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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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忠誠の矛先

【種族】ゴブリン

【レベル】10

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)




 頷いたアルハリハに俺は内心ほっと息をついた。

 正直今回の戦いは、犠牲が大きすぎる。新しく加わったガンラのゴブリン達はみな半死半生。包囲を敷いてはいるが、ギ・グーとギ・ゴーを中心に背後に回り込ませたとはいえ、その包囲網は薄い紙のようなものだ。

「戦いをやめろ! パラドゥアは降伏したぞ! 我らの勝利だ!」

 勝利を喧伝し相手の士気を奪う。

 喚声を上げる俺の手下達に、敗北を悟ったパラドゥアのゴブリン達が士気を落としていく。降伏した者たちを一か所にまとめると、その周囲を俺の部下で囲み、監視をさせる。

「よくやってくれた、ギルミ」

「いえ、私の指揮のせいで多くの犠牲が出てしまいました」

 項垂れるギルミに、俺は言葉をかけた。

「お前以外にこれだけの損害でパラドゥアを降伏に導ける者はいなかっただろう。良くやった」

 正直俺は、ギルミが生きて戻ってくるかも半信半疑だった。その為に、隠密のギ・ジーをギルミの逃走経路に潜ませて、もしギルミ達が全滅した時の囮役をしてもらうつもりですらあったのだ。

 率いていったガンラゴブリンのうち、戻ってきたのは3分の2。10匹ほどであったが、それでも随分と生き残ったと思っていい。

「褒美については後で話そう。望みを考えておくがいい」

 成果には報酬を。今度のギルミの成果は比類ないといってもいい。これからもその力を俺の下で発揮してくれるなら、それ相応の見返りを与えてやらねばならない。

「さて、パラドゥアのアルハリハ」

 捕縛されたパラドゥアゴブリン達の周りに、曲刀を手にしたギ・ゴーと手斧を手にしたギ・グーが睨みを利かせる。

「俺の命と引き換えだ。部下を助けてくれ」

 地面に座ったままのアルハリハは、全てを受け入れた表情で俺に向き合っていた。

「ふむ、まぁいいだろう」

 少し考えて俺は頷いた。

「負傷した者を助けてやれ」

 ギルミの言葉に、アルハリハやその副官達からは、ほっとした息がこぼれる。

 ガンラのゴブリン達が薬草を混ぜ合わせたどろりとした軟膏薬を、パラドゥアゴブリン達に手渡すと、彼らは傷口にそれを塗り込み、さらに木の葉で傷口を縛る。

 レシアの回復の力だけに頼っていた俺にとっては、それは驚きの光景だった。無論、無表情を取り繕ってはいるが、視線は自然とその薬草の方に引き寄せられる。

 効き目が高いようなら、ガンラゴブリンの価値はまた一つ上がったことになる。今まではレシアの癒しの力か、自然回復を待つばかりだったのだ。

「感謝する。さあ、殺せ」

 地面に胡坐をかいたアルハリハの視線は、挑むように険しい。その視線に応えるように、俺は口の端を釣りあげた。なるべく獰猛に見えるように嗤って見せる。

「ただ殺すのでは、飽き足らないな」

 俺の言葉にびくりと、アルハリハ自身ではなくその背後に控える副官達がアルハリハの背中と俺を見比べた。

「構わん」

 俺の挑発に応えるように、アルハリハも口の端を釣りあげる。

「パラドゥアのアルハリハは臆病者ではない。どんな死にでも耐えて見せよう」

 全く俺の期待を裏切らないゴブリンだ。

 ざわりと、アルハリハの背後のゴブリン達が騒めく。そればかりか俺の背後にいるガンラのゴブリン達も騒めいていた。4氏族の最長老といってもいいゴブリンの覚悟は、敵味方を通じて感嘆を禁じえないといったところか。

「ならば、俺の配下としてガイドガと戦ってもらおう」

「……正気か?」

 一瞬の沈黙の末に、アルハリハは俺を睨みあげた。

「俺が裏切るとは思わないのか?」

「貴様は自身の言葉を曲げる恥知らずなのか?」

 アルハリハの質問に、質問で返す。言葉に詰まるアルハリハの様子を、観察する。予想以上に迷っているようだった。ここで迷うこと自体が、半ば俺の策に嵌ったといってもいいのだが、当のアルハリハに言うつもりはない。

「まぁ、気が乗らないのなら仕方ない。お前たちは自身が何者に戦いを挑んだのか一番後ろで見ているがいい」

 たじろぐパラドゥアゴブリン達を余所に、俺は宣言する。

「パラドゥアゴブリンを開放する!」

 驚愕に包まれるガンラとパラドゥアゴブリン達。それはそうだろう。先程まで殺し合いをしていた相手が、自分達を許してやると言っているのだ。疑わない方がどうかしている。

「俺達を逃がすというのか?」

「俺は全滅するまでお前達と戦うつもりはない。俺の目的は、後ろに控えるガンラやお前達自身にあるのだからな」

 呆気にとられるパラドゥアとガンラのゴブリン達を前に俺は宣言する。

「俺は王になる。お前達を率いて王国を築く王となるのだ」

「なにを、馬鹿な……」

「本当にそう思うか? 俺には不可能だと、分を弁えない愚かな者だと?」

 ここで自身と周囲に弱気を見せては、今まで宣言したのが嘘になってしまう。

 俺こそが唯一の王であると、自分と周囲に言い聞かせねばならない。呆然と俺を見上げるアルハリハを見下ろす。

「……仮に我らを従えたとして、お前は何をする?」

「全てを支配する。森も、人も、獣人も妖精も! 陸地は大地の果てまで! 海はその彼方まで、空は鳥の羽根が届くまで! 地中は巨人の眠りの中さえも俺は征服するぞ!」

「そんなことが……」

「できる! 俺の下に集え、誇り高きパラドゥアよ!」

 この美しき世界に自身の名を刻む。その為にあらゆる犠牲を容認し、あらゆる敵を打ち破るのが覇道であるのなら、俺はそれを成す為だけにここに居る。

 俺の言葉を聞いてから、アルハリハは下を向いて俯く。

「俺は、老いた」

 深い溜息と共に出た言葉は、アルハリハの率いたパラドゥアゴブリン達と俺の宣言の驚愕から立ち直らせた。

「俺がもう少し……せめてあと10年若ければお前と一緒に世界を征服しにいっただろう」

 ダメか。ならばそれでも構わない。多少手間と時間がかかってしまうが、他に方法がないわけでもないのだから。彼らが注目する中、アルハリハは言葉を続ける。

「東の王よ。俺は兜を脱ぐ。どうか、我が氏族を頼む」

 深く頭を下げると、今度は氏族に向かいあう。

「誇り高きパラドゥアよ。我が同胞らよ。俺は本日只今を持って氏族の長を降りる」

 アルハリハの宣言に、パラドゥアゴブリン達がお互いの顔を見合わせる。

「後任はハールーだ。そしてパラドゥアの氏族は、この御方を今日より主と定める。不服があるものは立ち去ってくれて構わない」

 今まで強圧的な態度ではなく、疲れた老人を思わせる真摯な語り口に、パラドゥアゴブリン達は咳き一つなく聞き入っていた。

 しばらく時間をおいて、誰も立ち去らないのを確認するともう一度アルハリハは自身が守ろうとした同胞達を見渡す。

「良いんだな?」

 確かめるようにぐるりと見回すと、再び俺に向かって向き直る。

「王よ。パラドゥアは、貴方に槍の穂先を捧げます」

 深く首を垂れるアルハリハの言葉に、俺は黙って頷いた。

 そうして、俺は欲していた一つを手に入れた。



出張から戻ってきましたので更新いたします。

少し短いのはご愛敬。

アルハリハを落とした主人公……次に狙うのは?

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