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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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求める者たち

【種族】ゴブリン

【レベル】8

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)





 ガイドガゴブリンの住処は、天地を隔てるような山脈の麓にあった。

 真っ黒な岩が露出する広く深い洞窟の中に、その住処を定めている。周辺には、東に3日ほどいったところに、森林に覆われたガンラの集落(アーノンフォレスト)があり、南へ下れば二日の距離に、草原と森林を住処とするパラドゥアの集落がある。

「あれが、ガイドガの住処か」

 森林の中から、その様子を窺うとひっきりなしに巨躯を誇るガイドガ・ゴブリンが洞窟の中を出入りしているのが見える。

 ふと目に付いたのは、ガイドガ・ゴブリン達が何人もかかって運んでいる巨大な鹿だった。

「あれはガイドガ・ゴブリン達の主食で、この辺りに生息している巨大な角(ビッグホーン)といいます」

 さりげなく説明を加えるギルミに感謝しながら、その様子を眺める。

 俺が気になったのは、その巨大な鹿の胸に空いた大きな穴だ。恐らく致命傷になったであろうその一撃は、尋常な力で貫かれたのではないだろう。小さなゴブリンなら一匹入ってしまうほどの大穴。

 あれがガイドガ・ゴブリン達の誰かの一撃であるならば、俺は多少彼らを見くびっていたことになるだろう。

 今まで勝ちを拾えたのは、その何者かが出てこなかったためとも言えるのだ。

「ガイドガ・ゴブリンで最も強いのは族長か?」

「そのはずです。ミーシュカの子、ラーシュカ。彼らの崇める冥府の門の祭祀も司っている4氏族で最も力があるゴブリンです」

 気づけば、にやりと口元が笑みの形をとっていた。

 面白いじゃないか。

 ガイドガのラーシュカ。

 力でねじ伏せれば、俺の下に降るか?

 そう考えて、俺は周囲の配下に合図を出す。

 黒の洞窟を包囲するように、ゆっくりと静かに俺達は歩を進めていった。


◆◆◇


 森と林の境目にパラドゥアの住居はある。ゴブリンとしては森の中に住居を構え、魔獣達の餌が豊富にある草原に近いことから、彼らの住居は決まったといってよい。

 ガイドガの洞窟や、ガンラの天然の要塞じみた集落に比べればその防護性は格段に落ちる。周囲には柵が張り巡らせてあるが、それも魔獣達が勝手に外に出ないために設けてあるにすぎない。

 敵を想定して作ってある集落ではないのだ。しかしそれも当然で、いざ戦いとなればパラドゥア氏族は氏族総出で騎乗して戦うことになる。彼らは生まれたときに自分の魔獣を決められ、成人すると同時にその魔獣を与えられるのだ。

 騎乗すれば機動力には優れる。だが籠城という概念からは遠くならざるを得ない。それなら騎乗して奔って逃げた方がまだマシだった。

 ゆえに、パラドゥアの集落には碌な防護施設がない。

 そしてその集落に一匹の巨躯のガイドガ・ゴブリンが訪ねてきていた。

 首からかけられた黒い刺々しいアミュレットが、ガイドガの宝具である“怒りの首飾り(ヴドル・アミュレット)”。

 持つ者の力を増幅させるという、宝であり族長の証でもあった。

 手にしているのは太い木の幹ほどもある棍棒。槍のように穂先だけを削ったそれは、木の槍というにはあまりに大きい。並みのゴブリンなら一呑みにしてしまえるような、逞しい顎と口元は真一文字に結ばれ、部下と敵を睨むための爛々と輝く黒の瞳は今眉間に刻まれた皺と共に閉じられている。

 額から天に向けて聳え立つ一本角と、その黒茶色の肌はデューク級の証か。4氏族で最も力を持っているゴブリンは、今パラドゥアの族長の怒りを受け止めていた。

「で、この落とし前はどうつけてくれるんだ」

 既に老境に差し掛かっているはずのアルハリハの怒りの眼光は、目の前に立つ巨躯を誇るゴブリンに向けられていた。

 まるで動じぬ岩のような印象を与えるそのゴブリン相手に、アルハリハは全く怯まない。

 地上に降りれば見上げるばかりのその巨躯も、騎乗しているアルハリハには同程度の視線の高さでしかない。

「すまぬ」

 重々しい声と共に謝罪が降りてくる。

 二匹が争っているのは、ガンラに対する降伏勧告だ。

 全てはアルハリハに任せるとラーシュカが宣言したものの、一部のガイドガ・ゴブリンが突出し先にガンラを襲撃し撃退され、挙句の果てに降伏勧告の最中に再び退けられるという締まらない結果に終わったからだ。

「証を出しやがれ」

 ラーシュカの言葉に従ったアルハリハ、ひいてはパラドゥアゴブリン達をダシに使ったガイドガ・ゴブリンの指揮官を、その首を出せとアルハリハは凄む。

「それはできぬ」

 だが、ラーシュカにはそれができなかった。指揮を執ったリーウェカは既に戦死。逃げ延びて報せをもってきたゴブリン達も、生贄として出すには小物すぎた。

「若造、舐めてんのか」

 それでアルハリハが納得できるはずもない。彼も一族を率いる族長なのだ。ラーシュカの謝罪のみで引き下がったとあっては、氏族たちに対する彼のメンツが立たない。ただでさえ独断に近い形でガイドガと同盟を結ぶことにしたのだ。その判断の正しさを証明できないままでは、いずれ次なる族長が彼の足元を襲うであろう。

巨大な角(ビックホーン)を3匹。それで手を打ってくれ」

 ガイドガ・ゴブリン達の主食であり魔獣達の餌ともなるビックホーンは、最近減少の一途を辿っていた。

「……良いだろう。だが、今度こんなことがあれば」

「心配は無用だ」

 誇り高きアルハリハが、ガイドガゴブリンと同盟を結ばざるを得なかったのは、氏族のためを思えばこそだった。減少する食糧、魔獣の数も少なくなり、このままでは氏族は衰退してしまうとの危機感があればこそ、アルハリハは誇りを捨てた。

 自身の心を押し殺して、餌と引き換えに信義を踏みにじった代価を払わせる。

 たかだかビックホーン3匹のために、という思いとは裏腹に現状の集落を思えば、それは貴重な食糧であった。

「もうこの話はやめだ。でどうするんだ?」

 口が腐ると言わんばかりの不機嫌な態度で話題を変えるアルハリハは、鋭い視線そのままにラーシュカに質問する。

「再びガンラを攻める。今集落に各地に散った手下を集めている。それに加わってほしい」

 鼻を鳴らすと、アルハリハはガンラの集落の方を見やる。

「殲滅戦か」

 アルハリハの脳裏に浮かぶのは一匹のゴブリンだ。

 ガンラのナーサ姫の背後に控えていた灰色の三本角。尾まで備えたその威容は、アルハリハの知っているゴブリンよりも別の何かのようだった。肩に担いだ大剣と身にまとう雰囲気は、並みのゴブリンの比ではなかった。

 全てを焦がすような眼光の鋭さ、口から放たれる言葉は妙に心を揺さぶる。

 手下らしき“外”のゴブリン達の話しぶりからすると、王と呼ばれていたが。

 事実ラーシュカとアルハリハが求めた王なのか、あるいはただの偽物なのか。求める者に与えられるはずの救済は、未だに遠く感じられた。

「ガンラの援護に駆け付けたゴブリンの名前を知っているか?」

 目の前の巌のようなゴブリンは、あれをどう見るのか。意見を聞きたくなってアルハリハは問いかけた。

「いや、そんな者が──」

「族長!!」

 泡を吹いて走ってきたのは、周辺の散策に向かわせていた一匹。

「どうした客人の前だぞ!」

 怒鳴りつけるアルハリハの心も、ざわついていた。これほど手下が慌てるのは、ただ事ではない。

「ガイドガ・ゴブリンの集落が襲われました!」

 目を見開いたのは、アルハリハだけでなくラーシュカもだった。

「クザンが動いたのか!?」

 最も憂慮しなければならないのは、北に引きこもっているゴルドバのクザンの動向。

 だが。

「敵は、ガンラ! そして外のゴブリンどもです!」

「なに!?」

「話は終わりだ。俺は取って返す」

 普段と変わらず落ち着いた声音も、今は僅かに焦りの色が見える。ラーシュカの言葉に、アルハリハは口元を歪めた。

「敵は何と名乗っていた?」

「特に名乗りを上げることは、ありませんでした。ただ、王に従えと」

「馬鹿な!」

 ミシリ、とラーシュカの握りしめた棍棒の柄にひびが入る。

「今さら王だと!?」

 怒りのあまりその棍棒を地面に叩き付けると、地震でも起きたかのように地面が揺れた。

「付き合うぜ、若造……手下どもに招集をかけろ。戦だ!」

 今さら遅すぎるのだ。

 一度始めてしまった争いは、どちらかが滅びるか降伏するまで戦うしかない。

「ガンラを攻める!」

 アルハリハの宣言は、集落全体を駆け巡り、すぐさま精鋭と呼ぶに相応しい騎獣兵達が集まった。




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