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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
93/371

幕間◇強襲Ⅱ

更新再開いたします。

スキルの解説などを今後、最後尾に入れたいと思いますのでよろしくお願いします。


【固体名】ギ・ゾー

【種族】ゴブリン

【レベル】19

【階級】ドルイド

【保有スキル】《魔力操作》《水術操作》《鼓舞》

【加護】水神(イレン)

【属性】水



 慌てふためいて戻ってきたギ・デー配下のゴブリン達が、水術師ギ・ゾーに報告をする。

「人間が、攻めてきただと?」

 ギ・ゾーが知っている人間と言えば、王の財であるレシアやリィリィ。或いは干し肉を作ってくれるマチスや、柵の修理をしてくれる者達だ。

 実感を得ないその報告に、しばし首を傾げる。だが、報告がギ・デーのことに及ぶと驚愕に目を見開いた。

「ギ・デーは人間に殺されたというのか!」

 普段温和なギ・ゾーのその剣幕に、報告をしたゴブリンは震えあがる。自分達を逃がす為に犠牲になったと、震えながらも報告するゴブリン。最後まで聞き終わってギ・ゾーは怒りに身を震わせた。

「誰であろうと、我らに牙を剥くなら倒さねばならん」

 槍使いギ・ダーにも事態を知らせねばならないと考えたギ・ゾーは手下のゴブリンを走らせる。自身はレシア達王の財の下へ向かった。

 敵が人間となれば、必要ない動揺が生まれるかもしれない。レシアかリィリィにその辺りのことを頼めないだろうか、と細やかな心遣いを忘れない。このようなところがギ・ゾーを王やギ・ザーが信頼する所以なのだが、この二人以外にはあまり重要視されていない。

 ゴブリンにとって力こそが己の価値を知らしめる第一のものだ。心遣いがあるからといって、それが群れの中の地位にまで影響を及ぼすことなどなかったのだ。

 それこそ、王が確固たる地位を築くまでは。ギ・ゾーは自身の力を他の者より多少劣っているとは考えても、秀でているとは思っていない。だからこそ、王とギ・ザーから任された集落を取り仕切る役目に責任を感じていた。

「レシア様。リィリィ殿。ギ・ゾーです」

 扉に向かって声を掛けると、中から許可を与える返事が返ってくる。

 王の財に対する丁寧な扱いは、ギ・ゾーの責任感からくるものだった。粗末ながらも整えられた王の家の中に入ると、ギ・ゾーは事情を話し始めた。ギ・デーの件になると今にも怒り狂いそうな感情を押さえつけ、淡々と報告をする。

 そうして最後に、レシアとリィリィに向かって依頼をするという形にして、人間たちの動揺を抑えてもらう。

「分かりました。そちらは私が引き受けます」

 レシアの言葉にホッと胸を撫で下ろし、ギ・ゾーは退出する。その目には、仲間を殺された怒りが地を舐める野火のように燃え広がっていた。

「ギ・ゾーどノ」

 槍を担いだギ・ダーが声をかけてくる。

「ギ・ガー殿はまだ、戻られないか?」

 ギ・ゾーの問いかけに、ギ・ダーが首を振る。

「ならば仕方ない。我らでこの危機を乗り切らねばなるまい……ギ・ダー殿、集落を頼む。私が人間を蹴散らしてこよう」

 その言葉を聴いて、ギ・ダーは目を剥く。

「逆だ。俺ガ、行ク! ギ・ゾーどノ集落の主、俺が、イク!」

 内に猛る心を更に煽るように、ギ・ダーは足を踏み鳴らし、担いでいた槍の石突で地面を叩く。

「いや、ギ・ダー殿、それは違う。集落をまとめるのはギ・ガー殿だ。私はその代理に過ぎない。それに集落を守る責任というなら、私が一番重くあるはず」

 懇々と説明を続けられると、ギ・ダーもそういうものかと納得してしまう。もともと祭祀ドルイドのゴブリンとノーマル出身とでは、知性の差が激しいのだ。上手い具合に丸め込まれたギ・ダーは、最後にはギ・ゾーが出撃するのを了承した。

「連れて行ける兵はなるべく連れて行く。心許ないかもしれないが、頼むぞギ・ダー殿!」

「任せロ! 俺集落守ル!」

 ゴブリンの雄で今戦えるものは、数にして90匹を数える。王が対オークでの戦でやったように、幼生を脱したばかりのゴブリンと怪我をしたゴブリンまでも戦力に加えた数ではあるが。絶え間なく生まれるゴブリンの数はかなりの速度で増えている。対オーク戦で失った数は、殆ど回復してきているのだ。

 その中でギ・ゾーは精鋭の30匹を連れて迎撃に出る。三匹一組(スリーマンセル)での、王から教授された戦いに慣れた歴戦のゴブリンに絞って、東へ向かった。


◇◆◆


 白き癒し手と呼ばれる女冒険者は、その名の通り目立つ白いローブを頭の天辺から爪先まで覆っている。

「姐さん!こりゃちっと数が多いですぜ!」

 年嵩の冒険者が、長剣を構え直しながら目の前の光景に舌打ちする。

「大丈夫、大丈夫」

 変わらず白き癒し手が、宥める様に繰り返すが。

「しかし……」

 無口な性質なのだろう。

 もう一人の冒険者も、体を覆えるだけの盾を構えながら苦言を漏らそうとして押し黙る。

 目の前に広がるのは、ゴブリンの群れだ。オークの集落を壊滅に追いやったガランドを中心とした冒険者のグループは、更に細分化して聖女を探しながら狩りを楽しむことに決めた。

 オークの集落といえば、一般的に考えてこの辺りの集落の覇権を握っているはずだ。数こそ多いが端から逃げ腰のオークたちは、最初の一撃をガランドが加えると、すぐさま逃げ散っていった。あのオークが食物連鎖の頂点に立つなら、この辺りの危険度は高くはない。

 そう判断をしたガランドは、自身の率いる冒険者のグループを3つに分けた。

「ガランドの旦那に付いて行けば良かったかな? それとも破杖の旦那のほうがマシだったか」

 年嵩の冒険者の呟きを聞き咎めた白き癒し手は、苦笑するとともに手にした杖に魔力を込める。

「嘆きよりも、仕事を果たすことを神は望まれますよ」

「へいへい……それじゃ、神様に媚を売っておくか」

 年嵩の冒険者の声に、無口な冒険者も頷く。

不退転の盾(シールドラッシュ)!」

 じりじりと迫るゴブリン達に、その巨大な盾を全面に出して道を切り開く。大盾にぶつかったゴブリンを跳ね飛ばし、囲まれるのを防ぐように一本の道を開いていく。まさしく重騎士の戦い方を実践する無口な冒険者。だがその数の差は如何ともし難い。討ち漏らしたたゴブリンが背後に回ろうとし──。

「悪いが、そいつの穴を掘らせられんなぁ! 疾風の一撃(ウィンド・スラッシュ)!」

 下品なジョークとともに、年嵩の冒険者の長剣に切り付けられる。左右から迫るゴブリンに、長剣を風より早く操って付け入る隙を与えない。軽戦士特有の身の軽さを生かした素早い攻撃。連携攻撃によってゴブリンの包囲を切り抜けようというのだ。

白き神は偉大なり(コンフュージョン)!」

 白き癒し手の杖に宿った魔力が、周囲を包む振動となって駆け走る。

 振動には混乱を誘う魔力が編み込まれていた。走り抜けた振動に、ゴブリンたちが一瞬敵を見失い、攻撃の手が緩められる。

「さっすが、加護篤き神官様だぜっと!」

 混乱の余波に巻き込まれなかったゴブリンを蹴散らしながら、軽戦士の冒険者が長剣を振るう。

「さっさと囲みから抜け出すぜ!」

「そうしましょう」

 僅かも焦った様子を見せない白き癒し手が、悠々と混乱するゴブリンたちの間を抜けていく。

水弾!(ウォーター・バレット)

「ぐ、む!?」

 大盾を構えて順調にゴブリン達を薙ぎ倒して行った冒険者が苦悶の声をあげる。目の前に立ち塞がるのは知性を感じさせる赤い肌のゴブリンだ。杖を構えたその様子は、この群れのボスに相応しい威厳に満ちている。

「……厄介だな。ドルイドか」

 軽戦士の呟きに、重騎士が頷く。

「しっかりしろ。お前たちの主を思い出せ!」

 ゴブリン・ドルイドの明瞭な言語に、混乱をきたしていたゴブリンが立ち直る。手にした棍棒や、先の尖った杭などを構え直して、ジリジリと3人の冒険者との距離を詰めていく。

「いつも通りにやれば良い。臆するな!」

 ゴブリン・ドルイドの声にゴブリン達が一気に襲い掛かってくる。

「……くっ!」

 大盾に対しては左右同時に回りこむと、その隙間をついて棍棒を振り回す。左右ほぼ同時の絶妙なタイミング。対処するためには距離をとるしかないと判断して、無口な冒険者は飛び退く。

「こな、くそ!」

 軽戦士に対しては、一撃目を一匹目が受け止め、二匹目が足を狙う。バランスを崩しながらも3匹目が止めの一撃をくれようとしたのを、なんとか合わせる。ぶつかり合って火花を散らす長剣と棍棒に、軽戦士の全身から冷や汗が噴出した。

 一撃を受け止めたゴブリンが尖った杭を更に突き出す。目の前を尖った杭が通り過ぎていく。一旦距離をとろうと飛び退いたところで、迂闊にも前から下がった重騎士とぶつかり、バランスを崩してしまう。

「ギギッ!」

 振ってくるゴブリンの一撃に、急所を守るべく剣を盾にする。

「ご、あ!?」

 足を狙われる。一撃だけならば良くとも3匹同時に攻めてくるゴブリンの連携の良さに、冷や汗が止まらない。

「くっ!」

 長剣を薙ぎ払うように使ってゴブリン達を追い払う。

「こりゃあ、まずいぞ」

 思った以上にゴブリンどもの連携が上手い。ここまでの連携を見せるのは大陸中央の亜人や、妖精族辺りしか思い浮かばなかった。そして何よりも、先ほど受けた足への一撃が致命的だった。命にまでは届きはしないが、この足を抱えて逃げるのは無理だ。

 見れば大盾を担っていた冒険者も、手をやられたらしく大盾を地面に突き刺して止血をしている。

 逃げるのは不可能。さりとて、ゴブリン全てを殲滅するのはもっと難しい。となれば、残る手段は……群れの主を叩き潰してその隙に、という話になってくる。

 だが、軽戦士はゴブリン・ドルイドと自分たちの間にあるノーマルゴブリン達の分厚い壁に、絶望的な望みだとしか思えなかった。

白き神の御心のままに(ヒール)

 痛みが急激に引いていく。それどころか全身に力が漲って来る様だった。その声が聞こえた方を振り返れば、自身の周囲に透明の何かを張り巡らせた白き癒し手の姿。

「神はまだまだ私達をお見捨てになってはいません。頑張っていきましょう」

 ローブから僅かに覗く口元が笑みの形を作る。余裕すら浮かべる彼女の表情に、軽戦士は心を奮い立たせた。

「ちっ……。神様どうか命を賭けないで儲かる仕事を下さいって感じだな! おい!やれるか!?」

 大盾を構える重騎士に問いかける。

「……もちろんだ」

 大盾から手斧を取り出すと、周囲のゴブリンを睨み付ける。

 ゴブリンと冒険者の死闘が始まった。



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