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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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閑話◇ギの集落にて

【個体名】ギ・ガー・ラークス

【種族】ゴブリン

【レベル】89

【階級】ノーブル・ガーディアン

【保有スキル】《槍技C+》《威圧の咆哮》《雑食》《必殺の一撃》《王の信奉者》《投槍》《武士の魂》《不屈の魂》《閃き》

【加護】なし

【属性】なし

【状態異常】欠けた足を義足で補うことにより、戦力30%減






「……むぅ」

 ギの集落でレシアは目の前の光景に唸っていた。 

 ほんの少し前、遠征をしている“王様”から贈り物が届いたのだ。それを届けに来た使者が言うには、順調に4氏族を配下に加えて行っているらしい。遠征はまずまず成功しているのだろう。

 それはいい!

 だが、問題は彼女の目の前に“いる”コレだ。

「グルゥゥ!?」

「ウゥォオン!?」

 先ほどから、シンシアもガストラも唸り声をあげて近づいてすら来ない。

「……ぬぅ」

 再度レシアは目の前の、どう見ても黒い虎にしか見えないものを見て唸り声をあげた。

「ギ・ガー殿という方に贈られる騎獣です。我らパラドゥア氏族の黒虎(ブラックタイガー)をどうぞ、お納めください」

 自身もその騎獣に乗ってきたゴブリンが、丁寧に頭を下げる。騎獣に寄り添うゴブリンの様子は馬が大好きな人間を連想させるが、やはり顔つきでは比べようもない。

「レシア様、これは……」

 騎獣と睨めっこしているように、眉間の皺が深いレシア。その様子に、半ば慌てながら狩りから戻ってきたリィリィは狼狽えた。

「……王」

 感極まって言葉もない片腕片足のギ・ガー・ラークスを尻目に、レシアはうんうんと唸り声をあげているのだ。

 まるで騎獣を威嚇するようなその迫力に、知らずリィリィは一歩後ずさった。──とりあえず、あの真っ黒な虎をレシア様から引き離さなければ──という使命感に突き動かされ、リィリィはレシアに声をかける。

「あの、レシア様?」

「おメでトウございまス。ギ・ガー殿」

「流石我らが王ですな!」

「良かっタ。ヨカった!」

 獣士ギ・デー、水術師ギ・ゾー、槍使いのギ・ダー。それぞれが祝いの言葉をギ・ガーに掛けているがなにやら急速にレシアの表情が曇っていく様子に、リィリィはハラハラしながらその様子を見守るしかない。

「レ、レシア様?」

 肩に手をかけてやっと彼女がリィリィの方を向く。

「あら、戻っていたの?」

 いつも通りの笑顔。だが、何かが違う。

「ヤッパり、王はギ・ガー殿ノことヲ忘れテいなかった」

「忠誠には褒美を、ということなのでしょう。これで傷ついた仲間も希望を持てるというものです」

「良カッタ。良かっタ!」

 獣士ギ・デーの発言に、ぴくりとレシアの動きが止まる。引きつるような笑みに、リィリィの動きもまた止まった。

 ここにきてリィリィは何となく理解してしまった。だが、理解できたからといって解決の糸口が見つからないのがこの問題の危険なところだ。下手をすると全員を巻き込んで噴火するかもしれない。

「お、王様も……」

 固まった空気に耐えられず、リィリィはその名前を口にする。

「王様、も?」

 底冷えするような声がレシアの口から洩れる。表情が笑顔なだけに、非常に怖い。恐怖に慄くリィリィが必死の思いで言葉を吐く。

「きっと忙しくて……」

「きっと、忙しくて?」

 ぴしり、と空気が凍った気がした。危険だ危険だと思ってはいるのだが、ここまで来てしまった以上他に迂回する道はない。自分の口が恨めしい。空気を変えようと思って結局一直線に火山の火口に突っ込んで行っているのではないか。

「次回はきっと……」

 だが、最後の最後まで諦めてはいけない。悲壮な覚悟を決めて口を開くリィリィ。

「次回……、今回は?」

 あ、まずい。

 と、どこか他人事のように理解した。

「なんでっ! 私へのお土産がないのですかっっ!!!」

 その怒声は躾けられた黒虎を威圧し、思わず平伏させるほどに迫力があったとかなかったとか。


◇◆◆


 リィリィがレシアの機嫌を直すのに追われている最中、ギ・ガー・ラークスはパラドゥアゴブリンの指導の元、騎獣を乗りこなすべく奮闘していた。

 手綱を握り、鞍を乗せる。だがどうしても失った片足の締め付けが弱くなってしまう。リィリィにもらった義足では鐙を上手く使えないのだ。

 少し速度が出ると、黒虎の体重移動についていけず振り落とされてしまう。

 前途多難の中、だがギ・ガーは諦めていなかった。

 パラドゥアの使者から聞いた話では、王はギ・ガーのことを第一の忠臣と語ったそうだ。ギ・ガーなら乗りこなせるはず、と。

 ならばギ・ガーはそれに応えねばならない。黒虎に振り落とされて負う傷も、王の期待に応えるためと思えば苦になどなろうはずがない。

 日毎、いや時間が経つに連れて黒虎の特性を掴み、最初に黒虎に乗った時から考えれば振り落とされる回数も格段に減っていく。

 その上達の速さに騎獣兵の誇りを刺激されたのか、パラドゥアの使者も指導に熱が入る。気付けば彼らの訓練は、日の高いうちから日暮れまで続いていた。

「今日はここまでにしよう。ギ・ガー殿」

「俺は、まだいけるが……」

 最近慣れてきた手綱を引いて黒虎を制止させる。

 未だ槍を持って黒虎を疾走させることはできないが、ギ・ガーの技量は片腕で操る分には問題ないレベルにまで達していた。

「いや、明日には黒虎の本領である夜駆けをしようと思うのだ。黒虎も含めて今日は休みを取るべきだ」

「そうか」

 手綱を口に咥えると、ギ・ガーは黒虎の頭を撫でてやる。

「グルゥゥ」

 機嫌良さそうに喉を鳴らす黒虎に、パラドゥアの使者は目を丸くする。

「もう随分とハクオウに慣れましたな」

「アッラシッド殿のおかげだ」

 アルハリハは副官を務めたゴブリンを使者に派遣していた。彼のギの集落への気遣いを窺わせる人選だった。アッラシッドは、族長であるハールーよりも年上で、狩りの経験も長い。アルハリハが族長の間はハールーよりも高い3番槍の地位をもらっていたのだが、アルハリハの引退に伴ってその席次を後進に譲っていた。

「親父殿が私を派遣された時は、何を考えているのかと思ったが、今なら納得できる」

「どういうことだ?」

 ゆっくりと黒虎を集落に進めながら二匹のゴブリンが雑談に興じる。

「東に王の忠臣ありと、それを見届けてこいと言うことだったのだろう。親父殿は本気で王の元でゴブリンの統合を考えているらしい」

 納得がいかないギ・ガーにアッラシッドは笑いかけた。

「私はこの任が終われば長老衆になる。その場で意見を言って他の者らを納得させたいのだろう」

「そんなことが必要なのか?」

 なんだか面倒なことだと顔を顰めるギ・ガー。その態度にアッラシッドは笑いを大きくした。

「そう。面倒なことだ。だが、氏族を率いるとはそこまでやらねばならんのだ」

「……我らの王は偉大だったな」

「……全くな」

 夕暮れの中を、2匹のゴブリンが集落へ戻っていった。


◆◆◆◆◇◇◇◇


【個体名】アッラシッド

【種族】パラドゥア・ゴブリン

【レベル】70

【階級】レア

【保有スキル】《獣上槍》《魔獣操作》《槍技C+》《統率C+》《突進》《連携C+》《獣の心》《副官の心得》《虫の知らせ》

【加護】なし

【属性】なし

【愛騎】シオウ


◆◆◆◆◇◇◇◇


王様とはあんまり関係のないお気楽なお話でした。


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