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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
79/371

侵入者たちⅠ

【種族】ゴブリン

【レベル】15

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)





 轟々と吹きあがる風が、その暗い穴の中から吹いていた。

 闇に耐性のあるゴブリンの視力で持っても見通すことができない真正の闇。そこから噴き上がる風は黒い闇を纏っているようだ。

 遥かな母の胎内へと戻るように、暗く細い隧道ずいどう。触れる岩壁は生温かく、噴き上げる風に温度を与えているようだった。

「ここが深淵の砦に通じる道か」

 確かめるように口に出す俺を、祭祀(ドルイド)ギ・ザーが揶揄する。

「臆したか? 王よ」

 疑ってもいないような口調に、俺は口の端を歪めた。

「胸が躍るな」

 茫漠とした記憶の彼方。成人すらしていない頃の曖昧な思い出の中で、俺は闇を見て胸を躍らせていた気がする。台風が来る夜。降りしきり家々の窓を叩きつける雨の音。いつもとは違う何かが起こるのではないかと、俺の常識を打ち破る何かが起こってくれるのではないかと期待した。

 震えるような恐怖と、だがそれを見定めたいと勇躍する気持ちの狭間。これを表現するのに、これ以上の言葉はあるだろうか。

「胸が躍るか。流石は我らが王だ」

 ギ・ザーの言葉に、他のゴブリン達が頷く。

「油断はなさいますな」

 言葉の発せられないクザンに代わり、俺に意志を伝えるイェロ。

「大鬼は数が少ないが、それだけに強力だ」

 忌々しいとばかりに表情を歪めるのは、4氏族で最も強猛なガイドガ氏族を率いる族長のラーシュカ。

「消極ばかりでは埒も明かないだろう」

 獣の鳴き声と共に言葉を発するのは、黒虎を駆るアルハリハ。

「好戦的な年寄りよりは、マシだ」

「長く生きるためにも力がいる。儂にはそれがあっただけのこと」

 苦り切った表情のラーシュカと受け流すアルハリハのやり取り。

「いずれにせよ、厳しい戦いになるでしょうな」

 それを遮って声を出したのは、弓を扱うゴブリンの氏族であるガンラのナーサ姫。

「族長の御身は必ず私が」

「過保護だな」

 ナーサを守ると誓うのは、初めに射る者(ガディエータ)の尊称を受け継ぐギルミ。それに呆れた声をかけたのは、俺の手下であるギ・ゴー・アマツキ。

 剣神の加護を受けた曲刀使いのゴブリンは、冷徹な視線をギルミとナーサに注いでいる。

「王、いク。問題なイ」

 隠密のギ・ジーの言葉に俺は頷いた。

「けド、こいツ、怯えテる」

 双頭駝鳥(ダブルヘッド)の頭を撫でながら、獣士ギ・ギーが不安そうな声をあげる。

「では、行くか。氏族のものは俺の後方からついてこい」

 獣士ギ・ギーは隠密ギ・ジーと共に先行し、呪術師ギ・ザーはいつものように俺の傍らにある。最後尾を守るのは、剣神の加護を受けたギ・ゴー・アマツキ。鋭い視線を周囲に飛ばしながら、その手は常に剣の柄に置かれていた。

 逐一指示を出さなくても、俺が行くと言えばギの集落出身のゴブリンは各々所定の配置につく。自分のやるべきことが分かっているのだ。

 俺が指示を出しながらでは、即座の戦闘に対応しきれない。自身の力が最も発揮できる場所へ自然と固まっていく。

 知識ではなく、経験から生み出された結論に従って俺たちは暗い穴の中へ足を踏み出していく。他の者は地上にある深淵の砦の警戒だ。

 最前線は勿論俺の居る場所だが、決して後方を疎かにしてはいけない。大鬼を追い出すことができたとして、奴らが地上に這い出さないとは限らないのだ。

 そして戦力を集中し過ぎて、無防備になった集落を強襲でもされたら目も当てられない。せめて奴らを足止めする必要がある。

 そこで統率に優れたギ・グー・ベルベナには地上に残るゴブリン達を率いてもらって、深淵の砦の監視に当たってもらうことにしている。

 騎獣を操るパラドゥアゴブリンの若き族長ハールーには、その為の補佐についてもらう。一応の態勢を整えて俺は精鋭を持って深淵の砦に向かった。


◆◇◇


 20分も歩いただろうか。俺の腕をクザンが引いた。

「もうすぐ到着します」

 クザンに変わってイェロが言葉を発する。

 今までの道で特に敵が出てきたということはない。緩いスロープ状になった坂道を降りてきただけだった。だが、視界が利かないというのはやはり不便なものだった。

 目の前に薄らと光る四角い光彩が見えてくる。

「あれが入り口か」

 真なる闇に浮かぶその四角い光を目指して俺たちは進む。光の中に出たところで先頭を進むギ・ギーとギ・ジーが息を呑む気配が伝わってきた。

 四角い光と思われたのは、砦の内部に通じる通路の入り口。そこを潜れば、その周囲は今までの狭い空間とは全くの別物だった。

 黒色の岩肌は滑らかな光沢を放ち、壁際に立ち並ぶ宝石か何かのように磨き上げられた彫像は、冥府の女神(アルテーシア)の神殿で見たものを彷彿とさせる。

 天井は遥かに高く、その回廊の道幅はゴブリンが10匹並んでもまだ余裕がある程に広い。

「まさに、王の城だ」

 どこか興奮したようなギ・ザーの声が回廊に響く。

 確かに見事なものだった。

「さて、大鬼(オーガ)どもはどこにいる?」

 肩に担いだ鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)の柄を握りなおして、俺はクザンに問いかける。

 きょろきょろと左右を見渡していた小さきクザンは、右方向を指さして回答を示した。

「ギ・ザー、魔法は大丈夫だな?」

 その声に全員がギ・ザーの方を見る。深淵の砦の中では、4つの宝具をそろえた者以外枷を受ける。スキルの使用ができなくなるというものだ。

 祭祀(ドルイド)であるギ・ザーのスキルといえば、魔力操作による風の操作だ。実際に今まで四宝を揃えた者がいない以上、その効果範囲というものを過信はできない。

 戦いが始まる前に、どの程度離れても効果が発揮されるのか調べるのは必須といえた。

「問題はないようだが」

 手首を回すと、一節詠唱する。

風鳥の鎌が啼く(スラッシュ)

 地面を削る風の刃が、切片を撒き散らして消えた。

「なるほど」

 俺も【スキル】《赤蛇の眼》を発動してみる。

 祭祀(ドルイド)であるギ・ザーのステータスを見ようとしたが、やはり無理だった。ただその感覚はいつもとなんら変わるものではない。

 問題ないと判断していいだろう。

「では、行くか」

 頷く全員を引き連れて俺は歩み出した。


◆◇◇


「これから森へ入るわけだが」

 鉄腕の騎士の名で呼ばれる主の声に、集められた兵士たちは一様に背筋を伸ばした。いずれも近隣の村から集められた二男や三男の子供らだ。鉄腕の騎士であるゴーウェン・ラニードの領内では農民の子供らを幼少の頃から集め、彼の私兵とするために英才教育を施している。

 今回森の征伐に参加するのもそんな若い一団だ。数は400を数える。補給を兼ねた人数も合わせた数ではある。ただしその全員が戦える人間ではあるのだが。

「何か質問はあるか?」

 白に近い銀の髪は一片の乱れもなく撫で付けられ、整えられた口髭が僅かに動いて言葉を紡ぐ。その完璧に整えられた容姿はとてもこれから暗黒の森に入る者の格好とは思えない。

 或いは、これから王が主催する晩餐会に参加すると言われても、彼の周囲にいる兵士たちは納得してしまうだろう。

「ないようなら出発だ」

 温度を感じさせない視線が射るような視線を向けるのは、未だ人の領域にはない区域。

 聖騎士最古参の名に相応しく、堂々と鉄腕のゴーウェンは森へと入った。

 森へ入るルートは幾つかある。

 一つ目は既に敷かれた森への街道を使う方法。幾ら人の領域の外であるとは言っても、森には富がある。森の恵みである食料であったり、薬草であったり、あるいはモンスターから獲れる狩猟品であったりと、その種類は多岐に渡る。

 その富を求めて、人間は危険を冒してでも森へ入るのだ。その人間達が使う道がいつの間にか地面が踏み固められ、枝や邪魔な木々が避けられ道として一応の形を保っている。そういったものが森に隣接するゴーウェンの領内に幾つかある。

 二つ目は、未踏のルートを歩む方法。

 こちらは一つ目に比べると乱暴だが、要は好き勝手に道を作るのだ。

 森には結界が張ってあるわけでも、毒が渦巻いているわけでもない。ただ自然の木々が密生して生えているだけなのだ。故に、入ろうと思えばどこからでも入れるのである。

 また、広大な森の中を探すのに態々遠い道を利用するよりもこちらを取る方が効率が良い。

 三つ目は、妖精族の力を使う方法。

 森の民である妖精族などは独自の森への入り方がある。“妖精の小道”と呼ばれる異空間を形成することにより、森の中へ一挙に進む方法だ。ただしこれは、開いた妖精自身も思わぬところへ飛ぶ可能性があるうえに、出口と入口での意志疎通が必要になってくる。

 何より人間の使える手段ではない。

 鉄腕のゴーウェンは、手堅く1つ目を。

 嵐の騎士ガランドは冒険者の気質からか2つ目を。

 幸運にも妖精族の奴隷を得ることができたジェネは、3つ目を取った。


◆◇◇


「ふむ、これは中々……壮観かな?」

 長い髪を弄び、手は細剣の柄に置きながら、ジェネはその整った顔の口元を歪めた。目の前には武装した獣人達の群れ。

 手にした槍を肩に担いだ人馬ケンタウロス。あるいは、背中から蜘蛛の足を生やした亜人である蜘蛛人(アラクネ)、牙をむき出しに唸る人狼ウェアウルフ、そのただ中に妖精の小道を通過したジェネ達は辿りついていた。

 周囲を見渡して、ジェネは一人納得する。

 ここは獣人の村か何かだったのだろう。

「ジェネ様」

 奴隷戦士の一人である姉弟が不安そうな声を上げる。

「なに、獣人を狩れる機会などそうはない。その幸運を喜ぼうじゃないか」

 妖精族のエルフならともかく、人間族である二人の奴隷戦士にとって獣人に包囲されているというのは少しも嬉しいことではない。例え主人が気に入らなくても、それは命あっての物種だ。

 戦うしかないと覚悟を固める奴隷戦士とは裏腹に、セレナは獣人の村に妖精の小道を繋いでしまったことを喜んでいた。もしかしたら助かるかもしれない。

 そんな希望とも言えないものが彼女の心を占めているのだ。

 妖精族と獣人は比較的仲が良い。少なくても人間に対するよりはずっと。セレナを買い取った主人であるジェネがいくら聖騎士とは言っても、これだけの数を相手には出来ないだろう。

 交渉のようなものが行われるなら、そこで自分が仲介をして解放されるかもしれない。

 期待を込めて成り行きを見守る彼女の前で、口を開いたのは人馬ケンタウロスの男だった。

「何をしに来た人間」

 若く引き締まった肉体に、堂々と槍を突き付けるその姿は雄々しい戦士を想像させる。

「なに、単なる事故というものだ。この娘の力を使ったのだがね。運悪く目的地とは別のところに来てしまったというだけさ」

 首輪に附けられた鎖を引っ張られ、セレナは軽く呻いた。

「妖精族を奴隷にしているのか!?」

 半分に切られた長い耳を見て、驚愕にケンタウロスの男が目を見開き、すぐに怒髪天を衝くが如くに怒りを露わにする。

「我ら森の民に対する侮辱だ! 今すぐ解放せよ!」

「これは僕がお金を出して手に入れた奴隷だ。欲しければ対価を払いなよ」

 くすり、と微笑む様子は妖艶ですらある。目元に漂う気配は剣呑さが増している。そればかりでなく、口元は皮肉気に歪められており、その口から赤い舌が唇をゆっくりと舐めていた。

「ふざけるな!」

「交渉の余地なし、か」

 猛り声を上げてケンタウロスが突進してくる。双頭駝鳥(ダブルヘッド)すら跳ね飛ばすその突進は、ジェネの体を吹き飛ばすのに十分な威力を秘めていた。

 その様子に、悠然とジェネは愛剣をスラリと抜くと。

雷よりも迅きもの(フィフィーレ)

 愛しむようにその名を口にした。

 砂煙と共に猛然と突進をしていたケンタウロスが崩れ落ちて、ジェネ以外の全員の眼が驚愕に見開かれる。

「自己紹介がまだだったね。僕は雷迅の騎士。ジェネ・マーロン……君達の上位者たる人間だ」

 にんまりと笑みを浮かべるジェネの顔は、恍惚に満たされていた。

 ジェネが言葉を重ねるごとに、セレナの胸に宿った希望は絶望に塗り替えられていく。

 その日、暗黒の森にあった無数の獣人の村の一つが壊滅した。


◇◇◇◇◆◆◆◆


【個体名】ジェネ・マーロン

【種族】人間

【レベル】87

【職業】聖騎士・雷迅の騎士

【保有スキル】《魔力操作》《細剣A+》《天賦の才》《蛇の魔眼》《百鬼討伐》《火神の恩寵》《雷神の恩寵》《孤軍奮闘》《一刺必殺》《殺しの悦楽》

【加護】火神、雷神

【属性】火、雷

【装備】雷よりも迅きもの(フィフィーレ)

【従属】奴隷セレナ、奴隷戦士シュメア、ヨーシュを所持。



◇◇◇◇◆◆◆◆


設定のお話


武器について。

大きく分けて4段階あります。


とりあえず数をそろえようと思ったなら、錬金級

少し良い物を選ぼうと思えば、名刀級

精霊の恩寵・加護あります、古代級

神様作りました、神代級


名刀級までなら魔法の力とかは必要ありません。

古代級からは作り方が複雑になり、精霊さん達から力を貸してもらいやすいように、精霊文字・神代文字(スペル)を刻む。もっと強力で直接的に力を吸い上げるため、精霊or神様を閉じ込める。

後は長年使ってるうちに自然と精霊or神様が憑りつくなんてのもあります。


ジェネさんの使っているフィフィーレについては古代級です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 君達の上位者たる人間だに何故か震えた どこかこの物語の人間に望んでいた台詞だったので見て興奮しました
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