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26話 独り善がりの鎮魂歌

若気の至り……恥ずかしいですが良いものです。

サブタイが変わってますが気にしないでください。


累計 140,000アクセス突破! ユニークアクセス8,000人突破!

お気に入り登録は200件突破しました。


どうも有難うございます。


まさかこうも早くお気に入り登録が増えていくとは……以前はだいぶ放置していたというのに嬉しい限りですね。

これからも頑張りますのでよろしくです。

「なんや紀霊の様子がおかしい」


そう思ったのは戦いが終わった後に助けてくれた礼を一応言っておこうと紀霊の元を訪れた時、声をかけられる雰囲気じゃなかったせいだ。


一刀に聞いたら何でも仲間の一人が死んだらしいとか、でもそんな事で一々悲しんでいたら世話がない、乱世では当たり前のなのだから。こんなことでは持たないのではないかと少し心配なってしまう。


ほんま心配やな、なんて鎧のせいで話かけようと思うまでまったく気づかへんかったけど……全身鎧で固めてるんわこのためやったんやろうか?


他愛も無いことを考えては頭を振ってを繰り返す。今考えるべきは落ち込んでいるらしい紀霊をどうやって元気付けるかだ。


紀霊に助けられたからこそ恩を返す為にと張遼は悩みに悩んだ、幸か不幸かそれは張遼だけの悩みではなかったが。






◇◇◇◇






「これより時雨元気にな~れ、作戦を立てたいと思います」


綾の微妙にやる気があって微妙に元気のない声で時雨を元気付けるぞ作戦を考える会議はスタートした。


「どう、すれ…ば…時雨、元気…なる?」


「そうやなー、やっぱ酒飲めばええんとちゃうか? 身体もあったまって心もあったまるっちゅう作戦や」


張遼にとってそれさえあれば大抵の機嫌はよくなるのでさも当たり前の様にそう語ったのだがそれをすかさずあっちゃんが否定した。


「それはさすがに……紀霊隊長がお酒を飲んでいるのは見たことがありませんし、もしかしたら酒に弱いかもしれません。それに酒癖が悪かったり、泣き上戸だった場合はどうするのですか? 後で紀霊隊長が覚えていた場合より悲惨になるような気がしますが」


「それはそうやけど、そういってたら何にも始まらんで? それにあんさんは他に策があるんかいな?」


少しばかり不機嫌になる張遼を相手にあっちゃんも自分の考えを必死に述べる。上司相手に意見を述べるのはなかなかに覚悟がいるのだ。


「私が思うに紀霊隊長は仲間の死で落ち込んだのですから、これから死なないと証拠を見せて。あいつは幸せだったといってやることが一番いいかと」


「証拠ってなんやねん。戦っちゅうのは死人が出るのは当たり前や、絶対死なない保障のある奴なんておらん……それにあいつが満足してたっちゅうのは紀霊はわかっとるんちゃうか?」


「た、確かにそうですが……」


考えてみればそのとおりである。いくら自分達が死なない覚悟をしたところで運が悪ければ死んでしまうに違いない。ならそんな約束したところで無理に笑う様な反応を見せるだろうと考えあっちゃんは唇をかみ締める。


「撫でる……?」


かごめのこの発言にその場にいた一刀以外のメンバーがその手があったか! という顔をする。唯一時雨に撫でられた事の無い一刀はしてみればそれで機嫌がよくなれば苦労しないだろうにという思いしかない。


「確かに撫でられると元気になるよねー」


「き、紀霊隊長の撫で方は不思議と心地よいですからね」


「だーっ、それも紀霊の手だけやろ。普通の奴がやったってそんなに嬉しくないと思うで?」


綾とあっちゃんが同意する中うんうんと頷いていた張遼はそれじゃ意味がないと途中で気づいて言い放つ。その後に「いやウチも撫でられたらなんだか嬉しくなるけど、それって誰がやっても元気になるってことやないと思う。ウチそんな尻軽やあらへんし」などと小声で言い訳じみた言葉を口にしているがこの場にいる者はあえてそれをスルーする。


「確か、に…そう、かも」


それにかごめも同意する。さらには綾が「私も正直時雨以外に撫でられるなんて殺しちゃいそう」なんていうから一刀は女の怖さに戦慄した。気軽に触れたら殺される!


「ならば武を競うのはどうだ? 武を競えば大概のことは忘れられるぞ」


華雄の突然の発言で皆凍りつく……こうなった現況であるこいつは何を一体何を言っているんだと、それじゃあ逆効果でしないことは試さなくてもわかるというのに。


華雄の頭の残念さを再認識する一同。


「それは華雄だけやろ」


そして張遼の発言に一同がうなずきを返す。というより頷く以外にすることがあるのだろうか? あるとすればそれは空気の読めないばか者の行動でしかない。そう、例えば今顔を真っ赤にしている人物とか


「っな! 失敬な、私だって悩みの一つや二つあるのだぞ」


「別に悩みがないといったわけではないと思います。華雄様……それとも自覚なさっているのですか?」


「そうだよねー。華雄さん悩みなさそうだよね」


わざわざ自爆する華雄にあっちゃんが追い討ちをかけ、綾が何気なく思ったことを口にして止めを刺し、自爆した上に否定された為に華雄は隅っこで小さくなってしまう。


「私だって…私だって……」


皆には伝わらないが華雄もなかなかこれで考えているのだ。なにせ自分は戦えば大抵の悩みが吹き飛ぶのだから同じ事をすれば良いのではないかと考え、提案したのだから。ただ戦うという行動から離れない華雄が残念なだけなのである。


「なら贈り物とかどうかな?」


なかなか話が進まない現状に今までなにも言っていなかった一刀の発言が一筋の光となって会議の場へと射し込んできた。


「それ、いい……」


「お腹がすいた時を見計らってご飯あげればいいのかな?」


「いや、やっぱり極上の酒やろ」


「やっぱり綺麗隊長の涙を拭くための布でしょうか」


「新しい服等どうだ? あいつは確か返り血でよく服が汚れてるだろう」


最後の発言に一瞬にして皆が静まり返る。今発言したのは華雄さんであたってるんですか? と心の声を発して華雄をじっと見つめる。


「な、なんだというのだ……私だって女なのだぞ、身だしなみぐらいちゃんとしている」


「そ、そうだよね」


いわれてみれば確かにそうだと思うものの、何処か納得の出来ない皆を置いてかごめが話を進める。


「甘い……華雄、甘い」


納得しかけている皆に頭上にかごめの一言で?マークが浮かぶ。服を上げれば普通に喜ばれるはずなのに何故否定するのだろうかと疑惑の視線をかごめに向ける。


「服? …そんな…の……時雨、いつも…常備…してる。しかも……センス…私…達より…いい」


かごめの発言にがっくり項垂れる一同、そして次にはなんでそのこと知ってるんだ? と視線をかごめに投げる。それをかごめは見事に無視して自分の考えを述べる。


「だから…考え、た。私…を…贈る」


会議の場に集まった全ての人間に衝撃が走った。


「な、なんだって……?」


あまりの衝撃発言に一刀は呟かざるをえなかった。確かに時雨の事となればいつもより少しおかしくなると思っていたかごめだが、正直ここまでおかしくなるとは思っていなかったのだ。


なんて時雨羨ましいんだ! という心の絶叫は誰にも届きはしない。


「私、を贈る……」


「!!」


重要なことなので2回言ったかごめに視線を固定したまま誰も喋れなくなってしまう。だが恐ろしいことにチャレンジャーは一人ではなかった。


「それいいね、私もご飯と一緒に私を贈る!」


時雨と昔からいるメンバーはどこかおかしいのだろうか? 一刀はそう思えてならない。そしてリア充死ねと心の中で泣き叫ぶ。


「ほんならウ……ウチも、お礼代わりにやったるわ!」


あれ? 張遼さん? 隣にある酒を抱えてどうしようというのですか? と時雨とそこまで親しくないと思っていた張遼までもおかしなことを言った為に一刀の頭は混乱し、混沌としつうあるこの場の空気から逃れようと後ずさり始めた。


「わ、私は紀霊隊長に元から全てを捧げているのですから、今更それぐらいは」


「っな! 皆どうしたのだ……そりゃ私だって何かしたいが、そんなことは結婚相手にしか……だがしかしここで出遅れれば恥に」


「み、皆! 正気に戻ってくれ」


どんどん桃色空気に侵されて考えがぶっ飛んでいく皆を必死に懇願して引き止める一刀を他所にまだまだ盛り上がっていく一同。


「なら同性愛者の可能性も考えて一刀も贈ろう!」


「へ?」


「それも……あり」


いつの間に酒が入っていたのか、皆顔を赤らめてどんどんおかしくなっていく。もう何でもありですねという皆の意見を必死に否定する一刀。


「いやいやいや」


「なんや、紀霊はそっちもいけるんか? まぁ一刀も飲むとええ」


未だに冷静に否定し続ける一刀の口に酒を突っ込んでくる張遼。この状況を思いっきり面白がっているのに気づいている人物はいない。


ゴフッ咳き込み、少しばかり吐く一刀を見て張遼が残念そうな顔をする。


「なんやしょうもないなー」


「皆、そろそろ……行動、する」


酔っ払ったかごめはどうやら積極性の塊になっており、ついに行動を開始するようだ。


「え? まって……ちょ、まってーーーーーーーー」


一刀に襲い掛かる影はあまりに強く、一刀は逃れることが出来なかった。


あたりに悲鳴がしばらく木霊していたのは言うまでもない事だろう。






◇◇◇◇






しばらくして落ち着いた皆はまずは紀霊を探そうということになった。一刀を捧げる案は酔いが取れた時点で潰えたのは一刀と時雨の両方にとって幸福な結果といえる。


「どこに行ったか分かるやつおる?」


「しら、ない……」


「時雨は気まぐれだからねー」


なんとも役に立たない幼馴染である。実際時雨は日ごろから暇が出来れば何処かに出かけていくのだから仕方ないともいえる。


「鍛錬してるのではないか?」


「隊長なら紀霊隊を調練しにいってるのやも!」


「いや、まずこんな時間からそれはないから」


脳筋な華雄とそれに影響され通あるあっちゃんに冷静に外の暗さを見て突っ込む一刀。……どうやら無事だったらしい。


結局誰もわからず、仕方ないなしに天幕の近くにいた兵士に聞いてみると川が流れている森の方へと歩いていったと教えてもらえた。


「なんや危ないなー、まだ戦は終わったわけちゃうで?」


「そんなの時雨もわかってるでしょ、それに時雨がそこら辺のクズに負けるはずないわ」


「その…通り……」


綾とかごめが自分のことのように胸を張って自慢してくる事に対して張遼が呆れてため息をつく。


「はぁ……なんなんやその自信は」


「あの呂布さんと戦って勝ってたし、あながち間違いでもないと思う」


「っな! 恋がまけたんか!?」


「なんだと!? あの恋に勝ったのか!?」


一刀の言葉にもろに反応する張遼と華雄、あまりの勢いに後ずさりつつ、説明していく。


「本当……」


「まぁ、そうだろうね」


説明が終わった後にかごめが首肯すると、その場にいなかったのに綾は悟ったように頷く。


「驚かないのか?」


「まぁね……時雨だから」


そういって遠くを見つめる綾は何かを懐かしんでいるようだった。


「あ、いた……」


視力のいいかごめが時雨を見つけ、報告を入れてきた。


「止まって」


なにやら一同を見まわして真剣に言う綾に対して一同は空腹じゃないのに真剣な綾の態度にただ事ではないと気持ちを引き締める。


全く違う方向に覚悟を決めた面々は時雨のいる場所へと近づきその光景に目を向けて声を殺して驚いた。


時雨の周りには蛍が飛び交い、幻想的な光景が広がっていたのだ。






◇◇◇◇






「ふぅ……」


どうしても仲間を殺した時の感触を思い出してしまう。剣が顔に、体に食い込んでいく生々しい感触が頭から離れていってくれない。


他人を殺すのが自分にとってどんなに簡単な事なのか今回の件で理解してしまった。人の命なんて思いの強さで重さが変わるのかと愕然とする。でもコレが人間ってものなのかな? なんてくだらないことを考える自分に苦笑してしまう。


戦場で命が散るのは当然だし、部下の不始末を片付けるのも隊長たる俺の矜持に間違いは無いはずだ。でも俺が死んでいった者達に対して出来る事ってなんだろうか? と改めて考えてしまう。


他人の命などもうどうでもいいと思うほど心はすれてしまっているが、仲間だけには何かしてやりたい。だからといって感情の赴くままに号泣してもそれは死んでいった仲間のためにはならないだろう。


ならばこの世界に来て身に付けた自慢できるものを使って安心させてやりたいと思った。きっと独り善がりなものだけど、そうしなければ自分が納得できないのだから仕方が無い。


やる事を心に決め、実行する為に天幕近くにいた兵士にここに来る時に見た川が流れてる森に行ってくると伝えると危険ですなどといわれてしまった。がここで諦めるつもりは無いので笑って大丈夫と返してやった。


少し心配そうにはしていたけれど気をつけてくださいと見送ってくれた。


天幕を離れて近くの森に入り、そこにあった獣道を進んでいくと心地よい川のせせらぎが聞こえてきた。


視界の開けた場所に着くと丁度そこに綺麗な川が流れていて、思わず水浴びしたいなどと思ってしまう。けれど目的はそれではないので大きな石に腰をおろして眺めるだけに留めておく。


「久々だけど大丈夫かな」


心配になって少しだけ喉の調子を整える。喉の調子えているとどうしても昔を懐かしんでしまう。一人でカラオケに行っていたのだがあの頃はここまで歌が上手になるなんて考えていなかったのだから現実派小説よりきなりとはよく言ったものだと思う。


「んっ…、大丈夫だな」


ちゃんと思い通りに声が出せることを確認し、声を段々高く調節していく。


そしてゆっくり、万感の思いを込めてゆっくり歌いだす。


「———————」


まずは単音を、高いソプラノで出していく


誰かに届けと願うように、祈るように声を森へと響き渡るように歌い上げていく。


突然周りがほのかに明るなる。


蛍が舞い、飛び交っていく。今の俺の歌にはちょうどいいか……そんなことを思い空へと視線を投げて歌い続ける。今はもう亡き仲間の為に最高の鎮魂歌を






◇◇◇◇






綾は昔から時雨が歌っているのを知っている。聞いたことが無い曲ばかりだったけどいつも楽しそうに、そして綺麗な声で歌っていた。


時雨の歌は最初は美味くも無く、下手でもない感じだったけれど、成長するにつれて歌の美味さは驚くほどにまで上り詰めた。


最近は聞いていなかったが、これから歌う歌が時雨なりの死者への手向けであることも大体だが予想できる。時雨が昔死んで行った動物達にそうしていたようにそうするのだと幼馴染だからこそ予想できた。


だから皆を止めたのだ。これは時雨にとっての別れの挨拶であり、ともに歩むための覚悟の歌なのだから。


ここから先は無闇に立ち入っていい場所じゃなくなったのだ。


「———————」


時雨らしからぬ高いソプラノ声が徐々に森へと響いてくる。


ゆっくりとゆっくりと語りかけるように歌い上げるその声にその場にいた者たちは酔いしれていく。


「紀霊って……こんな歌も歌えるんやな」


「シッ……これからだよ」


皆を静かにさせる。昔と同じならこれからもっと凄いことが起こるはずだから……それを余計な雑音で邪魔したくない。


単音だけの時間が終わり、言葉が生まれる。


「貴方と幸せを分かち合えど

       貴方の願いは知らぬ」


一言一言発するたびに蛍が空を舞う。


「貴方を殺した私は望む

   貴方が安らかに眠ることを」


一つ、また一つと落ちる花びらが蛍の光を浴びながら時雨の周りを彩っていく

 

「不安で眠れぬのなら私を呪え」


いつの間にか動物達が時雨の周りに集まり


「呪いの分だけ強くなろう」


死を労わる様に歌に合わせ鳴いてゆく


「狩り取られた命に私は誓おう

  貴方を背負って生き抜くことを」


その光景は幻想的で儚くて、時雨の指から流れ出る血が月に照らされて静かに落ちる。


「この先ずっと 私の中から世界を見て

   ただ先にある幸せを願っていてくれ」


壊れてしまいそうな重圧を背負い、決して壊れることのない決意を胸に


ただ今は死者の手向けとして歌う、独り善がりの鎮魂歌を


「———————」


声が終わり単音だけになる。


そうしてしばらく動物達と時雨の鎮魂歌はやむ事が無かった。






◇◇◇◇






終わってからしばらくたっても綾たちは動くことが出来なかった。


動けば全てが夢で終わってしまいそうだから


動けば涙で時雨の決意を見逃してしまいそうだから


暗い森の中で平静を装いながら皆はじっと息を潜めて余韻に浸る。


こうしてとある森で起きた幻想的な出来事はその場にいたメンバーの心に刻まれたのだった。

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