮かべてトコトコと迎えに走る。


「ふぅ、なんとか間に合ったわー。はいかごめ、これ例のやつになるべく近づけた奴何やけど。やっぱり時間がたらんくてなー、完璧とはいいがたいけど堪忍や。あと説明したいとこやけど時間もなさそうやから。これ渡しておくわ」


持っていた手荷物を次々とかごめに渡していく。小さな腕に積まれた荷物に視界をふさがれながらも何とか真桜の方へと向き直る。


「あり、がと……真桜」


「いやウチも楽しかったし、もし今度会ったらそん時はまた面白い話聞かせたってな」


「うん」


嬉しそうに笑顔を浮かべ真桜と再開の約束を交わすとかごめが荷物持ってきた荷物を飛影の両脇にぶら下げる。そろそろ一刀を加えた新生パーティーで出発だ。


「時雨、必ず私の所に戻ってきなさい」


最後に華琳が声をかけてきてくれる。そこまで言われなくても約束を破るつもりはないのだが、もしかしたら華琳なりの見送りなのかもしれない。


「応!」


力強くこぶしを上げて返事をした。満足した様に頷く華琳達を見た後かごめと一緒に飛影に乗り込み門の外に出る。

それを追う様にして一刀と綾は華琳から譲ってもらった馬に跨り一緒に門の外へと出る。


何か不測の事態を考えて準備する時間を考慮するなら一刻でも早く洛陽に付きたいところだ。これ以上道草を食っているわけにはいかない。


「飛影、とばすぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってよー」


「時雨ー、待ってくれー」


綾とまだ馬に慣れていない一刀がついて来れないでいる。折角飛ばして行こうと思ったにこれは思ったより遅いペースになりそうだと幸先に不安を感じる。

飛影が後2匹いたら楽だったのにな……と思ったのは時雨だけではない様だった。





◇◇◇◇





時雨たちが遠ざかっていくのを見届けた後その場に待機していた楽進たちに声をかける。


秋蘭の話を聞いた限りだとこの子達は一角の将にまで上り詰める事が出来る人材だとか、秋蘭の事は信頼しているしまず間違いないだろうけれど、私を満足させるにはそれだけでは足りない。


「楽進、李典、于禁だったかしら。遅れてしまったけれどあなたたちがいなければ秋蘭も季衣も危なかった。礼をいうわ、ありがとう」


「っは!」


真面目な楽進が3人を代表して礼を受け取り、首を垂れる。他の2人が喋るとどうしても「どういたしましてなのー」とか「お安い御用や」とか気の抜ける返答になってしまうためこれは仕方がないともいえる。


「それでよければ私の指揮下に入る気はないかしら?」


「聞けば、曹操さまもこの国の未来を憂いておられるとのこと。もとより義勇兵を集めて志願する次第でしたがそう言って頂けるのであれば喜んでお仕え致します」


「そう、他の二人はどうなのかしら?」


「ウチもええよ。元々陳留の州牧さまの話はきいとるし……なにより時雨たちが来るらしいしな」


「最初っからそうなる予定だったし、沙和は凪ちゃんと真桜ちゃんが決めたならそれでいいのー」


「わかったわ。しばらくは一刀の穴をあなたたちに埋めてもらうわ」


私に対して物怖じしないこの3人ならば一刀より働けるでしょうけど、仕事ぶりを見ない事には簡単には決められない。とりあえず秋蘭の見立てに期待しておきましょう。


「我らはこれより陳留に帰る! 各員駆け足!」


時雨に綾にかごめ、楽進に李典に于禁、今回の収穫は大きい。

その事を踏まえ華琳はこれからの事を考えつつ片手を天に掲げ空を見上げる。これからが勝負になる。心してかからねばと心に秘めて。

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