表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

00話 不幸な幸運

 拙い作品ではありますが、お楽しみいただけると幸いです。

 誤字脱字などありましたらご報告して頂けるとありがたいです。

「ああ、またか……」


 今日も今日とて、俺は空を見上げながら、振りかかる不幸をただ噛み締めることしか出来ない。






 一瞬太陽の光が陰る。


 「ふぅ……」


 などとため息を吐きつつ、決して焦ることなく、慣れた動作で横に一歩移動し、ドシャっという音が辺りに響き渡るのを確認する。


 横、つまりは先ほどまで自分がいた場所に目線をやると、案の定そこには庭先で綺麗に咲き誇っていただろう花が、植木鉢と共に無残に散っていた。


「本日6回目の不幸か……」


 危ない目にあったにもかかわらず、動じずに家へと急ぐ。

 大学2年にして成績要注意者。さらに友達皆無、運動神経はいい方だが隠れオタクで引きこもり、自分のことを考えていると鬱になりそうだ。


 果たして不運なんて苗字がいけないのだろうか、それとも時雨という名前をどこぞの神様が気に食わなかったのか……。

 生まれてこの方不幸に見舞われない日はなく、外出すればもちろんのこと、今日の様に植木鉢が落ちてくることなど2日1回はある事だ。


 おかげ様で外出を極力控えねばならず、エロゲの主人公に感情移入したり、ネットで無駄知識を蓄えるぐらいしか、今のところ幸せがないという超不幸体質。


 この体質のせいで安息の場が家だけというのは悲しい物があるが、こんなに不幸なのだから仕方ないだろう。むしろ、よくこの歳まで生き残ってきたな、などと自分を褒めてやりたい、いや既に褒めていたりするほど酷だ。



 ま、決まって自分で自分を褒めた後は虚しいだけなんだが……。



 何故不幸なんだろうと考えたこともある。実際親にそれを聞いたこともある。

 原因不明と言われたほうがマシだったような気もするが、両親は素直に教えてくれた。

 なんでも全て不運家に生まれたのが原因らしかった。


 不運家とは、なんでも江戸時代から続く由緒ある暗殺一家で、無意味に人を殺しすぎて呪われたとかそうでないとか……。暗殺とかもう関係ないだろと突っ込んだのはいい思い出でもある。


 兎も角、そんな不幸な呪いがあっても、意味の分からない不運家は、これまた意味のわからい独自の不運回避の技術を伝承することにより、これまではなんとか命をつないできたのだという話だ。


 だがそんな技術も全ての不運を回避出来るわけもなく、我が家で最も呪いを色濃く受け継いでいる俺にとって、結局は不運回避の為、自分で苦労せざるをえない状況なのである。



 そして今、まさに今という今! 俺に不幸がまたもや襲いかかってきた。


 帰路の途中にあるT字路をちょっと過ぎた辺りの道路を、横に綺麗に整列しながら闊歩(カッポ)しているリーゼントさん達……。


 さっき不運にあったというのに、どうやら今日は貧乏神ならぬ、不幸が見が絶好調らしい。

 それにしてもあのツッパリ具合には見覚えが……、あるようなないような。


 しかしなぜに不良と呼ばれる人たちが、横一列にきちんと列を成し、歩いて向かってきているのか? などと見知らぬ人がいたら聞きたくなるだろう。もちろん俺もそれが一番聞きたい。


 いや、やっぱり聞きたくないかも。


 だって……、ねぇ……。


 本当は見覚えがないというわけでもないから、寧ろね……。


 正直昔の俺が何であんなことしたのか、若気の至りだったとしても、今の俺にはさっぱりだよ。


 大体だ、俺は基本的に暴力は好きじゃないというか、むしろ暴力反対! といった立場の人間だ。


 なのに昨日はよりによって俺の目の前で、可憐な女の子が捕まっていたので「女の子を助けるのはフラグですね!」なんて調子に乗り、格好つけようと不良たちの相手をしてしまった。


 覚えているのに自分を誤魔化してもしょうがないのだが、女の子にフラグがたつと思われていたその状況は、倒した直後、彼氏の登場によって甘い俺の妄想ごと粉みじんに破壊されたりしたのだ。


 現実逃避したいと言っても、きっと誰も責めてたり出来ないんじゃないかと思う。


 まったく、不運絶頂の俺が格好つけた結果がこれだ……。


 自業自得ですねごめんなさい。


 といってもまた同じ状況があったらやってしまうんだろうけれど


 エロゲの格好いい主人公にあこがれ、育った結果が今の俺なのだからきっと同じことをする。


 ……なんか悲惨だな、俺。



「おいおい、昨日はよくも不意打ちしてな! ぁ゛!? ゴラァ!」



 悲しい出来事をの思い出しているうちに、立派なリーゼントさん達が迫ってきていたようだ。

 長さは大体フランスパンのバゲット……、70cmほどだろうか。決して美味しそうではないが、その長さにはなみなみならぬものを感じる。


 何でそこまで長いのに重力に逆らい、凛々しく立っておられるのかは激しく疑問ではあるが、立派であることには違いない。


 なんて下らない事を考えていても現実は変わってくれない。

 現実なんてものは、刻一刻と状況は差し迫っているものでして、さすがに対処せざるを得ないといけない。


 得意の口八丁を駆使してここは穏便に済ませよう……。


「お前らなんて瞬殺できてしまうだろうが、弱いものいじめ良くないだろ? 良ないよね……? ならここは引いてくれると助かるんだけど」


 あれ? 自分なりに平和的交渉をしたつもりなんだけれど、何故かリーゼントさんたちが額に青筋を立てていらっしゃる。

 というか人とろくにコミュニケーションのとれない俺が、口でごまかすなんて器用なまねできるわけなかったのだ。


 バゲット叔父さん(不良)達は待つという言葉を知らないのか、俺に向かって猛然と走りだした。


 そんな状況を見て俺は、ぅゎー……、よく見るといつの間にかバット持ってるよ…。 一体全体どこからだしたの? リーゼントの中? それにしても穏便じゃないな? まじでどうしましょ? 等と一瞬のうちに下らない感想から現状の打破への道を導き出す。


 とりあえず得物は取り上げるしかない!


 目的を速やかに遂行するために、こちらも歩くスピードを上げ、バゲット叔父さん達へと迫る。


 そしてT字路の真ん中で、お互いの射程範囲内(例えるとおばさんたちがにこやかに立ち話するぐらいの距離)に入る。


「ウラァアア!! 死ねやぁああ! ボケがぁぁああぁぁあああああ!」


 勢い良く、元気良く襲い掛かってくるバゲット叔父さん達……、の横に誰も乗っていないとびきり機嫌の良さそうな暴走トラック。


 キタコレってこういう時に使うんだろうな、まじでなんて状況だよ。これが絶体絶命、背水の陣、見殺しってやつか……。なんて考えるの同時に体が動いていた。


 トラックとバゲット叔父さん達との斜線上に飛び出し、トラックに気づいたのか動けないでいる不良を、思いっきり飛び出した勢いを乗せた蹴りで吹き飛ばす。


 思いっきり蹴ったのだから、恐らくリーゼントさんたちは骨折ぐらいはしているかもしれない。それでも死ぬよりはましなはず……。


 なんて思っている間にも目の前にトラックが……っ!。


「ぁっ…! やべ! I can fly!!」


 ドスンッ……! という心臓に響く音の後に『ドシャッ』という着地音は、自分自身で聞いていても痛々しいことこの上ない。

 その音を出した当事者たる俺は、ゴロゴロと道路を無造作に転がっていく。


 回転がやっと止まり、空が見えた。


 確かに俺にも空が飛べると思っていた時期がありました……。


 でも夢見たっていいじゃない、人はきっと飛べるんだ。あんなふうにコスプレして空飛べるんだ……って、え?


 どうしてだろう、人が空を 飛 ん で い る よ。


 いやまて、落ち着け俺。慌ててるのがなんか可愛らしいな、なんて思うんじゃない。


 それにしてもなんて妄想とも及びつかないほどの可愛らしさ……。


 ん? 普通になんかおかしいな……。普通の人間なら空飛べないよね? 事実俺は飛べなかったし……。

 俺はもしかしなくても瀕死なのか? あれな幻覚を見るほどに? もしかしなくてもやばめですか? というかいまさらながらにトラック避けるのに真上へ飛ぼうとした俺って……。


 あれれ? 下らないことを考えているうちに視界が霞んできたな……、ちょっとまてよ……。まだ積んでるエロゲあるんだよ。あー、夜逃げした両親は無事だろうか? 俺の葬式って誰がやってくれんだ? つか思ってより意識ってなく……ならな……い……な……。






◇◇◇◇






 中二病的に言えば、気づいけば闇、静寂が支配している空間に俺はいた。


 ここはどこだろう……? 私はだれ? なんちて。

 とか自分で若干キモいと思えることを平気で行える空間、それが俺のいる場所だとも言える。


「おきてくださーーーーい!」


「おおう!? 目を瞑ってただけだったか」


 無駄にリアクションをとって起き上がり、目蓋を開いたその先には、さっき空中に浮かんでいた可愛いコスプレ少女が、空中で鎮座していた。


 傍から見ていて思ったが、結構シュールな絵だと思う。


「お兄さん結構ボケ野郎ですね……」


 指令に揃えられたショートから、自己位主張の強いアホ毛なるものを揺らしてそっぽを向き、唇を若干尖らせながら人をいきなりアホ呼ばわりしてきた少女に俺はもちろんこう返した。


「あんた恐ろしく可愛いな! もちろん可愛いは正義! ってボケ野郎って初対面でいうセリフじゃなくないか?」


 多少混乱していたり。いや多少じゃないね、うん。


『ッポ』なんて擬音が少女の方から聞こえて来たかと思うと、ほのかに頬を赤くさせて少女は何かを言い返そうと口をぱくぱくさせていた。いやはや可愛いです、眼福です。


「なっ……、なにいってるのですか!? いきなり意味がわからないです! ほんとほんとボケナスビです!」


 俺自身意味が分からないんです。


「いやはや可愛くて和むわー」


 こんな混乱状態でも反応してしまう可愛さ……っと、思わず口に出してしまったぜ……。なんてわざとだけれども。


「なっ!? だだだ、黙れーーーーなのです! これでも私は神様見習い、あまり調子に乗るようですと地獄に落としますよ!?」


 思わずポカーンとする俺が一人、二人、三人ほどいたり……。本当に三人いるわけじゃないが、それほどポカーンとせざるを得ないカミングアウトである。


「へ……? 神様? なにそれおいしいの? ヘルシーなの? てか俺やっぱり死んだの?」


「おいしくありません! まさか、た…食べる気ですか!?」


 俺の冗談を真正面から受け止め、露骨に震える自称神様見習いが一人。何故だろうか、怯える姿も……なかなかいけるじゃないですか。というのはもちろん表にはだしません。


「えっと別に食べる気はないんだが……、というか本当に俺は死んだのかが知りたいんだが」


 あたりを見渡せば中二病が好きな闇の空間ではなく、中二病が好きな一面真っ白な世界だった。本当に白しかない。全て白いため天井やら地面やらがきちんと認識できず、辺りを見ていると酷く気持ち悪くなる。


 気持ち悪くなるので仕方ないから可愛い女の子を見ておこう。


「というかやはりこれは確実に死んでるんじゃ? いや、でもまだ望みはある! はず……。」


「死んでますよ」


 ゲッファッ!!!!


「あ、血も白い」


「エ、エ、エ!? エイリアンなのですか、近寄らないでください!」


 先ほどと同じ様に震える女の子……たまらん。と数多い性癖の一つを暴露してみたりしても事態は好転しないよね、やっぱり……。


「いや、冗談だからさ」


「私をおちょくるのもいい加減にしないと助けてあげませんよ?」


 そういって腕を組み踏ん反り帰る女の子こと、神様見習いとやらのセリフに再度ポカーンとする俺


「え……? 助けてもらえるの?」


「もちろんなのです、というかそのために私はきたのです!」


 これまた小さい体の小さいお胸を一生懸命張っちゃって……。威張る姿もかわいいなーと真面目な会話中に思うのは不謹慎だろうか? 否、バレなければ問題ない。


「本当ならば貴方の曾々じいさんの時には呪いは解く予定だったんですが道に迷ってしまいまして……」


 俯きながら頬を染めてもじもじしている姿もまた……。ん? あれ? 今とんでもない事を言わなかったかこの娘。


「なんだって……? どうやったら曾々じいさんの時に呪いをとくつもりで俺の代になってんだよ、てかやっぱり呪いあったのか…。つか死んでからお助けかよ……。まぁ可愛いからいいけど」


 というより可愛いからこそ強くいえないし憎めない! あの潤んだ瞳、上目使い、完全に計算されつくしているとしか思えない可愛らしさ。

 ステータスなんてものがあったのなら、他に行くべきだったポイントを、全て可愛らしさを保つために容姿に全振りした、なんて事が納得できる愛らしさである。


「っ! ……それに関しては申し訳ないのですー、なので今回は特別サービスということで、貴方には違う世界で幸せになってもらうのです。ほんとほんと特別ですよ?」


(というかこのことがお父さんに知られると私が困るのです……ボソボソ)


 可愛いという言葉に若干反応を示したものの、そのまま話を進める神様見習いの少女、この娘にはバカ可愛いの称号が相応しい。


「違う世界……? 例えば?」


「知りません。でもどんな世界でも幸せになるよう呪いの解除と願いを一つだけかなえることは可能なのです」


(本当は面倒なのでちゃちゃっと適当にやっちゃうだけなんですえけどねー、いや私は悪くないですよ。全て私をおちょくるこのボケナスビが悪いのです。ほんとほんとそうに決まってます)


「いや、その幸せって結局俺次第のような……」


「っ……!。まぁ、そんなことは置いといてです。願いは何ですか?」


 置いておかれてしまった! 恐らく一番大事なことを置いておかれてしまった! だが可愛いがゆえに言えない悲しさ……。俺ってやつは、俺ってやつは………。


 と悲しみに浸っているわけにもいかないし、とりあえず考えてみるか……


「また随分といきなりだな……、んー」


「時間がないのでちゃっちゃと決めるのです、後5秒です」


 どうやら思いつく前に事が終わってしまいそうである。


「ぇえ!? なにそれ、ちょっとまてよォオオオイ!? えっとなんだその……」


「3…2…1…0!」


 ちょっとまてっぇえええええい! 早すぎるって、マッハだって、いやマッハじゃないけどさ。それにしたって早すぎるって……。この速さは尋常じゃない気がするよ、うん。


「あなたの願いは成長値MAXですね、わかりました。」


 あれ? 何言ってるんだ俺……。いや、俺何も言ってないよ?


「あのー、俺の願いをかなえてくれるんじゃ?」


(この頃育成ゲームに嵌ってて尚且つチートした最近の出来事を思い出してしまったから……なんて言ったらやばそうですね。とりあえず無視しましょう)


「つべこべいわないで欲しいのです、そもそも呪い解除だけでも十分なのですから。それに私はあなたの心の声を代弁したまでなのです! ほんとほんとそうなのです!」


 まるで心を読んだかのような物言いだ! 成長値MAXなんて微塵も思わなかったけどな!


「り、理不尽すぎる……。俺の最大の不幸はこの神様に当たったことなんじゃないだろうか……。」


 せめて可愛さも理不尽なレベルじゃなければまだ犯行、ゲフンゲフン、反抗の余地が残されていたのに!


「なにをぶつぶついってるのかわかりませんがさっさと飛ばしちゃいますね!」


「え? まってどこに? ぇぇえええーーーーー!? 早すぎるよ展開が! もうちょっとなんかあっていいと思わない? ねぇ、ねえ!」

2014/9/05 加筆修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ