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23話 親子じゃないよ

チュンチュンワン! チュンチュン


チュワン! チュワン! チュンワチュン


何かもの凄いコラボが寝起きの頭に飛び込んできた。犬? 鳥? 大人しくなったと思ったらこれである。一体何なのだろうか。


好奇心に駆られてガバっと起きて周りを見てみるものの、やはり周りにはこれといって……これといって…………へ?


お、おかしいな? 疲れが残っているせいなのか、それともまだ寝ぼけているのか俺は。


深呼吸して再度目の前に広がる光景を見直して頬をつねる。痛い……。でもきっとこれは夢だ。そうに違いない、現実逃避させてくれ。


だってまさか朝起きたら隣に恋が寝てるなんて……。昨日は兵たちの調練の後一人で寝たはずだよな? 一体どうなってるんだ、誰か答えてくれ。


「ワンッ」


さっきのコラボはお前なのか? という疑問は引っ込めて心の問いかけに返事をしてくれた礼にベッドの近くに座り込んでいたセキト撫でようと思い、ベッドから降りて屈んでみれば手慣れた動きで頭の上に乗ってくる。


俺の頭の上からの景色は絶景なのだろうか? こんなに頻繁に頭の上に乗ってくる理由が分からないがとりあえず撫でる。


撫でつつ現実に目を向けて溜息を吐きながら恋を起こすために肩をゆする。


何故か肩をゆすっていると嫌な予感がふつふつと体の奥底から湧いてきた、こんなのいつ以来だろうか。前世ではよくあったけれど


「恋、起きて」


こういうのは慌てても仕方ない、慌てず、優しくゆすって起こす事に専念する。


「ん……セキト、ご飯?」


俺はセキトじゃないよ!? あ、俺の頭の上にセキトがいるんだったか。ご飯はとりあえず準備していません、残念だけど。


「とりあえずご飯じゃないけど急いで起きて欲しいかな」


なんというか、こう……嫌な予感が段々大きくなってきているので切実な願いだったりしたのだけど、次の恋の行動が予想外過ぎて固まってしまった為、俺は勝機を逃すことになった。


「……時雨一緒に寝る」


言葉と共にひしっと抱き着いてくる恋の行動に理解が及ばず固まる。


「え?」


そしてその固まった瞬間にバタン! と扉が音を立てて開き、小さな闖入者が姿を現した。


「恋殿! ここにいますか?」


「終わった……」


入ってきた人物を見て疲れながらそう呟いた俺を見て恋が不思議そうに首をかしげるその仕草は可愛いいよ、特に今は抱き着かれて上目遣いだし、可愛いけどさ……。


色々絶望的なのは理解してほしいな。


「!」


もう何というか、ドアを開けてこちらを凝視した状態で完全に固まっている陳宮殿が怖いです。動き出すかなと思ったらブルブルと震えだす陳宮を見ているのが怖いんです。


「ちんきゅーきーーーーっく」


突っ込んでくる陳宮に対して恋と離れた俺は完璧に避けてみせる。


「っな、なんでよけるですか! それに恋殿となにをやっていたのですか!」


それは俺が一番聞きたい事である。


「俺にもわからん」


「嘘をつくなです! どうせおまのような男は恋殿を食べ物で釣ったにきまっているのですっ! そしてオオカミになって……あんなことやこんなことを……許せないのです!」


「オオカミ? 時雨オオカミになれる……?」


盛大に勘違いしている陳宮にマイペースな恋、どちらに対応するかは一瞬で決まった。


「いや、なれないから」


だって陳宮の誤解解くのかなり骨が折れそうで……ヘタレてしまった。


「恋殿、妊娠させられてからでは遅いのですよ! こんな男との子供を産んでどうするつもりですか」


「……子供は育てるもの」


「!? な、なんてことですか! 手遅れでしたか!? もう許せないのですーーー!」


恋はきっと当たり前の事を言っただけなのだろうが火に油しか注いでないとガックリする。そこへ誤解に誤解を重ねた陳宮がまた飛び蹴りを放ってきた。先ほどよりもスピードがのっていて、これは避けると危ないかもしれないと考える。


それにさっき避けないようにと言われたよなと思って先ほどとは違う対応、正面から陳宮の両脇に手を差し込んで力の流れを制御して、高い高いをした。


「ほら、落ち着いて。たかいたかーい」


「な、なにをするですか! ねねは子供ではないのですっ。早々におろすがいいのです」


陳宮が暴れに暴れる。そんな姿も可愛らしく思えるがこれ以上機嫌を損ねても意味ないので降ろす事にする。効かないと分かっているのだから危ない真似はもうしないだろう。


「う〜〜〜〜、恋殿をかどわかした挙句に報いをうけないなんて。義憤なのです!」


「それは誤解だからさ、朝起きたら恋が隣にいただけでこれといったことはなにもしてないから」


「なっ、男の癖に責任を放棄する気ですか! なんて最低な男ですかっ、恋殿もいつまでくっついているのですか!」


「ん、まだ眠い……」


ああ、誰か陳宮を止めてくれ……って陳宮を止められる唯一の存在の恋が状況を把握していないのだから仕方ないかと朝から途方に暮れた時雨であった。






◇◇◇◇






とりあえずお腹を空かせている恋のために食事をつくれ! とのことで厨房に向かっております。これが一番の解決策なので抵抗なんてしません。


でも何故か道中侍女たちが出てくるのですが……迷ってないと言ったらしょんぼりしてしまって。やっぱりこれって俺が悪いんだろうか? 今度は未開の地に足を踏み入れようと思う、うん。


そんなことを考えているうちにもう厨房です。


やっぱ朝食だから軽いものにしたいけど恋が相手だと、というよりこの時代の人間だと軽いものだと物足りなく感じてしまうかな……。そうなると今回のレシピはこれ。


小麦を使ってナンを作り!


塩はあるし、牛乳あるし、油あるし、卵あるし……っは! ベーキングパウダーがない…だと……!?


ならば重曹を使えばいい! ちょっと味は落ちるかもしれないが大丈夫だろ、それよりも砂糖の変わりは……らかん果があるか、これを少しばかり絞って入れる。


さて、ナンの生地を捏ね終わり2時間ほど寝かせておいて、その間にカレーの準備へと移る。香辛料は結構そろっているのでそれほど苦労しない。とりあえず他の人も起きて来る可能性も考えて多めに作っておく事にする。


とここで取り出したるは2時間寝かせて尚且つ2回目の発酵を終わらせたナン。昨日のうちに仕込みは終わっているのですよ……フフフ。


○分クッキングを見よう見まねで料理をしている様な、え! 今作ってるのどうすればいいの!? という事態にはなりません、先ほど作ったナンはおかわりようなので心配しなくてもOKです。


さて、心配も晴れた所で後はナンに拳を打ち込み、心を込めて伸ばしていく。焼くときは直火! 直火で結構焼くのって辛いです…熱いです。


苦労したけれどやっと出来上がりである。やっぱり朝は米もいいけどパンもいいよなーと思うんだよね。


カレーも程よく出来ているので準備完了である。


「よし! できたぞー」


机の上に涎を垂らして頭を乗っけている恋とそれを微笑ましそうに見守っている陳宮に声をかける。


「こ、これはなんなのですか?」


「いい匂い……」


「これはカレーというもので、こちらがナンというもでして。これをこうして付けて食べます」


そういって実践して食べてみせる。途端に何の疑いもなく見よう見まねでナンに手を伸ばす恋。


「れ、恋殿! こんなものを食べなくてもねねが他のものをお持ちします!」


それを見て陳宮が慌てて止めるものの、食べ物を前にした恋を抑えることは適わなかった。食事を前にした恋を止める事なんて誰にもできないである。


「おいしい……!」


「それはよかった」


はむはむとカレーを付けたナンを頬張る恋を見て和む。ああ~癒される。


「む、それならねねも……」


そういって控えめにナンを取ってカレーにつけ食べる陳宮。いいぞ陳宮殿と内心褒める。何せ恐る恐るナンを手に取る姿が可愛らしい、そしてビクビクしながらカレーに付けて頬張る姿も恋にはかなわないが中々愛嬌がある。


「っ! ……確かにおいしいのです」


「ありがと」


料理をおいしいと言って貰えるのはやはり嬉しい、ついつい嬉しさ余って陳宮を撫でてしまったのだがブルブルと震えだしてしまった。


これはまた怒らせたか?


「ななな、何をするですか!」


「ああ、つい嬉しくてな。嫌ならやめるが……」


俺は嫌われているみたいだしな…悲しいけど……悲しいな………悲しいです。


「えっと、ねねは食べることに集中したいのです。撫でるのはその後でも」


落ち込んでいた俺にどことなく陳宮がこちらを気遣いながら言ってくれる。嫌っている人に優しくしてくれるなんて、その暖かさが身に染みます……グスン。


「……コレ」


そんな俺を見ていたのか恋がどこか迷いながらもナンを渡してきてくれる。まさか恋が食べ物を譲ってくれるとは思わなかった為驚きつつ受け取る。


「はは、ありがとな恋」


ナンを受け取ってお礼にと恋を撫でる。


恋はどこか嬉しそうにしながらナンを取ってまた食べ始める。モシャモシャと食べる姿を見てまた癒される……なんて可愛い生き物なんだ。


それからしばらくして予想外にも誰もこなかったので余ったカレーは寝かせておき、ナンは……放置! ではなく隊の皆にもっていく事にした。


準備を終えたので席を立って隊の待つ演習場へと向かおうとしたのだが、引き止める様にクイクイと服を引っ張られてたたらを踏む。


「恋?」


「街に行こう……」


「れ、恋殿! ねねと二人だけでいくはずじゃないのですか~」


どうやら俺が準備している間に2人で街に行く計画を立てていたらしい。


「時雨いつもおいしいもの作ってくれる。お礼したい……」


「そ、そんな~」


恋の言葉を聴いてとても残念そうにする陳宮、これはまずいのではないだろうか? ただでさえ嫌われている陳宮にもっと嫌ってと言っているようなものだ。


恋LOVEな陳宮の邪魔をしてはいけないと理性が警告を発する。


「恋、陳宮も楽しみにしてたみたいだし二人で行ってきたら? 俺もやることがあるしさ」


「ダメ」


にべも無く断られてしまった。陳宮が恋の後ろで「もっと頑張るのですー」とささやいているがどうしようもない気がする。


恋は未だ躊躇う俺の手とどうにも出来ないと気づき、うなだれている陳宮の手をとって歩き出す。


「ちょ、ちょっと待てって行くから」


「恋殿が手を……嬉しいのです。っておまえはさっさと恋殿から手を離すです!」


明らかに威嚇している。唸っている。可愛いが嫌われると思うと純粋に楽しめない。


「わかってるから、恋手を離してくれないか? 自分で歩くからさ」


俺の言葉に対して首を横に振って否定の意を表す恋。


「逃げないから、な?」


再度首を振る恋にそこまで俺を信用できないかとガックリくる。まあ逃げるつもりなのだから気づかれているのかもしれないけど。


「どうしたら離してくれる?」


「恋と手を離すのなら、ねねと繋いで……逃げそうだから」


気づかれてました。


「なっ!恋殿、ねねはこいつの手なんか握りたくないです!」


「グフッ」


精神的ダメージが計り知れない。ストレートにここまで言われるのは初めてだ……という訳じゃないか、最終的に変な事を言われたけれど桂花にも最初は凄い事言われてたし。でもここまで言われるなんて、陳宮の前に俺は姿を現さない方がいいかもしれない

。


「あ、う……嘘です! やっぱり握ってあげなくもないのです」


そういって握ってくれる陳宮。言い方はきついけどいい子なんだよね。


「ありがとう。陳宮殿」


恋が手を離してくれたので手で撫でる。この癖ばっかりはどんな状態でも出てしまうらしい。


「別に恋殿がお願いしたからであって本当はおまえに握って欲しくなどないのです。恋殿が手を離したのだからねねの手も離すです!」


途端に膝をついてうなだれる。上げて落とすなんてひどいぜ陳宮殿……。


「はうあっ……あー、嘘です! ちょっとした冗談なのです。本当は友達みたいな感じがするのでよかったと思ってるのです」


言ってることは少しおかしい気もするが、ここで重大な事が分かってしまった。


「へ? 友達だと思ってたのって俺だけですか……」


「え?」


その時、二人の時が止まった。


「終わった……もう死のう」


「ななな、な……な……」


陳宮殿何が言いたいのか分からないけど「な」しかいえてないよ。本当は嘘を言われた仕返しでしかないのだけれど、ここまで反応してくれると嬉しいね。


「ねねとおまえがいつ友達になったのですか?」


口調は落ち着いたけれど視線がまだ宙を彷徨っている。これは好機だ。


「ぐすん……食事を囲んで笑いあった時から友達だと思ってたんだけど」


「っな……う、嘘です!」


「嘘なんてつかないよ……そんなに俺って信用ないかな」


「え…う……、う~~恋殿~~~」


「もうすぐ街につく、我慢して……」


我慢させるほど嫌なのか俺と友達……やっぱり友達ってそんな簡単に出来るものじゃないんだよね、そうだよね。調子に乗ってごめんねほんと。もう友達とか言わないから戸惑うのをやめてください。


もうこれ以上俺にダメージを与えないで……自業自得だけどさ。


「う……う……うう。わ、わかったのです」


「?」


「だ……だから! 友達になってやるといったのですっ」


初めて面と向かって友達宣言された。どうやら神はいたみたいだ……いや見たことあるけどもね。マジで陳宮殿が天使に見える。


「ありがとう! 陳宮殿」


最高の笑みを浮かべ繋いでる手をぶんぶん振り回す。これぐらい嬉しいのです。


「わわ、や、やめるのです!」


言われて手は止めたが笑顔はやめられなかった。


「陳宮殿と友達になれて良かった」


嘘からで真ってこういう事なのか、なんていい日なんだろうか。


「ね……音々音でいいです」


どことなく赤くなって俯く音々音、真名まで許してもらえるとは思っていなかった為数秒時が止まったが、何とか動き出すことに成功する。


「それじゃ皆と同じようにねねって呼んでいい? 俺のことは時雨でかまわないから」


殺気反省したばかりだというのにテンションが上がり過ぎている為調子に乗ってしまったが反応は悪くないようだ。


「ふ、ふんっ! 特別に許してやるのです……その……時雨殿」


「ああ、ありがとう!」


そういうと顔をぷいっと背けてしまうねねを見て……友達補正だろうか、いままでよりも一段と可愛いと思ってしまった。


「ついた。もう我慢しなくていい」


今まで黙っていた恋がいきなり喋ったかと思うと目の前には飲食店がずらりと立ち並ぶ場所へと来ていた。


ああ、我慢ってこれね…と今さらながらに理解する。ねねは食べ物が欲しかったわけじゃないぞと心の中で呟く。


「肉まんと点心買う」


恋は1人慣れた様に一つ目の露店に近づき、店主と話し込む。


店主は恋の指差したものと個数を正確に理解し、見繕う。どうやら常連の様だ……えっと俺のご飯を食べた後にここにも来ているって事だろうか? 凄まじいんだが。


しかもサービスも凄まじい。明らかに注文した数よりも5,6個増えてる。店主は笑っているがそれって赤字ではないのか。


さっそく肉まんをほおばる恋を見て顔が蕩けている。納得だ。


「コレ……お礼」


差し出された湯気の立つ肉まんとウルウルしている恋の瞳。恋の口の端からは涎が垂れて来ている。


これを食べれと? ちょっと両親が痛むんだが、そして店主が睨んできているんだが。


「恋、嬉しいけどちょっとお腹一杯だから後で貰っていいかな?」


ちょっと残念そうにしたもののそれは一瞬ですぐに肉まんやら点心やらをぱくつきはじめる。恋の中のお礼をするという事よりも食欲が勝った瞬間だった。


ねねも文句を言わずに自分で点心を注文してパクついているし、俺はこの光景を見てるだけで満足だわ。と1人萌えに酔いしれる。


けれどそれも長くは続かなかった、この光景を見て町人が言ってはならないことを言い放ってしまったからだ。


「中のいい親子だねぇ」


立ち位置確認。恋、ねね、俺となっている為そう見えなくもないが……。


ああ、案の定ねねがプルプルしてるよ! 誰だよあんなこといったの責任とってくれよ。


「ねねが時雨殿の奥さん……」


あれ? 何か斜め上の解釈になっている。そこは恋と俺が夫婦でねねが子供という立ち位置では? 俺の考え方がおかしいのか?


「っな! 友達とみせかけて近づきねねをその毒牙に!」


「ぇえ!? 違うよ? 本当に友達になりたかっただけだからね、いや本当だから」


それからどんどん誤解を重ねていくねねを説得するのにかなり時間をかけてしまった。


気が付けばもう日没。


恋は説得している間ずっと何かを食べていたが、今は満足したのか眠そうにして俺の服を掴んでいる。


そして肝心のねねは今俺の背中でぐっすりと眠っていたりする。怒りつかれたらしい。


良く暴れて、良く眠る……いいことだと思うよ、うん。






◇◇◇◇






とりあえず城についてからは恋とねねを部屋まで送って残っていたカレーとナンの処理をしなければいけない事を思い出し、厨房に戻る。


けれどそこには処理するはずだったカレーとナンの入っていた容器を空にして眠りこけている綾がいた。


まぁいいか……そう思って部屋に帰って寝るのだった。


綾はどうしたかって? あれは放置していても構わないんです。部屋に入りたくないしね。

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