血祭り
【種族】ゴブリン
【レベル】14
【階級】ノーブル・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》 《反抗の意志》 《威圧の咆哮》 《剣技C−》 《強欲》 《彷徨う魂》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
△▽▲
一夜明けて、俺のステータスが変化していることに気がついた。
加護の冥府の女神、に思わず口元を歪める。
間違いなく昨日のことで付いた加護だ。
ふざけやがって。
人の心を、何だと思ってやがるのか。
それ以上考えることもわずらわしくなって俺は、外に出る。
老ゴブリンの話によれば、【加護】というのは、自身ではどうしようもなく神の意志で決定されるらしい。くそったれで、しかも暇な神様らしいという感想しかもたないが。
だが、と思考を切り替える。
冷静になれと、自分に命じる。醜い化け物なら、それらしく。有用なものは使って見せてみようじゃないか。沸騰する感情を、溶岩のように心の奥深くへ静めていく。そんなこともできないようなら、なぜ王を自称するのか。なぜ己が親かも知れない者をその手にかけたのか──。
【属性】に関しては、加護に付随するもので得意な魔法の使用形態を示すそうだ。
「魔法?」
まぁある程度予想はしていたが、実際にある、といわれるとどうしても苦笑してしまう。
「左様」 頷きとともにまじめに返される返答。老ゴブリンの説明によれば、なんでもドルイドという【階級】の者達が使えるらしいが、この集落にはいないらしい。
ないない尽くしに、今更驚きもしないが。
戦力でいえば、俺は気になっていたことを確認する。
「獣を操る者はいるか?」
「野生の犬を使役する程度でよろしければ」
何でもレベルによって使役できる動物の上限があがっていくそうだ。今この集落にいる者の中には、3匹の野犬を飼いならす程度で精一杯らしい。
まぁ多少マシな発見だろうか。これの質を高めていけば、トリプルボーアや、ダブルヘッドなども使役できるようになるのだろう。
だが、野犬3匹って、普通に飼ってるのと何が違うんだ?
心の中の突っ込みは口に出さず、頷いてだけおく。 集落の戦力として考えられるのはこの程度か、後は周辺状況の変化だが、それは偵察に出した元リーダーギ・グー次第だろう。
槍持ちのギ・ガー達に関しては、首尾よく狩猟を終えてダブルヘッド、ウサギ、蛇、後は果物なんかを首尾よく持ち帰ってきた。
やはり人数が多いからだろう、その成果はかなり大きい。
今回最大の獲物はダブルヘッドだ。まさかこんな大物を仕留めてくるとはかなりの予想外。
褒美として錆びた鉄槍を与えておく。
感激した様子のギ・ガーを適当にあしらって集落の中にいるもので食料を分け合った。
△▼△
オークの監視に出していたギ・グー達が戻ってきたのはその日の夕刻になってからだ。 食料を与えると貪り喰らう様子に満足しながら、俺はオークの様子を聞いた。
数は5匹の群れであり、昼夜に別れて活動しているらしい。
夜に3匹、昼に2匹。
さらにその行動ルートまでも調べてきたというから、俺は少し驚いた。
なかなか頭が回る。
ダブルヘッドの一番良い肉をギ・グーに与えると、明日早速案内するように伝えて、下がらせる。
さて、どうするか。
▲▽△
翌日オークを狩りにでかける。
ギ・グーとギ・ガーの2匹を筆頭に、20匹ほどを引き連れていく。
簡単な植物のツタを組み合わせたロープを足元に満載しておく。
オークが好む経路というのは、開けた場所が多い。巡回するにしても、縄張りの境界線は草や木が無いようにしている。
俺はその順回路の真ん中に立ちふさがると、左右の藪の中に2匹のゴブリン・レアとゴブリンを伏せておく。
そうしてやってきたオーク。
刃の欠けた剣を構え、簡単に挑発してやれば、脳みそがあってないようなオークは俺に向かって走りよってくる。
「いまだ!」
俺の合図とともに、そこで足元にばら撒いたロープを一斉に引かせる。
そのうちの何本かが、オークの足をすくい。一匹は倒れるが、もう一匹は寸でのところで態勢を保つ。
だがそれが、もう既にどうしようもない隙だった。
なんとか態勢を維持したオークに向かって振りかぶった剣を一閃。
その頭を叩き潰す。
脳漿を撒き散らして崩れ落ちるオークと、同時に起き上がってきたオークを再びロープで引っ張らせて地面に引き倒す。
その足めがけて俺は再び剣を振るった。
あがる悲鳴。
両足を切断されたオークが上げる叫び声に、口元を笑みの形に歪めた。
「やれ」
茂みに隠れていたゴブリン達に木で作った簡単な槍を持たせて、オークに突き刺させる。
その肌がいくら頑丈だろうと、目や、口や、傷口までもがゴブリンの力で貫けぬはずは無い。
そのわずかな隙間を狙わせて俺はオークをなぶり殺しにした。
■□■
結果として、俺は【レベル】を上げることに成功した。
だが、【階級】をあがるまでには至らない。 手下の中からゴブリン・レアが出現するかとも思ったが、それも今回はなかった。
試しに食ってみたオークの肉は、なんともいえず美味だったので集落に持ち帰って、幼生などに食わせてみた。
夜のうちに、再びオークを狩るべく動き出す。
オークの住処にしている場所を監視させ、残りの3匹がそこをでたなら、すぐさま後を追う。
オークたちの通りかかるルートにわざとらしく、仲間の血痕を残しておく。
点々と続くそれが行き着く先は、地獄に他ならない。
昼間と同じ要領でオークを転がし、俺が四肢を潰す。
最初の一匹だけは必ず俺が仕留める。 そうしておいて、ゴブリン達がその傷口めがけて殺到する。
◆□◇
三匹のうちの一匹などは、息があるうちにその四肢を貪り食われていた。
災厄の子鬼を従えて、俺はオークのグループを皆殺しにすることに成功する。
その肉は、貴重な食料となり、やつらの棲家にあった物はその日のうちに集落まで運んでおいた。
戦利品として得たものは、防具、長柄の斧、棍棒、長剣などだ。
オークが使うには小さすぎるものや、おそらくこの集落にあったもので略奪されたものも中にはあるのだろう。
結構な量の戦利品を得て、まずまずの結果だといえる。
これでひとまずは、食料を奪う脅威は去ったわけだ。
後は、この群れの質を向上させなければならない。
俺自身にも言えることだが、ゴブリンという種族は大概弱すぎるのだ。使える手駒がそれしかないのなら、その駒を強力なものにするか、手駒を増やすか。
同時にそれを行いながら、少しずつ力を増やしていくしかない。
当面の目標としては、レア級のゴブリンを後8匹はほしい。
そうして俺自身も、もう一つ【階級】をあげねばならないだろう。
もし、こいつらが反逆なんてことを企むことがあれば、容赦なく斬り捨てることができるだけの力を、我が身に宿さなければ、決して安眠などできはしないのだから。
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レベルが14⇒32へ上昇します。
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