侵入者たちⅡ
そして刃毀れし、根元から歪んだた曲刀を見て思わず舌打ちした。→歪んだ
【種族】ゴブリン
【レベル】15
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)
振るわれる巨大な斧。
岩石なみの質量をもったそれが、俺の眼の前に落ちて地面を砕く。
「オオオウゥ!」
伸び放題の髪に、盛り上がった筋肉はまさに巌のようだ。黒く染まった肉体から筋肉の限界を無視して振り下ろされる斧はそれだけで既に凶器だった。砕かれ飛び散る切片が肌を切り裂き、細かな傷を作っていく。
クザンに導かれるまま道を進んだ俺たちは、深淵の砦を占拠する大鬼と出会うことになった。一匹で彷徨っていた所を強襲したのだが、思いのほか強い。
俺の率いてきたゴブリンはどれもレア級ばかりである。森の中では一群を率いるほどの力を持っているゴブリンですら、大鬼の肌に傷をつけることができない。
比較的攻撃力の低い隠密のギ・ジー、獣士ギ・ギーなどは殆ど歯が立たないと言っていい。
その肌に傷すらつけられないのを、歯がみして見守るしかないのだ。
比較的軽傷ならば与えられるのが、ノーブル級のギ・ゴー・アマツキ。剣神の加護を受けているから、というのもあるのだろうが、やはりその剣の切れ味は並大抵ではなかった。
大鬼の足元をすり抜けざまに一閃。
その足の指を刎ね飛ばす。曲刀の刀身全部を使って、滑るように大鬼の肌を切り裂く様子は、まるで良くできた舞のように無駄がない。
極限まで斬る動作の無駄を省いていった結果残った、純粋な型。あらゆる剣士の目指す所であるそこに、ゴブリンながらに到達しようというのか。
俺が思わず見惚れるほどの一斬を放ったギ・ゴーだったが、隕石じみた大鬼の一撃に距離を取る。
そして刃毀れし、根元から歪んだ曲刀を見て思わず舌打ちした。
力任せに斬りぬいた結果だろう。余りにも硬い大鬼の肌を切り裂くために力を入れすぎた結果、最早使い物にならない曲刀の様子に、己の未熟を悟って剣神ギ・ゴーは顔を歪めた。
「……未熟」
残る一刀を取りだすと、再び大鬼と対峙する。
それを制して前に出たのは、氏族の4匹だった。
「束ね束ねて矢羽とせよ!」
流星の弓の弦を張るガンラのナーサ姫。その弦に矢は存在せず、魔力のみで編んだ一撃が矢の形を取って大鬼に射られる。足を狙った一撃は、オーガの注意を誘わずにはいられなかったが。
「こちらを見ろ」
初めに射る者のギルミが正確無比な一矢を大鬼の眼球目掛けて放つ。ナーサの一撃とほぼ同時に放たれたその一矢に、思わず大鬼はギルミの一撃から目を庇う。動物なら当然のその動作に、黒虎を駆るアルハリハが付け込む。
「我が槍は万物を貫く!」
蛇の鎌槍に刻まれた神代の文字が光り、その槍に紫電を纏わせる。使用者すら焼くその雷を槍に纏わせて、アルハリハは愛騎ジロウオウの腹を蹴る。
黒虎の疾走と合わさったその突進は、ナーサ姫の一撃によって傷を負わせた足を貫き、大鬼に膝を屈させることに成功する。
失くした片目すら憤怒の感情に染めて、膝を屈した大鬼にラーシュカが迫る。拳に纏わせた黒き輝き。首から下げた怒りの首輪が、ラーシュカの肌に容赦なく食い込み、その分だけラーシュカの筋肉が盛り上がっていく。
「我、暴の威風を纏う!」
黒き光を直接大鬼の頭に叩き込む。と同時に、黒き光がスラッシュの要領で、暴風の如き勢いで、大鬼の頭を吹き飛ばす。
その威力に俺は戦慄する。
俺には不発で終わったが、直撃すればまず間違いなく、俺の上半身を吹き飛ばしていたであろう。そんな一撃が大鬼の頭に直撃したのだ。
ゆっくりと頭を失った大鬼が倒れる。
「やっと1匹か」
呟いたラーシュカの声に、同意せざるを得ない。獣士ギ・ギーの捉えた敵の数は、分かる範囲だけで4匹はいた。
「大鬼が群れを成すことは通常ありませぬ。あるいは群れを率いる者がいるのかと」
イェロの声で不安は否が応にも高まる。
「巨大鬼か」
祭祀ギ・ザーの声に俺は頷いた。
大鬼とそれを率いる巨大鬼。群れの数は知れないが、かつてない強敵であることは確実だった。
◆◇◇
がさりと音を立てる目の前の獲物に、無造作とも思える剣を振るう。それだけで目の前の双頭駝鳥は真っ二つに切り裂かれて果てた。
「随分とたわいないな」
ガランドの依頼に応えて集まった冒険者の数は、10人を数えた。実際にはもっと多かったが、ガランド自身がその中から選抜して残ったメンバーが10名ほどだった。
有名どころでは飛燕の血盟のメンバーである金剛力のワイアード、破杖のベラン、魔術殺しのミール。他には鷹の眼のフィック、白き癒し手と呼ばれる年齢不詳の冒険者なども交じっていた。パーティーの構成メンバーの実に半数が二つ名持ちという豪華な顔ぶれ。
一線級の実力者ばかりを揃えたそのメンバーを見れば、難攻不落の魔窟でも攻略するのかと聞かれそうだが、実際にはたった一人の少女の捜索である。
世界各地に散っていた実力者がギルドの情報網を通じて一か所に集まるという脅威。それこそが冒険者が対他種族で圧倒的有利な面であった。
組織を作るというのは、人間の持つ技能のうちで最も脅威なことだった。少なくても、妖精族にもゴブリンにも、他の亜人達にもそのようなものは未だかつてなかった。
「右……距離3キロル。オークだな、数は3」
“鷹の眼”の二つ名を賜った狩猟者のフィックがそう告げると、二人の戦士が前に出て探索を開始し出す。
「オークよりも噂の聖女様を探せよ。フィック」
旧知の冒険者が軽口を言うと、フィックも応じて苦笑した。
「眠れるお姫様は森の奥にいるものさ。大抵の物語じゃそうだろう?」
その例えに、ほぼ全員が苦笑する。
「まぁ、オークが集めた宝でも楽しみにするか」
軽口を言うガランドの言葉に、ほぼ全員が頷いて歩き出す。モンスターの跋扈する森の厳しさを彼らは知っている。一流と言われる彼らだからこそ、過去には先達を失い、朋友を失い、後に続くべき者を失ったことが誰しもあるのだ。
聖女の生存を半ば諦めているガランドは、モンスターを狩ることの方に集中していた。最近窮屈な聖騎士の仕事ばかりでイライラしていた。久々に暴れられるのだ。
聖女などは、そのオマケに過ぎない。亡骸でも持って帰れば充分だろうという考えでいるからこそ、狩りを楽しむ余裕も生まれるというものだ。
「聖女の捜索はしないのか?」
先ほどのガランドの言葉に、問いかけたのは魔術殺しの二つ名を持つ女だった。
「飛燕の魔術殺し、ミール・ドラか」
噛んで含めるようなガランドの言葉。威圧感すら伴ったガランドの言葉に、ミールと呼ばれた女冒険者は無表情で応じる。
「俺はな、オークを狩ると言ったぞ」
「私が雇われたのは、聖女の救出のためだと聞いたぞ」
腕に嵌めた鉤爪をミールが擦り合わせる。切れ長の瞳を細め、まるで獲物を狙う猛禽類を連想させる。細く吐き出す息が既に彼女が臨戦態勢を整えたことを伝えていた。
「前金は払っているはずだがな」
「目的が違うと言っている」
背に負った大剣にガランドが手をかける。
「まぁ、どちらも剣を納めろ」
金剛力のワイアードが場を納めるべく、その中に割って入る。大盾を背負ったワイアードの巨躯が二人の間に軽やかに滑りこむ。ニコニコと笑顔を振りまきながらミールに話しかけた。
「ミール。別にガランドだって聖女を追わないと言ってるわけじゃない。森の中で行方を絶った人間を探すんなら、モンスターを疑うのが至極当然だ」
ゴブリンやオーク。或いは大蜘蛛。人間を食い殺すモンスターは森の中に溢れている。
「まずはそこから当たってみるのが確率的に一番高い。それはお前も分かっているだろう?」
ふん、と鼻を鳴らしただけでミールはワイアードに背を向ける。
「ガランド。お前さんも大人げないぞ。依頼主なんだからもう少し、大人にならにゃ」
「先輩風を吹かすんじゃねぇよ」
大剣の柄から手を離しガランドは先へ進む。
二人の様子を眺めながらワイアードは苦笑した。
◆◆◇
400人という大軍で森へ分け入った鉄腕のゴーウェンは、森の木々を切り倒し、足場を踏み固め森を切り開いて道を作っていた。
獣道のような小さな道を大きな道へ改修し、人が通れる幅にまで広げる。
聖女奪還という任務を利用して、ゴーウェンは己の領地の繁栄を企図していた。森から採れる様々な資源は更なる富を己が領地に齎すだろう。
暗黒の森に隣接している領地であり、危険と隣合わせだからこそ得られる富があるのだ。それを効率よく安全に獲るために、人間の領域を広げる必要がある。
暗い森に光を。
モンスターを駆逐し、人間の世界を作り上げる。
大いなる野望と共に鉄腕ゴーウェンは時間はかかっても森を攻略する道を歩んでいた。
「領主さま。この先40メリル(メートル)の位置にコボルトらしきモンスターがいます」
「作業を邪魔するようなら排除する。コボルトは他のモンスターを呼び寄せるからな……気を付けろ」
「はっ!」
若い兵士の返事に頷くと、ゴーウェンは怜悧な瞳で暗き森の奥を見通していた。
◇◇◆◆◇◆◇◇
【個体名】ゴーウェン・ラニード
【種族】人間
【レベル】90
【職業】聖騎士・鉄腕の騎士・領主
【保有スキル】《斧技B+》《剣技B+》《槍技A-》《弓技B+》《統率A-》《錬磨無尽》《歴戦の騎士》《千鬼殺し》《父なる神の恩寵》《武神の探求者》《武錬の結界》
【加護】なし
【属性】なし
【個体名】ガランド・リフェニン
【種族】人間
【レベル】88
【職業】聖騎士・嵐の騎士・踏破する者
【保有スキル】《剛腕》《剣技A-》《カリスマ》《魔窟の探索者》《狂乱の剣》《狂戦士の魂》《吼え猛る強欲》《百鬼討伐》《火神の守護》《反骨》
【加護】火神
【属性】炎
【装備】青雷の大剣
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