加護持つ者たち
更新が遅れて申し訳ありません。急な仕事が舞い込みました。
次回の更新も定期通りにはいかないかも……。
なるべく早く更新できるようにしたいと思います。
【種族】ゴブリン
【レベル】10
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)
「ミーシュカの子ラーシュカが受けて立つ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全力で地を蹴った。鋼鉄の大剣には既に、黒の炎を纏わせてある。緩やかな下り坂を一気に駆け下り、振りあげた大剣を、慣性のまま一気に振り下ろす。全体重を乗せた一撃が、ラーシュカの掲げた棍棒に叩きつけられる。
だが敵も心得があったらしい。その殆どの力を受け流す為に後ろに飛ぶ。おかげで先制の一撃は入れ損ねてしまった。
間髪をいれずに追撃。振り下ろした大剣を【スキル】《剣技B+》の発動で持って補いながら、下から斬り上げる。もし人間の体で同じことをすれば、確実に腕が折れるであろうと思わせる動き。不可能を可能にする【スキル】のおかげで、俺の大剣は有り得ない動きをする。
振り下ろした大剣が一気に急上昇。未だ衝撃に痺れているであろうラーシュカの棍棒めがけて、襲いかかる。バランスを崩さないように即座の体重移動。これも【スキル】《剣技B+》の補正があるのだろう。スムーズに出る足は、剣を振るのに最適かつ最短ルートで俺の体を運ぶ。
ガツン、という衝撃と共にラーシュカの棍棒を叩き斬る。
武器を失ったかと思えたラーシュカは、だが不敵に笑った。
「我、力の道を求む!」
俺の一撃で二つに分かれた棍棒が、奴の手の中で黒い光を放つ。長く伸びたそれは、棍棒を媒体として伸びる黒い棍棒だった。伸びた黒い棍棒が、質量を持って俺の大剣を弾く。
「オオォゥゥオォォオ!」
ラーシュカの両手にある棍棒が、俺に襲いかかってくる。首を薙ぐ一撃を姿勢を低くして回避。胴を突きにきた一撃を大剣を盾にして防ぎ止める。
瞬く間に攻守が入れ替わる。
先ほどまで攻めていた俺は、今は奴の棍棒を避けるのに精一杯だった。
更に悪いのは、俺の下がる足場がゆるい上り坂だったということだ。相手の攻撃を避けながら徐々に上にあがっていくというのは、足元を狙われる危険がある。俺の知識の中では、足元の攻撃を避けるのは非常に難しい。そもそも、俺の知っている剣術というものは立っている相手に対して行うものなのだ。
一撃を加えられるたびに大剣でなんとか防ぎとめるが、それも長くは続かない。俺の意識が足元に行っていることに気がついたのだろう。ラーシュカの攻撃方法が微妙に変わる。
足元を執拗に狙ってくるのだ。分かってはいても意識をそちらに持っていかれる。ときどき思い出したように胴体を狙い、頭を狙う。
後ろに下がればその分だけ押し出してくるラーシュカの攻撃は、徐々に俺の意識を追い詰めていく。絡め取られる意識の隙間。
眼が段々とラーシュカの攻撃に慣れた頃を見計らって、見事と言うしかない一撃が俺の胴体を襲う。
「我が身は不可侵にて!」
刃に纏わせていた魔素を解除。同時に体の周りに展開する。
ぎりぎり間に合ったその防御に、なおラーシュカの追撃は緩まない。棍棒を自在に操るその妙技、体術の心得でもあるのかと思わざるをえない。一撃一撃に体重を乗せた猛攻が俺に襲いかかってくる。
【スキル】《直感》を発動して回避力を上げても更に上を行くのがラーシュカの攻撃だった。強く速い。ただ単純にそれだけの攻撃だが、突き抜けたその強さは他を圧する。
振るっているのは頭をも使う獣だ。
猛獣と比肩しても遜色のないであろうゴブリンの、更に強猛を持って成るガイドガゴブリン。その中で族長の地位にあるのだ。
ゴブリンの中では1,2を争う戦闘力を誇っていると考えて間違いない。
大剣を防御に回し、体に展開したシールドの魔素をそのままに防ぐことに徹する。でなければ即座に致命傷を負いかねない攻撃の嵐だった。
徐々に坂道を押し上げられ、細かな傷が出来ていく。
正直、これほどとは思っていなかった。
灰色狼。オークキングであったゴル・ゴル。いずれも強敵であったが、それらに引けを取らない強さがある。
──ジリ貧かっ!
このまま押し込まれていっても埒が明かない。そう判断した俺は、一気に距離を取るべく、後ろに飛び退く。
だが、それを簡単に許すほど敵も甘くない。
追撃を覚悟して、その為の行動パターンも考えていたがラーシュカはその場から動かなかった。なぜと思う間もなく、ラーシュカの握る棍棒の黒い魔素が一層力を増す。
──まずい!
背中を貫く嫌な予感に突き動かされて、シールドに回していた魔素を解除。同時に、アクセルに移ると横に飛ぶ。
「我が命は砂塵の如く」
方向だけを決めて空気を突き破るほどの加速。
その横を黒い衝撃が走り抜けていった。
──なんだ今のは!?
「我は、吼え猛る!」
驚愕する俺の横を更に一撃。
走り抜ける衝撃を、俺はアクセルで加速することで逃れた。
黒い衝撃波が質量を伴って大地を穿つ。一瞬の溜めから、地を抉るほどの一撃を繰り出したのだ。それも見間違えでなければ、奴は棍棒に纏わせていた黒い光をそのまま振り抜いて俺にぶつけようとしていた。
魔素の扱いにおいては俺を遥かに上回るだろう。
厄介なのは、あれが近接戦でも打てるところだろうか。放つ直前の僅かな硬直時間さえ凌ぎ切れば、あれは避ける術もなく俺を襲う。
にやりと、ラーシュカの口元が笑うのが見えた。
──なるほど、やってくれるじゃないか!
余裕のつもりなのだろう。近づけばその圧倒的な近接攻撃に、離れれば先ほどの衝撃波によって俺を追い詰める腹だ。手強い。だが俺は負けるわけにはいかない。
ギ・ガーの姿を思い出す。
健気に俺のために力を尽くす者がいる。人間だとか、化け物だとか、そんなことはこの際重要ではない。俺に未来を見た者がいるのだ。俺の目指す血濡れた道を共に歩もうとする者がいる。
振り返れば、俺に従うゴブリン達の姿がある。
負けるわけにはいかない。
【スキル】《王者の心得Ⅱ》を発動させる。
今まで意識して抑えてきた諸刃の剣だ。魔力と攻撃力を上昇させると同時に、自らが負うダメージが増えるという代物。なるべくなら使いたくはなかった。ラーシュカを下しても、残る4氏族の一角であるゴルドバのクザンが控えているのだ。
クザンがどのような動きをするかわからないなか、戦闘不能などという事態は最悪のことだ。
だがこの強敵相手に出し惜しみしては俺が負ける。
同時に《青蛇の眼》を使って敵の弱点を探る。眼、心臓、頭、足……断片的な情報から弱点を拾い上げる。間断なく打ち込まれるスラッシュをギリギリのところで避けながら、相手の弱点を考えるのは精神的にかなり疲れる作業だ。
余り疲れてしまっては、他のスキルなどは使えない。特に《狂戦士の魂》などは俺の精神状態に多大な負荷をかけて扱うものだ。それに相応しい能力を引き出してはくれるが、一歩間違えば俺は肉体よりも精神を先にやられることになる。
それは敗北以外の何物でもない。
魔素を刃に集中させる。4氏族のゴブリン達よ。俺はお前達に相応しい主か、とくと見定めよ。
「グルゥウゥウアァァ!」
吼える声が大地を震わせる。
「我は、吼え猛る!」
迫りくる衝撃波に、大剣を合わせる。
「我は刃に為りゆく!」
猛然と衝撃波に向かって突き進むと、エンチャントを加えた大剣を衝撃波に叩きつけた。