反撃の一突き
【種族】ゴブリン
【レベル】8
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)
逃げ散ったガイドガ・ゴブリンの姿を確認して、俺は部下たちに追撃を命じる。
「ギ・ザー、半数を率いて残党を追え!」
「おうとも。ギ・ヂー、ギ・ズー、ギ・ドー。一緒に来い」
風術師ギ・ドー。見開く瞳のギ・ヂー、狂犬のギ・ズーらのドルイド、レア級ゴブリン達。更には、他のノーマルゴブリン達を率いて追撃に移る。
洞窟の内部は広くはあったが、決して複雑とまでは言えなかった。いくつかの横穴に食糧を分けて保存してあり、他の横穴には武器防具が無造作に投げ込まれていた。
粗方内部の制圧に成功した俺は、裏口とも呼べる穴から逃げたガイドガ・ゴブリンの追撃をギ・ザーに命じる。
2匹のノーブル級ゴブリンであるギ・グー・ベルべナ、ギ・ゴー・アマツキを率いて残りの横穴を潰していく。
不意に出てくるガイドガ・ゴブリンを鋼鉄の大剣で薙ぎ払う。
「次だな」
武器庫の中にいたガイドガ・ゴブリンを薙ぎ払うと次の横穴に向かう。
「グゥアァウ!」
飛び出してくる敵を一撃のもとに叩き伏せると、中を確認する。
「ふむ」
中にはガイドガ・ゴブリンの幼生とメスらしき小柄なガイドガ・ゴブリン達がいた。
「抵抗しなければ命は取らん」
メスが貴重なのは、どこのゴブリンも一緒だろう。俺の手下になったとき、その繁殖能力が絶滅していたのでは戦力として考えるまでに時間がかかる。
類まれな繁殖能力を誇るゴブリンでさえ、幼生から成人になるまで相応の時間がかかり、更に一人前の“戦士”と呼べるまでには更に長い時間がかかる。
ましてや、ガイドガ、ゴルドバ、ガンラ、パラドゥアの4氏族に至ってはどのくらいかかるかも未知数ですらある。
いたずらにメスを殺すべきではないし、幼生を殺すのも考え物だ。
もちろん、俺の感情として身を寄せ合って震えるか弱きガイドガ・ゴブリンを殺すのが後味が悪いというのも、あるにはあるが……。
「王」
他の部屋を捜索していたギ・ゴーがガイドガ・ゴブリンの血に濡れた曲刀を振り払いながら、こちらに近寄ってくる。
「洞窟の中は制圧しました。この部屋が最後のようです」
「そうか。ギ・ゴー・アマツキに特に命じる」
片膝をついて、畏まるギ・ゴーを見下ろしながら、横穴を指さす。
「この横穴には幼生とメスがいる。王の名においてこの部屋の中の者達の安全を保証する。この中の弱き者達を守れ」
「御意に」
低く首を垂れるギ・ゴーを残すと、洞窟の外に出る。
徐々に追いついてくるゴブリン達を率いて、洞窟を抜けだした。
「ギルミ!」
洞窟内での戦闘には向かないため、洞窟を包囲していたギルミ達ガンラの集落の弓使い達。その中から初めに射る者という尊称を持つゴブリンを呼ぶ。
「逃げたガイドガ・ゴブリンを追うぞ。続け!」
「承知しました」
「ギ・グー・ベルべナ、露払いを命じる。先陣となって道を開け! ギ・ギー、ギ・ジーは側面を警戒しろ。出発!」
連携を得意とするノーブル級のギ・グーを先頭に、双頭駝鳥に乗った獣士ギ・ギーを右に、隠密というスキルを持つギ・ジーを左に配置して、ガイドガ・ゴブリンが逃げたと思わしき方向へ進んでいく。
「王、恐らくガイドガ・ゴブリンらは南へ」
「南……」
「パラドゥア氏族の集落がありますれば」
俺に進言してくるのは、ラ・ギルミだった。小柄な弓兵の視線の先には、既にパラドゥアゴブリンの住居が映っているのだろうか。前を睨む視線には揺るぎない。
周囲の深い森から、徐々に木々がまばらになっていく。
「よし、南へ進路を取る」
俺の言葉が届いたのだろう、ギ・グー・ベルべナは進んでいた方向を僅かに修正した。
◇◇◆
王から追撃の命令を受けたギ・ザーを先頭とする一団は、逃げるガイドガ・ゴブリン達を追って森の中を走る。何しろ、敵の背丈は大きい。それだけで逃げた先が容易に判明するので、追撃はそれほど難しくはなかった。
逃げる敵の背を突くのは、非常に容易い。
ギ・ザーの魔法が容赦なく突き刺さり、ギ・ドーの風が執拗に足元を狙う。倒れたガイドガ・ゴブリンに見開く瞳のギ・ヂーを中心としたゴブリン達が剣を突きたて、ギ・ズーが槍を突き立てる。
まるで羊の群れを狩るように、ガイドガ・ゴブリン達を駆逐していく。
だが、いかんせん数が多い。ばらばらの方向に逃げるガイドガ・ゴブリン達を討ち漏らしなく仕留めていくのは事実上不可能だった。
「大きな塊を狙うぞ」
ある程度固まって逃げている群れを追う。ギ・ザーの命令のもと、追撃のゴブリン達は脇目も振らずガイドガ・ゴブリン達を仕留めていった。
そろそろ切り上げようかと思ったのは、ギ・ザーが自らの魔素が少なくなってきたのを感じた時だった。敵を追い打つ興奮に酔いしれ疲れを忘れてはいるが、あの洞窟から半日近くもガイドガ・ゴブリンの群れを追ってきているのだ。
いつ体力が切れてもおかしくはない。
「追撃を中止する」
戦闘を進んでいたギ・ザーの命令に、群れ全体が止まる。中には荒い息を吐いている者もいた。
「この辺りが限界か」
踵を返そうとしたギ・ザーの鼻に、ガイドガ・ゴブリンのものとは違う匂いが届く。
「なんだ……?」
森の木々を騒がす風の音も今は不気味に吹いているだけだった。
嫌な予感がする。ギ・ザーがそう考え撤退をさせようとした時、茂みの中から巨大な影が跳び出す。
「くっ……パラドゥアの!?」
黒が勝った縞模様の巨大な虎を駆るのは、長い槍を携えたパラドゥアのアルハリハだった。
「死ねい、小童が!」
加速の勢いをそのままに、繰り出す刺突の一撃。
「くっ……」
後方に飛び退くギ・ザーに、だがアルハリハの一撃はさらに上を行く。
「甘いわ!」
逃げたギ・ザーを追って更に一撃。着地したばかりのギ・ザーの体めがけて刺突を繰り出す。
「我が身は風を纏う!」
態勢も崩れ、通常なら避け得ぬその一撃を、だがギ・ザーはアクセルの魔法を使うことによって何とか避ける。
同時に。
「撤退だ。下がれ!」
自身を運ぶ風に乗せて、声を味方に届ける。
「逃がすか! ハールー、アッラシッド、左右から回り込め! 駆けろジロウオウ!」
下がるギ・ザーを尚追撃するアルハリハ。
「応!」
ハールーとアッラシッドの2匹のゴブリンが、鶴が羽を広げるように、手下を率いて左右からギ・ザーの部隊を包み込むように走る。
アルハリハが魔獣の名を呼ぶと、ジロウオウと呼ばれた黒虎は周囲を威圧するように吠え、ギ・ザーに狙いを定めて襲いかかる。
ゴブリンと魔獣との連携した攻撃に、熟練のドルイドといえども避けるのが精いっぱいだった。
「右を破ル、つイテこイ!」
見開く瞳のギ・ヂーの声に合わせて、風術師ギ・ドーの魔法が騎獣兵の一匹をなぎ倒す。だが続いて突撃したギ・ヂー達を囲むように、騎獣兵達は森の中を自由自在に駆け回る。
「鬱陶シい!」
ギ・ヂーの叫びを嘲笑うかのように、後ろに回られ、弱いゴブリン達から順番に攻撃を受ける。決して無理をせず相手が弱るのを待つような戦い方は、巨大な獲物を狩るときに似ていた。
「俺が、イく!」
ぐるん、と槍を旋回させるとギ・ズーは後背を突く敵に向かって突っ込んだ。
「グルゥゥアァアアウ!」
獣のごとき叫び声をあげて、【スキル】《狂犬》を発動させる。理性のタガを外した力技で、活路を開こうとしたのだ。それが分かっているから、ギ・ヂーもその特攻を止めはしなかった。
「走レ! 走レ! 撤退ダ!」
自身と部下達を鼓舞して、深い森の中へ全力で撤退する。
背の低い木々の間へ腰をかがめて入り込み、虎の追撃から逃れるように必死に逃げる。
幸いしたのは、ゴブリン達の小ささだった。魔獣と一体となって攻撃してくるパラドゥアゴブリン達は、魔獣の入り込めないところまで敢えて追撃しては来なかったためだ。
「退くぞ。ギ・ズー殿!」
アルハリハの槍を避け、ジロウオウの牙を避けながら必死にギ・ズーに呼びかける。だが、理性のタガを外したギ・ズーにはその声が届かない。
「戦いの最中によそ見か!」
気もそぞろになったギ・ザーにアルハリハの槍が襲いかかる。
「ぐっ!?」
身をねじって避けよとしたギ・ズーの肩に突き刺さる槍。
「ふん──」
「我が心は風に乗る!」
空気が揺れる。鼻で笑い飛ばしたアルハリハが言い終わらないうちに、ギ・ザーの周囲には4つの竜巻が巻き起こる。
それをアルハリハと、地面に向けて放つ。
「そんなものが当たるかっ! ……ぬ!?」
ジロウオウが跳び退き、それを操るアルハリハは全くの無傷だった。だが、地面に叩き付けた竜巻の一つが、土煙を上げて視界を遮る。
「くっ……ジロウオウ、もダメか」
森林内を軽快に動き回り、牙による攻撃も可能とする黒虎ではあったが、鼻が鈍いという弱点がある。視界がない場所ではその攻撃性も極端に落ちてしまうのだ。
「まぁ、いい。相応の手傷は与えた。撤収だ!」
自身にそう言うと、アルハリハは手下をまとめて撤収にかかる。
「生きている者は首を刎ねましょうか?」
アルハリハの号令に応じて、先に戻ってきたハールーの言葉に族長は首を振る。
「確かめたいことがある。生きているなら連れてこい。だが必要以上に丁寧にする必要はない」
「はっ」
アルハリハ率いるパラドゥアゴブリンは、ガイドガ・ゴブリンと合流すべく悠々と戦場を引き上げた。
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主人公のレベルが上がります。
レベル8→レベル10
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