宝
【種族】ゴブリン
【レベル】8
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)
ガンラの集落からガイドガゴブリンを追い払うことに成功した俺は、集落の中央でその宝というものを拝見させてもらうことにした。
それに伴って反発するナーサを説得したのは、ギルミだった。
思うところがあるのか、ナーサの持っていた弓を俺の前に差し出す。
「これがガンラに伝わる宝具、流星の弓です」
俺が見てもその価値がわかるはずもないが、何が特別なのだろうか。一見するとただの弓にしか思えない。
「この弓は、矢の先端に火を灯すことが出来ます」
何もない所に火を生み出すということだろうか。
だがそれの何が凄いんだ。
「族長……お願いできますか?」
ギルミの言葉に、ナーサは無言で弓を受け取ると、なんでもない矢をつがえる。
きりきりと引き絞った弦の音が聞こえ、直後風を斬り裂く音とともに矢が射られる。見事な放物線を描いてその矢が、飛ぶ。確かに先端に炎を纏って飛来する矢は、流星のように見えなくもないが。
「あの矢の位置へ矢を集めろ!」
ギルミの放った声に、流星の流れ落ちるさまを見守っていた俺は、気づかされる。
なるほど、これは目印か。
幾人かの射手がギルミの言葉に反応して、矢を放つ。
「この弓の価値、お分かりいただけましたでしょうか?」
つまりこのゴブリンは、この宝は弓を使えるガンラのみが扱えるものであると言いたいのだ。奪う価値など、自身の収集欲を満足させることにしかならないと。
頭の良いゴブリンだった。
「ああ、充分に分かった」
それとそれを扱うガンラの価値もだ。
ほっと息をつくギルミに、隣のナーサが怪訝な視線を送る。
まぁ、ただのゴブリンには難しい話だったか。早い話、ギルミは族長ナーサ以下ガンラを認めさせることによってその安全を図ったのだ。
役に立つことが証明されれば、おいそれと迫害されることはない。
そう踏んでの判断だろう。正しい判断だと言わざるを得ない。確かに俺はゴブリンの力を結集させ、その上に王として君臨することを望んでいる。
力が全てであるゴブリンの階級社会は、その頂点に立つもの次第で天国にも地獄にもなる。
ラ・ギルミは強かなゴブリンだった。
「話は変わるが、他の氏族の話を聞かせてもらいたい」
ガンラの集落にある食料を提供させて、宴会の最中に俺はそう問いかけた。
敵は誰で、味方になりそうなものはいるのか。
「……ゴルドバの長であるクザン殿は中立を守るでしょう。あまり、世俗のことには興味がないゴブリンですので。パラドゥアのアリハルハ殿は、もしかすると敵対するやもしれません。氏族の誇りの強い方ですから」
炎を囲んで上座に俺と族長であるナーサ。それを囲む形でガンラの地位の高いゴブリンや俺の率いてきたレア級、ノーブル級のゴブリン達が思い思いに座を占める。
先ほどのナーサが放った矢は、良い余興になったのだろう。
最初は硬かったが、それぞれが肉を食いながら盛り上がっているようだった。
ギルミの言葉に、俺は思考を巡らせる。
ゴルドバは確か数多の魔獣を使役する一族だったな。そしてパラドゥアは騎獣兵。
ガイドガの怪力と合わせて考えれば、俺の手持ちの兵力では正面からぶつかりたくない相手ではある。
「氏族同士に力関係はあるのか?」
一瞬だけナーサの方を見たギルミは、おもむろに口を開く。
「これまでそのようなことはありませんでしたが、今ではガイドガが他の氏族を圧迫している状態です。パラドゥア氏族はガイドガの勢いが盛んなのを見て、その下につくかもしれません」
「先ほどはパラドゥアは誇り高いと言わなかったか?」
「であればこそ。失礼ながら余所者に膝を屈するぐらいなら、共通の敵を作って共闘するかと」
なるほどな。
「パラドゥアの住処はここから近いのか?」
俺の口元が笑みに歪む。
「距離にして二日西へ。山脈の麓に彼らは居住しています」
「なるほど。ガンラから連れていける人数は、何人いる?」
眼を伏せていたギルミは、はっきりと俺を見据える。
「手勢で15名。我がラ家の手勢のみにて」
面倒なことだ。いっそのこと、すっきりさせてやろうか。
「そうか。ギルミ、今後はお前が──」
「恐れながら」
お前がガンラをまとめろと言おうとした俺の言葉を遮ったギルミからは、眼に見えるほどの必死さがにじみ出ていた。
「ガンラの集落を統べるのは、ギラン様の血筋以外にはございません」
言いかけた言葉を遮られた俺は、笑顔を消す。
「ふん、そうか」
まぁこれ以上追及しても始まらない。
ラ・ギルミは強かなゴブリンだ。レア級の中では、ギ・ザーと並ぶ程度には頭も切れる。だが、それの忠義を誓う対象がなぜ、ラ・ナーサなのだろう。
忠義を誓う対象として、もっと相応しいものがいなかったのだろうか。
少なくとも俺なら、ギルミをもっとより良い地位に引き上げる。
「私はもう寝る」
不機嫌そうに席を立つナーサの後ろ姿を見ながら、俺は一人思案していた。
その背を追っていくギルミについて、なぜなのかという疑問がずっと付きまとっていた。
「なんだ。未練がましく見送って」
呆れたような声に視線を前に戻せば、ギ・ザーが手に肉を持って立っていた。
「うむ。主従の形としてあれはどうなのだろうな、と」
「なんだ。嫉妬しているのか王よ」
眼を見開いて驚く俺の様子に、ギ・ザーは笑った。
「別に全てのゴブリンが王に忠誠を誓う必要などあるまい? 忠誠の対象が別にいようと、要はその力を纏め上げられればそれでいいではないか」
「ふむ……俺は全てのゴブリンの忠誠を得ようと思っていたのだが」
「本気か?」
呆れたというより、諦め気味の視線が俺に突き刺さるが、正直に答える。
「……うむ」
「体がいくつあっても足りん。むろん命もな」
そうだろうか……?
確かに振り返れば、だいぶ無茶をしたという記憶もあるが。
「好きにやればいい。それで俺たちの前に立ち塞がる者がいるなら、それは得難い敵だろう」
ゴブリンでもオークでも、それは変わらないと言いたいのか。
「そういえば、お前は俺に忠誠を捧げているのか?」
我ながら馬鹿な質問だと思わないでもないが、こういう機会でもないとまともに聞く機会もない。
「ふん。敗れた時に喋った言葉は嘘ではない」
肉を食い終わったギ・ザーが立ち上がる。
「さて、俺はもう行く。警戒の任務を変わってやらねばな」
周囲にはガンラと俺の部下を警戒につかせていた。
「世話をかけるな」
俺が自ら警戒につくことは出来ない。それでは部下を休ませることにはならないからだ。
「好きでやっていることだ」
肩を竦めると、ギ・ザーは闇の中へ消える。
その背中に、言葉は出さないが感謝を投げかけた。
流星の弓
矢をつがえて放つことにより矢じりの先端に炎がともる。それによる殺傷力もさることながら、幾多の情報が飛び交う戦場で合図として重宝しそうな武器。
ガンラ氏族の、族長のみが使えるらしいです。
サブタイトルは、誰に対して何が、ということですね。