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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
61/371

信頼

【種族】ゴブリン

【レベル】8

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)




 暗闇に潜むガイドガ・ゴブリンの集団は突撃の号令を今か今かと待ち受けていた。

 占領したかと思われたガンラの集落から叩き出されて、信じられない思いで逃げ延びてみれば、逃げた先には憤怒の表情を宿した指揮官であるリーウェカの姿。

「反撃だ。反撃をするぞ」

 オークだってもう少し可愛げのある顔をすると思われるそのリーウェカの怒りの顔に、ガイドガのゴブリン達は竦みあがる。リーウェカの振るう見境のない暴力は、今さら確認するまでもなかった。

「好機を見計らうんだ」

 にやりと、悪魔が姦計を思いついたかのような表情で笑うリーウェカに、ガイドガ・ゴブリン達はただ頷いた。

「今獣乗りどもが、降伏の勧告にきてるはずだ」

 時刻はすでに夜である。暗い森の中にその大きな身を寄せ合って潜め、天然の要塞ともいうべきガンラの集落を注視する。

「やつらも、まさかこの状況で襲われるとは思うまい」

 低く笑うリーウェカの声に、ガイドガ・ゴブリン達は深く頷く。集落を落としたなら、まずは宴だ。

 追撃などはそのあとにすればいい。

「獣乗りが、使者をだじましだ」

 偵察に出していたゴブリンの声に、リーウェカは深く頷く。

「もう少し、奴らが集落から出た隙を突くんだ」

 ゴブリンは夜目が利く。ガイドガ・ゴブリン達の眼に、リーウェカの逞しい腕が振りあげられるのが見えたちょうどその時。

我が心は風に乗る(ウィンディア)

 空気が揺れる。

 どこからともなく現れた4つの竜巻が、腕を振り上げたままのリーウェカに襲いかかった。

「な、なんだ──!?」

「折角の宴だ。邪魔をするのは野暮だろう」

 小さなゴブリンが、ガイドガ・ゴブリン達の間を駆け抜ける。

 リーウェカの四肢を弾き飛ばす4つの竜巻、疾風のような速さでぶつかってきたのは集落を取り戻した小柄なゴブリン達だった。


◇◇◆


「ギ・ザー殿につヅケ!」

 見開く瞳のギ・ヂーの声に、3匹一組となったゴブリン達がガイドガ・ゴブリンの群れに突撃する。

「頭ヲやル、足ヲ」

「オウ」

 獣士ギ・ギーが隠密ギ・ジーに声をかける。双頭駝鳥(ダブルヘッド)を使役し、その背で斧を握るギ・ギーが、自身の背の2倍もあろうガイドガ・ゴブリンに斬りつける。

 同時に足元を気配を消した隠密ギ・ジーが狙い、ガイドガ・ゴブリンが悲鳴を上げる。倒れたガイドガ・ゴブリンに風術師ギ・ドーの風の魔法が襲いかかる。

 間髪いれずに、止めを刺しに向かうのはいまだノーマルのゴブリン達だ。傷口を抉るようにして得物を差し込み、急所を刺し貫く。

「矢! 頭だ」

 ギ・ザーの風に乗る声に応じて、ガンラの集落から参戦したゴブリン達がガイドガ・ゴブリン達の頭を狙って矢を射る。

「続いて射よ」

 ラ・ギルミの声に続いて矢が横殴りの雨となって、ガイドガ・ゴブリンに襲いかかる。

 ガイドガ・ゴブリンの筋肉に覆われた身体はその程度では致命傷を与えることはできないが、急所に刺されば別だ。眼球や口の中というのは、どう頑張っても鍛えられない。

 そこへ向かって集中して射かけられた矢を払い落そうとするガイドガ・ゴブリン。だがその足元を狙って、見開く瞳のギ・ヂーを先頭とした集団が駆け抜ける。

 ノーマルゴブリンを率いて──一撃一撃は小さな傷だが──積み重ねることによって致命傷へと至らせる。ましてや、ガイドガ・ゴブリンは統率をすべきリーウェカが最初の一撃で戦闘不能だ。一度ついた流れを止められるはずもない。

「お、オレに近寄ルナ、よ」

 周囲のノーマル・ゴブリンに注意を投げかけながら、ギ・ズーのスキルが発動する。

 槍を握っていた狂神の加護を受けたギ・ズーが、《狂犬》を発動して、最後の駄目押しをする。

「グルゥウアアァグアアァ!」

 振り下ろすガイドガ・ゴブリンの拳を受け止め、逆に弾き飛ばす。

「ば、ばがな!?」

 驚愕に見開かれるガイドガ・ゴブリンに向かって頭上から振りかぶった槍で殴りつける。

 肩に激突した槍はそのまま骨を砕き、ガイドガ・ゴブリンを戦闘不能に追い込む。

「に、に゛げろ」

 指揮官の恐怖によって秩序を保っていた集団だけに、それがなければ崩壊するのも速い。誰か一人が逃げ出すと、我先にと全員が逃げ出した。

「追う必要はない!」

 ギ・ザーの制止の声に、全員が追撃をやめる。

「とりあえずはこれで良い……負傷者の確認をしろ」

 ガイドガ・ゴブリンを追い払うと、ギ・ザーはガイドガ・ゴブリンの息のあるものを一か所に集めさせた。

「軽傷が5か……まぁまぁだな」

 満足そうに頷くと、生き残ったガイドガ・ゴブリンに告げる。

「よく聞け。これから俺のする質問に答えろ。さもなくば……」

 視線で合図をされたギ・ヂーが手に持った長剣で、ガイドガ・ゴブリンの足を貫く。

 悲鳴を上げるガイドガ・ゴブリンの姿に引き攣る生き残りたち。

「まだ他に集落を狙っている者はいるのか?」

 恐怖のあまり、震えながら首を振るガイドガ・ゴブリン。

「今回のパラドゥア・ゴブリンどもとは共謀したことなのか?」

 ラ・ギルミの声に一瞬戸惑いながらも、またしても首を横に振る。

「勝手な質問は謹んでもらいたいものですな」

 ギ・ザーの声には冷え冷えとした響きがある。

「いや、これは必要なことだ」

 ギルミの反論に、ギ・ザーは軽く舌打ちするとそれ以上追及をしなかった。

 彼もまた、その質問を次にしようとしていたからだ。

「必要か否かは俺達が判断する」

「だが……」

 苛立たしげに返すギ・ザーと、なおも反論しようとするギルミ。にらみ合う二人の間に文字通り頭をだしたのは、獣士ギ・ギーの双頭駝鳥(ダブルヘッド)だった。

「喧嘩、駄目ダ。な?」

「ソう、喧嘩ダメ。王、ニンゲンとも仲良イ」

 獣士ギ・ギーと隠密ギ・ジーの二匹だった。

 この二匹の仲の良さは、周知の事実だ。

 その二匹が肩を竦める様子は、どこかユーモラスでさえある。

「喧嘩ではなく、意見の相違というやつだが……確かに一人で尋問を進めたことは悪かった」

 王を見習えと遠まわしに言われて、ギ・ザーは言葉に詰まらざるを得ない。確かに、こんなところで同じ仲間同士波風を立てる必要もない。それに王の傘下に加わった順番なら、レア級の中では最古参ともなるギ・ギーに言われては、余り強くも出られない。

「いや、私こそ。指揮官はギ・ザー殿であったのだ。出すぎたことをした」

 ギルミもそれに応えて、頭を下げる。

 ギルミとしても、新参者のギルミが出しゃばってはギ・ザーの顔が立たないと反省する。

 パラドゥアのアリハルハの姿を見たとき、どうしても心が急いてしまった。問わずにはいられないほどにだ。

「まぁ、とりあえずは王の元に連れていくべきか」

「それがよろしいでしょう」

「そうダ」

 頷くギルミとギ・ギーを確認して、ギ・ザーは捕虜を連れて引き上げた。

「……決して楽ではなかったが」

 ギルミを先頭に立て、最後尾に立った戦場跡を眺めたギ・ザーは確かな手ごたえを感じていた。


◇◇◆


 ガンラの集落である捻じれた巨人の森(アーノンフォーレスト)を巡って行われたガイドガと俺達の争いは、俺達に軍配が上がったと考えていいだろう。

 パラドゥアの騎獣兵達が向こうについたのは確かに痛かったが、逆転できないわけでもない。

 なにより。

「随分と遅かったな」

 捕虜を引き連れたガンラのゴブリン達は興奮した面持ちで、ガイドガの捕虜たちを引き連れて歩いている。

 この調子なら、ガイドガに対する苦手意識もすぐに薄れるだろう。

「王よ、随分と辛辣なことを言う。さては会談で失敗したな?」

 口の端を歪ませてギ・ザーが意地の悪いことを言う。

「なに、きっちりと宣戦布告をしてきたところだ」

 黒い笑みというのがあるとすれば、それは今俺とギ・ザーが浮かべているそれだろう。捕虜を捕まえたギルミ達は、ガンラの集落では英雄扱いで所々で歓声があがっている。

 その最後尾にいたギ・ザーと言葉を交わしながら、互いの無事を喜んだ。



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