ステータス
【種族】ゴブリン
【レベル】14
【階級】ノーブル・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》 《反抗の意志》 《威圧の咆哮》 《剣技C−》 《強欲》
【加護】なし
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意識を集中すれば頭の中に浮かぶ“ステータス”の存在。
占領した集落にいた老ゴブリンの指導を受けて、意識を集中させると浮かび上がってきたそれに、俺は最初困惑した。
自分の能力を知るのは、非常に大事だ。
だがそれを、こんな明確な数値や言葉で表示されると……。レベルやらスキルやら、果ては【加護】だと?
ますますファンタジーじみて来た現実に、苦笑を禁じえない。 俺が進化と感じていたのは、階級のレベルを上げる行為だったらしい。
ステータスを見ればわかるが、レベルとは、その階級の中でのレベルをさす。
ゴブリン・ノーブルのレベル14というのが俺のレベルであり、ゴブリン・レアであれば……
【種族】ゴブリン
【階級】レア・群れの主 となる。
さらに、保有スキルにいたってはその効果までもが、薄っすらと浮かぶ。
▽▲▽
《群れの統率者》:支配下の部下の能力低UP
《反抗の意志》:上位種族からの威圧に対して耐性低UP
《威圧の咆哮》:自身より階級が低い者の行動を鈍くする。同じ階級ではレベルに依存する。配下に対しては命令を強要する
《剣技C−》:剣の使い方に補正
《強欲》:率いられる群れの数増加
……なんでも普通は生まれてからすぐにこれを見る術を身につけ、狩りに出かけるのだそうな。
俺の場合は、離反したグループに所属していた為と、そのグループにそれを引き出せる人材がいなかったために今まで放置されていたというのだから笑えない。
離反グループ、短気すぎるだろう……。
スキルというものは、進化と同時に増えていったり、特殊な条件をクリアーすることで身についていくものらしい。老ゴブリン談。
《群れの統率者》、と《強欲》辺りは持っていて非常にありがたいものだ。特に俺の野心を満足させるためには、なくてはならないものといって良いだろう。
《反抗の意志》というのは、思い当たりがないわけでもない。
オークとの戦いの時に戦いを通じて身体が動いたことが、このスキルが発揮されていたってことなのだろう。あるいはその戦いを通じて身についたのか?
まぁ普通は、咆哮を受けただけでゴブリン・レアでも身体が竦んで動かないらしいからな。気合と根性だけじゃなかったらしい。
そう考えると、この群れの前のリーダーもこのスキルを持っていたのか? 曲がりなりにもオークに挑んでたような気がするが。
まぁ死んだ奴の事など考えても仕方ない。 剣技については、多分刃の欠けた長剣を使っているからだろう。
C−がどの程度なのかわからないが、適正なしってことはないんだろう。たぶん。
まぁいずれ他の得物を試してみても良いかもしれない。
《威圧の咆哮》については、割と多用している気がする。この集落を占領した時、ゴブリン・レアを屈服させた時にも使っていたような気がする。
△▽▲
大まかに自分の能力を把握すると、次は村についての情報を整理する。
そもそも、50ほどいたはずのゴブリンの群れが何でこんなに弱体化しているのか。おかげで余計な争いも無く占領することができたが。 事情を聞いた俺は改めてゴブリンのヒエラルキーの低さに苦笑を禁じえなかった。
すぐ近くに移り住んできたオークどもに圧迫されているのだとか。
俺に屈したゴブリン・レア──名前がないらしいからギ・グーと名づけた──は既に、離反グループが出たときのリーダーではないそうだ。
そのときから数えて、三代目だというのだから、どれだけ圧迫がひどいかわかる。
余談だが、名前をつけてやるとギ・グーはやたらと感激し、俺になついてきた。どうやらゴブリンのコミュニティでは、名前をつけるという行為は、非常に喜ばれるものらしい。
ちなみにもう一匹のゴブリン・レア──最近やたらと槍がお気に入りの──にはギ・ガーとしておいた。
マタザとかでもよかったんだが、なんかカッコ良すぎるからやめた。
名前の付け方?
鳴き声以外に何があるよ?
ゴブリン・レアになったものから名前をつけるというルールを作り、後は備蓄、武器などの点検に移る。
小さな集落だったので、探すのに苦労はしなかったが、その装備の貧弱さにちょっとだけ悲しくなった。
備蓄は、まぁゼロといっても過言ではない。
その日にとってきた物が全てだ。
たまたま多く取れた日には、翌日分ぐらいまであるらしいが。 装備に関しては、破損状況が目立つ皮鎧に、錆びた鉄槍。
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盾などという上等なものはなく、ヘルムとかいうものもない。
この集落にもともと合った斧みたいなのが数本と、農作業に使うフォーク、小さな鎌。
もはや、自分たちの身体を文字通り武器にしているんだろう。
だがそれでは、傷つく個体が増えてこの森での生存競争には不利になるばかりだ。
槍持ちのギ・ガーに命令して、罠の使い方を教えさせる。と同時に、罠の使い方を既に知ってる手下を使って食料を集めさせる。
元リーダーのギ・グーに命令させて、オークの数と居場所を調べさせる。やはり前と同様、生きて戻ることが最低条件だ。行動範囲と数それだけを調べるように命じて、手元から放つ。
占領した村の人口……ゴブ口?
まぁとにかく、数は戦闘員として数えられるのが20ほど、老人、幼生などが30ほどだった。
幼生には、さっさと成長してもらって戦闘に加わってもらわねばならない。
罠の使い方を覚えさせたなら、早速こいつらの教育を始めねばならないだろう。
そうして最大の関心事。
ゴブリンの増殖についての問題だ。
集落全体でゴブリンの雌の数は10ほどいる。
幼生の中に3、戦闘員として数えているのが7ほどだ。
さらに他種族からさらって来た雌が監禁されていた数が3。
人間の娘だった。既に腹の膨れているものもいる。
驚いたことに、化け物になったはずの俺は、それを見て胸の奥に苛立ちを感じていた。そんな自分に苦笑しながら、努めて感情を追い出す。
打算と利益に基づいて、監禁されている雌の価値を考える。
何もかも足りない現状。あるいは人間の手があれば、もっと早くに態勢を整えられるのではないか?
「おい、娘」
見下ろしながら俺は声をかける。
だが、無駄なことだった。虚ろに揺れる瞳には、何も映ることは無く、ぶつぶつと呟くのは死への懇願の声。同様の状態の3人を、俺は憎悪さえこめて見下ろした。
意志無き人形。
ただ望まぬままに異形の子の子供を生み続ける母体。
「ああ、そうか……」
あるいは、この中に俺を産み落とした者がいるのかもしれないと気づいてしまった時点で、俺は処分を決めてしまっていた。
俺の手で、首筋を一閃。これ以上の苦痛を与えないように、俺の母親だったかもしれない者を殺していく。
涙はでなかった。
抗議する老ゴブリンを、殺意をこめた視線で黙らせると、枯れ木を小屋の周囲に積み上げる。
鎮魂の炎は、赤く空を染めて、小屋ひとつを丸々焼き尽くす。
握り締めた拳は、いったい何のために──。
炎が完全に消え去り、手下が獲物を持って帰ってきたのを確認して、俺は眠った。
◇◆◆◇◇◆◆◇
【保有スキル】《彷徨う魂》を獲得。
──いまだ未覚醒のスキルです。今後の経験によって、変質されます。
【加護】冥府の女神の加護を得ました。
──属性として闇と死が加わります。
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3/7《威圧の咆哮》を修正。