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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
73/371

初めての敗北

【種族】ゴブリン

【レベル】10

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)




 ラーシュカの放った衝撃波と王の振り下ろした大剣が衝突した瞬間、激しい震動と共に大地が揺れる。隣で魔獣に跨ったアルハリハが、唸り声をあげて王の居ない間その群れをまとめるギ・グー・ベルべナに問いかける。

「助けに入らなくて良いのか? ラーシュカは強い」

 その視線を受けてもギ・グーは身じろぎもしなかった。

「王のなされることだ。我らは従う。もし、お前が王のなされることを邪魔するのなら、俺は全力をもってそれを阻止する。例えそれが王の命を救うためでもだ」

 腕を組んで、眼下で戦う王と敵の大将を見比べる。

「王は勝たれる。今までもそうだった。これからもそうあるべきなのだ」

 瞳に燃えるような意志の色を浮かべ、ギ・グー・ベルベナは噛みしめた歯をさらに食いしばり、組んだ腕に力を込めた。

 自身が動き出したいのを、必死に堪えているのだ。

「うむ……」

 そんな古参の部下の姿を見れば、自分だけが逸って王を助けに行くわけにも行かない。もどかしい気持ちを押し殺しながら、アルハリハは王とラーシュカの決闘を見守った。

 忌々しく鳴く凶鳥(スキューラ)がその様子を見つめていた。


◆◇◆


 衝撃波に大剣を叩きつける。近くで文字通り爆発した余波が土ぼこりを巻き上げる。大剣を一薙ぎ、相手を隠す土煙を払うと同時に突進。

 追加される衝撃波がさらに俺を襲う。そのたびに大剣を合わせることによってその衝撃波を叩き潰す。

「むぅっ!?」

 僅かに漏れたラーシュカの苦悶の声。己の誇る魔法が通用しないと分かってのものだろう。

 俺に遠距離攻撃は出来ない。ならばどこまでもこの攻撃を掻い潜って接近戦を挑むしかない。恐らく接近戦でもその実力はかなり僅差。しかも負けていると考えなければならない。

 だが、離れてしまえば衝撃波を飛ばされ追い詰められていくだけだ。

 叩きつけた大剣ごと吹き飛ばそうとする爆風に耐えて、前に出る。

「笑止」

 叩き潰すような一撃が振り下ろされる。確かに、力も速さもラーシュカの方が上だ。

 だが──。

我が命は砂塵の如く(アクセル)!」

 【スキル】《王者の心得Ⅱ》で上昇した魔力をフルに使っての最大加速。背中で爆発する魔素を受けて衝撃で吹き飛ばされるように加速する。一気に加速してからすぐさま一気に魔素を抑える。

 音と視界が戻った時俺の眼の前には、棍棒を振りかぶるラーシュカの姿があった。

「くっ!」

我が身は刃に為りゆく(エンチャント)!」

 ──間に合うっ!

 横に寝かせるようにしていた大剣を、そのまま振り下ろしてくる棍棒に合わせる。エンチャントした武器同士がぶつかり、黒い火花が散る。弾けたのは同時、そして態勢を立て直すのは僅かに相手が速い──!?

 両手で弾かれた俺の大剣と片手で振り下ろした奴の棍棒。同じ威力でぶつかり合ったなら、衝撃が小さいのはもちろん向こうだ。棍棒の間合いを外すべく、弾かれる力に逆らわず僅かに距離を取る。弾かれた力を徐々に押し殺し、間合いを切ったところですぐさま構えなおす。

 俺の眼の前を黒い衝撃が上から下へと振り下ろされる。大地を穿つ一撃が、地面に爆風を巻き起こした。一瞬だけ、視線が合う。

 振り下ろした奴の腕目掛け、俺は大剣を叩きつける。同時に敵の持っていた片方の棍棒が俺の大剣と衝突。またも弾かれる。

 ──くそ、どういう腕力だ!?

 《王者の心得Ⅱ》を使ってもまだ相手の腕力が上を行く。ことごとく接近戦で上を行かれるうえに、遠距離からの攻撃もできるとなれば、こと戦闘において俺の勝ち目はほとんどないのではないだろうか。だがそれでも負けるわけにはいかない。

 何かないか? 何か奴を倒せるものは!?

 手持ちのスキルを確認するが、《狂戦士の魂》《死線に踊る》の二つのスキルを使うしかないのか。だがこの二つとも、賭けの要素が大きすぎる。

 目の前のゴブリンを殺さずに、俺の下に跪かせたい。

 それが俺の目的だ。

 ガンラの氏族のものが何か言うかもしれないが、俺はこいつの力が欲しいと思っている。

 気を抜いていたわけではない。だが一瞬の気の緩みはあったのかもしれない。大剣の届かないぎりぎりの距離から、ラーシュカの体が一瞬の硬直。

 ──まずい!

 エンチャントをした大剣を衝撃波が来るであろうと思われる軌道上に、勘に任せて振り払う。

我は吼え猛る(スラッシュ)!」

我は刃に為りゆく(エンチャント)!」

 爆発と共に相殺する衝撃波を掻い潜り、再び奴と対峙する。

 爆発の余波で弾かれる刃を見て、俺の脳裏に知恵の女神(ヘラ)の囁きが走った。理論上は可能だが、果たして出来るのか。アクセルを習得するのにさえかなりの時間がかかってしまったのだ。

 ──ゆっくり試している暇はないっ!

 だが俺のそんな思考を遮断するように、奴の棍棒が縦横無尽に俺に襲いかかる。上から下への一撃。左右からの挟撃。更には突きすら交えてくる。その一撃一撃を、上昇した筋力と魔力でなんとか弾き返しているのだ。

 繰り出される突きを弾くと、俺はわざと距離を取る。


◇◇◆


 俺の両腕から繰り出される攻撃によく耐える。

 氏族の中でもこれほどの攻防を可能にするのは、他に居ないであろう。類を見ない剣捌き、そして判断力に、なんといってもその勇気だ。最初の一撃こそ棍棒を叩き折られるという不意打ちをもらってしまったが、そのあとの戦いで目の前のゴブリンの力は見切れている。

 力も、技も、俺の方が強く早い!

 遠距離攻撃もどうやらできないようだ。

 ならば──。

 俺の負ける要素はないっ!

 下から掬い上げるような一撃を打ち降ろす一撃でねじ伏せる。すれ違う剣先が僅かに頬に触れた。流れ出る熱い血が、これ以上なく俺を昂らせてくれる。

 目の前のゴブリンを倒し王を名乗ろう。それに相応しい相手だ。

 俺の横を通り過ぎた灰色のゴブリンが再び掬い上げるような一撃を放つ。

 二度も同じ技が通じると思うな! その慢心は死に値するぞ。

我は暴の威風を纏う(ラ・ギリオン)!」

 棍棒に纏わせた黒光が、周囲の空気を収縮させていく。膨れ上がった黒い光を迫ってくる剣に合わせた。この一撃で大剣諸共、目の前の敵を葬り去る。

 俺の持っている中で、最も破壊力の大きな技だ。

 冥土の土産に持って行け!

我が命は砂塵が如く(アクセル)!」

 今さら逃げられん!

 貴様の速さはすでに見切っている。

 ぶつかる衝撃に、俺は口に笑みを浮かべ──。

 突如加速した大剣に、ラ・ギリオンを爆発させるタイミングを逸した。

 奴の剣速は見切ったはずだった。それなのに、なぜ今いきなりの加速をする!? 驚愕に、思わず弾き飛ばされた棍棒を眼が追っていた。

 そして気付いた時には、目の前のゴブリンの姿がかき消えていた。

 ──不覚っ!

 腕に感じた衝撃と共にもう片方の棍棒も飛ばされたのに気づいた時には、ラ・ギリオンの爆発が背後で起き、その衝撃に膝をついてしまう。

「くっ」

 咄嗟に視線を上げた先には、俺に剣を突き付けるゴブリンの姿があった。


◇◆◆


 自身の身を加速することができるなら、剣のみを加速させることもまた可能ではないか。理論的には可能なのだ。アクセル自体が魔素を後ろで爆発させて加速の推進力を得る魔法なのだから、それを刃に纏わせた剣ですればいいだけである。

 ラーシュカの一撃を弾き飛ばし、返す刀の一撃でもう片方の棍棒を弾き飛ばす。その直後、ラーシュカの後方で爆発が巻き起こる。

 我ながら上手くいきすぎた二撃は、俺の前にラーシュカの首を差し出させた。

「くっ」

 俺を見上げる巨躯のゴブリン。恐らく今まで戦った中でも五指に入る実力者を俺はどうするか考えていた。どう口説けばコイツは俺の配下になる?

 一つ下手な演説でも打ってみるかとも考えたが、好戦的な意志を未だ瞳に宿らせる目の前のゴブリンにはあまり効果がなさそうだ。

 剣を交えた印象だが、このゴブリンの攻撃は確かに強烈ではあったが悪辣ではなかった。下手な小細工などはせず、堂々と俺に打ちかかる様子は意外と根が素直で真面目なのではないだろうかと想像をさせた。

「お前の負けだな」

 悔しさに下を向くラーシュカ。敗北を悟っても決して死を恐れている風はない。その悔しさにその身を震わせているだけだ。

 だがアルハリハのように素直に敗北を受け入れるだけの度量はないのだろう。或いは初めての敗北に戸惑っているのか。事前にラーシュカに関する情報を聞いた限り、このゴブリンは敗北というものをしたことがないらしい。

「お前とその部族を我が傘下に加える!」

 端的に言う俺に、ラーシュカを初めとするガイドガゴブリン達が瞠目する。だがそれは、周囲で見守るガンラ、パラドゥア氏族も同様だった。ガンラは戸惑いを、パラドゥアは新たな主の懐の深さにそれぞれ目を見張った。

「敗者は勝者に従うものだ。何か言うことがあるか?」

 半ば呆然と俺を見上げるラーシュカに言葉をかけた。

「俺がお前を裏切るとは思わないのか?」

 その言葉に苦笑する。アルハリハといい、なぜわざわざ裏切る者が事前に確認をしてくるのだろう。心にもない台詞を吐くのは4氏族の族長の伝統だとでもいうのか。

「俺に勝てる自信があるのなら、いつでもかかってくるがいい」

 初めて味わう敗北は、自身で考えているよりも重いものだ。それも格下と侮っていた氏族以外のゴブリンに対しての1対1での敗北。その衝撃が冷めやらぬうちに、俺はラーシュカの心に楔を打ち込んでおく。

 自分自身に対する疑問と不安を煽り、心の余裕を失わせる。反抗するよりも先に、今の敗北を思い出すだろう。そうしてラーシュカは反抗しようと思うたび思い出すはずだ。

 ──今の俺なら奴に勝てるだろうか、と。

 初めての敗北に慣れ始めたころ、俺と奴の力の差がどうなっているか、それはわからない。或いは俺の力が弱体化しているかもしれないが、俺はこんな小さな所で収まるつもりはない。

 求めるのは世界の果てだ。

 もっと強く、より巨大にならねばならない。

 ならば何の問題もない。

 世界を求めて走る俺と、自身を越えようと走るラーシュカ。どちらがより強くなるのか、試してみるのも一興じゃないか。

 それに、挑んで来る者に応えるのは王の責務だとも思っている。

「……分かった。ひとまず、お前に降ろう」

 ひとまずか。

 その言葉に俺は苦笑を深くした。負けず嫌いもここまでくれば立派なものだ。

 駆け寄ってくる部下達の姿に、さてガンラをどうやって説得するかと考えていた。


◆◆◆◆◇◇◇◇


レベルが上がります。


10→15


◆◆◆◆◇◇◇◇


さて、負けず嫌いなラーシュカ、人材を欲する主人公、納得するのかギルミの3人が次回の肝になります。


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