閑話◇古獣士
ネットカフェに来たので更新。
シリアス展開に喘ぐ読者様の為に作者からの贈り物を!
活動メッセージでも書きましたが、累計PV5,000,000超え、ユニーク1,000,000超えの記念に書いてみました。
この小説があるのも、読者の皆様の暖かい評価および感想の賜物です。ありがとうございます。
だからみんなオラに評価ぽいん(ry……ごふんごふん、なんでもありません。
友情・裏切り・進化・ならびに愛でこのお話はできています。
【固体名】ギ・ギー
【種族】ゴブリン
【レベル】95
【階級】レア
【保有スキル】《追尾》《投擲》《斧技D+》《雑食》《怒声》《獣の気持ち》《獣士》
【加護】なし
【属性】なし
【使役魔獣】双頭駝鳥
調教とは愛である。
常々己の愛獣である双頭駝鳥の背に乗る獣士ギ・ギーはそう思っている。王がノーブル級であったころギ・グーの集落を占領して以来、付き従ってきたギ・ギーではあるが、氏族の一角であるパラドゥアゴブリン達の生活を見て、その考えをより堅固なものとしていた。
パラドゥアゴブリンたちは、まさに魔獣である黒虎と一心同体の生活をしている。パラドゥアゴブリンが阿といえば、黒虎は吽と鳴くのである。
まさに阿吽の呼吸。
「なるホど、阿吽ノ呼吸」
仲の良い隠密ギ・ジーが頷く。
その様子を眺めるにつれて、獣士ギ・ギーは自身の愛騎である双頭駝鳥を見つめる。
言葉など通じなくとも、愛さえあれば意図はわかるはずだ。
ギ・ギーは愛騎に瞳で訴える。
「あ」
ギ・ギーがそう言ってみるが、愛騎は二つの首を同時に傾げるだけだった。円らな4つの瞳がギ・ギーを見つめる。だが彼は諦めない。
足りなかった、今のは愛の濃さが足りなかったのだ。
目に込める力を……いや愛の量を頑張って上げてみるギ・ギー。
「ア!」
双頭駝鳥の首を傾げる角度が深くなる。このまま行けば、一回転してしまうのではないかとギ・ギーは不安に思い、重々しく唸り声をあげてしまう。
何が違うのだと、ギ・ギーは首を傾げる。
「う、ウン……」
「なるほド、阿吽の呼吸」
いや、違うのだとギ・ギーは首を傾げる。一人で阿吽といってどうするのだ。それでは意味がないのではないか?
首を傾げ合った双頭駝鳥とギ・ギー。どう勘違いしたのか、双頭駝鳥は嬉しそうに鳴くと二つの頭をギ・ギーの首に巻きつけて喜びを表現する。
「仲が、イイのダな。良きコトだ!」
「……そうダな!」
ギ・ジーの勘違いだったが、ギ・ギーも段々そんな気がしてきた。
「ヨし、狩りに行くゾ!」
ひらりとギ・ギーは飛び乗ると、双頭駝鳥が一声鳴く。
「出発ダ!」
走る双頭駝鳥の隣を、ギ・ジーが並走する。
時は王が深淵の砦を陥落させ、周辺の氏族の代表を集めている最中だった。珍しく戦いもなく、脅威である大鬼の姿も、王が巨大鬼を打ち倒されてから殆ど見ない。
近隣の散策に出向くには絶好の日だった。
◇◆◆
氏族の周辺の森は、東の森に生息している生き物とは全く違う生態系からなっている。西に向かえばそれだけ強大な生き物が生息していると思って間違いない。
自然森の中で狩る生き物も強い物となっていく。ギ・ギーとギ・ジーが狙いを定めたのは、森に生息する生き物の中でも硬い表皮と飛ばす粘液が厄介な巨大芋虫であった。大きなものは一人前のゴブリンの戦士ほどもあり、小さなものは手の平に乗るほどである。
幼生は、使役する双頭駝鳥の好物と言ってよく、土の中や倒木の中に頭を突っ込んで食べている。幼生はその表皮も柔らかく、噛んだ側から肉汁が滴り非常に美味しかった。
大きなものは切り分けて食べねばならないほど肉厚であり、王が氏族の集落に向かうときに倒したものを遠征中の全員で食べたが、歯応えがあってそれは美味かった。
ギ・ギーもギ・ジーも、そしてもちろん双頭駝鳥も、その日は朝から朽ちた大木を発見してその周囲を散策していた。
「オォ! また、居タ!」
「こっチもダ!」
ギ・ギーが声をあげると、ギ・ジーも同じく声をあげる。双頭駝鳥は声も上げずにギ・ギーが手にした芋虫を横から食べてしまう。
「何をスる!?」
そ知らぬ顔でギ・ギーを横目に片方の頭でギ・ギーの前にある芋虫を啄ばみ、もう片方の頭で倒木の隙間の芋虫を次々に貪り食っている。
「むむむ……」
唸り声をあげながら他の芋虫を探すギ・ギー。
「今日は、大量ダ!」
喜びの声をあげるギ・ジーが自分の獲った芋虫をギ・ギーに投げ渡す。巨大芋虫の幼生を食いながらギ・ギーも頷く。
二つある内の片方の頭を倒木の隙間に突っ込んで取れなくなってしまった双頭駝鳥が羽をばたつかせる。
「……助けナイのカ?」
「自業自得ダ」
「グェグェ!?」
こうして食べることに夢中になり過ぎていた2匹と1羽は、近づいていた脅威に気が付かなかった。レア級ゴブリンとしてはあまりにも浅はかな失態である。
「ゴキュウゥルゥゥゥ!」
その怒りの声に振り返った先には、巨大芋虫が10匹はいる。
唖然として、思わず手にしていた芋虫の幼生を取り落とし隣のギ・ジーに視線を向けるギ・ギー。同じように硬直していたギ・ジーも、冷や汗を流しながら隣のギ・ギーを見る。
そして最後にばたつく双頭駝鳥。
二匹のゴブリンは互いに視線を交わし、暗黙の了解を取り付ける。
目の前の迫る大量の巨大芋虫がじりじりと迫るのにあわせて徐々に下がっていく。その後ろに双頭駝鳥が近づいてきたとき、ギ・ギーとギ・ジーは示し合わせた通りに巨大芋虫に背を向けて走り出した。
「……すまン!」
「弱肉強食是世の習イ」
「グェ!?」
二匹とも表情を引き締めているが、その実態は逃亡しているだけの、かなり間抜けな格好である。双頭駝鳥の間を通り抜け、一目散に逃げ去る。慌てたのは双頭駝鳥だった。
まさか逃亡するとは! 怒りを力に変えて暴れまくると、倒木の間から頭がスポッと抜ける。迫る巨大芋虫の追撃を振り切るべく、最悪あの2匹を道連れにせねば気が済まないとばかりに猛然と森の中を走り出す。
◇◆◆
流石の巨大芋虫の群れも、全力で逃げるレア級ゴブリン2匹と、怒りに燃える双頭駝鳥の脚力には敵わなかった。だが住処を荒らされた巨大芋虫も引くつもりはない。双頭駝鳥がつけた森の中の道を、一列になって追っていく。
巨大芋虫は走るのがあまり得意ではない。だが怒りに我を忘れた芋虫たちは全力を振り絞って不埒な侵入者たちを追いかける。
だが元々走るのが得意でない上に、怒りに任せてペースを考えずに猪突しすぎたツケはすぐさま芋虫たちを蝕んでいく。つまりバテたのだ。
その時、前を走っている双頭駝鳥が一声鳴いた。
芋虫たちも双頭駝鳥も共通の言語はない。
──逃げ出したゴブリン達だ!
だが、芋虫たちは息も絶え絶えになっている所にその一声を聞いたのだ。ここに至って芋虫達の認識は統一された。敵は近いぞ!
──ゴブリン達に、追いついた!
だがやはり腐っても鳥。駆け抜ける速さは芋虫達の比ではない。もう駄目だと脱落しそうになるところに、さらに一声駝鳥が鳴く。
“頑張れ”と言われている気がした。
走りながらこちらを振り向いて、片方の頭で声をかけてくる様子。
「グエ!」
本当は良い奴なのかもしれない。などと芋虫達が認識を改めている間に、勇壮に双頭駝鳥が一声鳴くと、森の切れ目を抜けて、まるで騎士が敵に突撃を仕掛けるように跳ぶ!
「グエー!」
──続けっ!
とばかりに最後の力を振り絞る芋虫たち。ゴブリン達を捕まえたら第一の殊勲はあの駝鳥に違いないなどと小さな頭の隅で考えながら、開けた森の先の光景が飛び込んでくる。
◇◆◆
双頭駝鳥は倒木の隙間に片方の頭を挟めたまま、もう片方の目で確かにギ・ギーが取り落とした芋虫をギ・ジーが素早く拾うのを確認していた。
二匹揃って逃亡する際にも確かにその芋虫を握っていたのだ。
──食べたいっ!
目の前に迫る巨大芋虫。奴等に捕まればもう芋虫を食べることもできなくなるだろう!
なら最後の1匹は必ず食わねばならない!
後ろを振り返ると巨大芋虫の成虫が走ってくる。
──あれはちょっと、喰えない。ぺっ!
「グエ!」
矛盾した考えに、二つの頭は気付かない。そうして必死でゴブリンを追いかけて行った途端、森の切れ目を抜けた。
──いた!
「グエー!」
森の切れ目に待ち構えたゴブリン・レアの手元にまだ食べていない幼生を見つけて歓喜とともに走り抜ける。
「オォ、戻っタカ」
なぜかご機嫌なゴブリンが羽を撫でるが、無視を決め込んで芋虫に向かう。
「追っテキたゾ」
「こう、シよウ」
一匹のゴブリンが芋虫を奪い取ると、森のほうに向かって放り投げた。
──ああ、エサが!!
「グエーー!」
放り投げられた芋虫の幼生を空中でキャッチ。我ながら惚れ惚れする美技!
足元に芋虫!
──邪魔だ!
◇◆◇
森の切れ目を抜け、光差す平原へ出たと思った瞬間芋虫に襲い掛かってきたのは、先ほど前あれほど勇猛に芋虫たちを先導していたはずの双頭駝鳥だった。
飛び上がり走る先頭の芋虫の上へ強制着陸。その巨大な重量でもって芋虫を踏み潰すと同時に二匹目以降の芋虫を走ってくる衝撃で跳ね飛ばす。
──なぜだ!?
と混乱する芋虫の一匹が双頭駝鳥の口に咥えられる幼生の姿を見つけた。
──裏切ったなぁ!?
「キュウルルルゥゥ!」
悲痛な叫び声も、大地を踏み鳴らして突撃してくる駝鳥の勢いに、かき消される。折下、全力で森を走らされたおかげで体力など残っていなかったのだ。仰向けに吹き飛ばされたまま、ぐったりとして動かない。
そうこうしているうちに、逃げたはずのゴブリンの2匹がやってきた。
「うマく、いっタ」
「おぬシも悪ヨのウ」
仰向けにひっくり返った芋虫たちに2匹のゴブリンの顔は、悪魔のように見えた。
◇◇◆
「……今日は随分と巨大芋虫が多いな」
深淵の砦に並ぶ夕餉の内容に俺は首をかしげた。
「今日は、ギ・ギー殿とギ・ジー殿が大量の芋虫を捕まえてきまして」
狩りはしばらく4氏族に任せたはずだが、ギ・ギーもギ・ジーも一念発起したのだろうか? なんにせよ強くなるのに貪欲なのは良いことだ。
「なるほど、あいつ等もそろそろだからな」
逐次進めている《一つ目蛇の魔眼》でのステータスチェックによると、そろそろ奴らの階級があがりそうなのだ。
「何がです?」
質問してくるクザンに、俺は苦笑で答えた。
「いや、なんでもない。それより早く食ってしまおうか」
翌日ギ・ギーとその使役魔獣が進化を遂げた知らせを受けた。
◆◇◇◆◆◇◇◆
【固体名】ギ・ギー
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】ノーブル
【保有スキル】《追尾》《投擲》《斧技C-》《雑食》《怒声》《以心伝心》《古獣士》《調教師》《連携》《群れの仲間》《蟲喰らい》
【加護】なし
【属性】なし
【使役魔獣】大角駝鳥
◆◇◇◆◆◇◇◆
ギ・ジー「お主モ、悪ヨのう……ゴブリン屋」
ギ・ギー「いえいエ、お代官様ほどでハ……」
ギ&ジ「「ふふふ、はっはっは!」」
二匹の間にこんな会話があったとかなかったとか。
では、また更新できたらよろしくお願いします。